65- ──〝犯罪ゼロ〟の特異点 #3 ──
『……そして、〝犯罪ゼロ〟の特異点へと至る、もう一つの決定的解決策が〝神の眼〟の実現です』
未だ聴衆からの拍手は鳴りやまない。
『今月二日に参院本会議で成立した〝神の眼〟は、まさに人類史に深く刻まれた出来事でした。
全ての犯罪が百%明らかになる世界の到来は、人類が待ち望んだ、まさに神の加護そのものでしょう。
……しかし、神の眼の実現は、このままでは社会に大きな混乱を招くでしょう。
なぜなら、現在、刑法犯は警察が認知した事件だけで、年間約三百万件あるのです。
──認知件数は氷山の一角に過ぎません。
神の眼により、全ての犯罪が認知されるようになれば、途方もない数の犯罪が一挙に表面化するのです。当然ながら、全国の拘置所・刑務所は瞬く間に定員となり、収容不能に陥るでしょう。
しかし、メガゲートシティの莫大な収容力は、この問題すら解決することができるのです。
メガゲートシティの可能性はこれだけに留まりません。
準備社会、そして、神の眼、それら二つを加味しても、まだ、メガゲートシティには、十分過ぎるほどの空きがあります。
今現在も、二年前に発生した中華四国による内戦・紛争により、難民が大量に発生し続けています。
日本を含めた周辺九ヵ国において、テロリストが紛れているなどの理由を付けて、難民を擦り付け合う醜い光景が繰り広げられています。
苦しむ彼等を見殺しにすることは、あってはなりません。
当然ながら、我々には、人道的見地から彼等を受け入れる道義的責任があるのです。
反対している人々も、神の眼とメガゲートシティがあれば、安心して難民を受け入れることができるはずです。
〝犯罪ゼロ〟の特異点は、我々の手がすぐ届く所に迫っています。
――我々はこれを、なんとしても掴み取らなければなりません。
掴み取りましょう、平和な街を。
掴み取りましょう、平和な州を。
掴み取りましょう、平和な日本を』
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聴衆からの拍手は、一ノ瀬が降壇した後も鳴りやむことはなくずっとずっと続いた。
* * *
一ノ瀬が演説会場内の通路に入ると、イトウが駆け寄ってきた。
「い、一ノ瀬さん! 申し訳ありません。芝浦警察署が何者かに襲撃されました。拘留していたクレイ・シンが逃走し、現在行方を追っています」
「おそらくリエリさんね。見張りは?」
「スタンガンのようなものを受け、意識を失ったとのことです。この会場の警備で人員が手薄になっているタイミングを突かれました、申し訳ありません」
「引き続き、追跡を続けてください」
「はい」




