第162話「ドワーフの鍛冶屋ドゥガル」
バルダーがゲートを潜ってから数分。
ゲートの光がわずかに揺れる中、二人目に来たのはドゥガルだった。
少しだけ疲れの色を見せながらも、その歩みはどこか堂々としていて、いつもの調子に見えた。
「よう、ブリシンガー」
少しだけ照れたように笑ってみせたその声には、普段通りの快活さがあった。
「……まだ、持ってるか?」
ブリシンガーは少しだけ眉を上げて、首を傾けた。
「何をだ?」
「決まってるだろ。俺が打った、あの剣さ」
その言葉に、ブリシンガーは横に寝かせてあるミスリル製の聖剣を手に取った。
「……もちろんだ。こいつは、まだ一度も折れていない。最高の剣だ」
「はっ……そいつは、ちょっと泣きそうなくらい嬉しいな」
ドゥガルは笑った。けれど、その目はどこか潤んでいた。
「正直、あの時は緊張したんだぜ? お前さんに剣を渡すってなった時。過去に使ってたミスリルの剣。それは神様からの贈り物を超えないといけないってよ。……でも、そうやってずっと使ってくれてるなら、本望だ」
「ただの武器じゃない。……お前の魂を預かってると思っている」
その一言に、ドゥガルの肩が、ほんのわずかに震えた。
「……ブリシンガー。お前さ」
「ん?」
「……時々、すげぇ人間臭いこと言うよな。神に創られた戦士だってのに、そんな台詞言われたら、こっちは胸いっぱいになっちまうだろ」
静かな笑いが、ふたりの間に流れる。
「お前の剣に救われたことが何度もあった。そして……お前の明るさにも、救われた。バルダーとの掛け合いには、幾度となく笑わせてもらった。あの時の笑いは、俺の中でずっと残ってる……ああいう時間があったから、今の俺があるのかもな」」
「そりゃ光栄だな。俺は基本、楽しくやりてぇ奴だからよ」
少し沈黙があった。
ドゥガルがふっと視線を逸らしながら、ぽつりと続けた。
「けどな……今回ばかりは、楽しいってだけで済まないんだよな。……俺たちは逃げる。でも、お前は、ここで残って戦う」
「……」
「言わなくても分かってる。お前は全部知ってるから黙ってる。けどよ……俺たちはお前の全部を知らねぇまま、あのゲートの向こうに行かなきゃならねぇんだ」
ドゥガルは拳を握った。
「悔しいんだよ、正直。でもな。お前が勝つって信じてる」
彼はブリシンガーの背中を軽く叩き、彼に拳を差し出した。
「絶対、戻ってこい。戻ってきたら、最高の祝杯を挙げて、一晩中飲もうぜ。……負けても生きて帰ってきやがれ。そしたら、俺が笑って罵ってやるから」
ブリシンガーはその拳に自分の拳を合わせ、静かに言った。
「ああ、楽しみにしてる」
ドゥガルはうなずき、一歩二歩とゲートの方へ歩き出す。その背中には、さっきよりも少しだけ重みがあった。
だが、ゲートの目前で彼は振り返った。
「なぁブリシンガー、覚えてるか?」
「出会ったばかりの頃……俺が鍛冶屋としての夢を語った時、お前言っただろ。“お前なら出来ると信じてる”ってな」
「……今度は、俺たちがお前を信じる番だ」
そう言って、彼は大きく片手を振り、ゆっくりとゲートの中へと入っていった。
最後までどこか明るく、だが確かな想いを残して。




