表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/78

62- ──無力な主張──

 しばらくの間、シンはリエリを労うように頭をポンポンと撫でていると、喧騒が流れ込んできた。

 リエリが埋めていた顔を上げると、涙ぐんだ大きな瞳をシンに向ける。


「デリーターで意識を失ってた人達が、意識を取り戻したみたい」

「出ようか」


「うん! もう一回デリーター使うね。…………え、あれ? 何も表示されない」

「拘置棟内は、ネットが遮断されているから電話もメールもできないし、能力も使えない」


「能力って、ネットに繋がってないと使えないの? 初めて知った……」

「それより、あの女の部下が見張ってたと思ったけど、いなかった? 能力が効かないはずだけど」


「……さっきの警官かな? シンがくれたこの電気が流れるやつで何とか倒せたの」

「すごい、倒したんだ」

「うぅう。怖かった、今までで一番怖かった」


 シンはリエリの頭を撫でる。


「もっと」

「はいはい」


「もっと!」

「よしよし」


 リエリは満面の笑みを浮かべた。

 二人はゆっくりと立ち上がり、檻から出てリエリが来た方向に歩き始めた。その瞬間だった――。


「おい……待てよ、コラ」


 突如、二人を男の声が呼び止めた。

 二人はとっさに声の方に振り返る。


「この声……覆面男か」


 シンはそうつぶやいて、声の方に歩を進める。


「ちょ、ちょっとシン!」


 シンは自身が拘留されていた部屋から、リエリが来た方向とは逆方法に十数メートル歩いて、止まった。シンが横目で檻の中を見ると、そこにはシンが覆面男と呼ぶあどけない顔の少年がいた。少年の目には光が無く、右腕と左肩には包帯が幾重にも巻かれている。


 少年はシンをじっと見据えて僅かに口を開いた。


「ヨオォ……クソッたれのイカれ野郎」

「……お前もここにいたのか」


 少年にそう返すシンの横で、リエリはシンの腕を体に引き寄せ、半身を隠すようにして少年を見た。


「こ、こいつが覆面男? 私達と同い年くらいじゃない」

「そう、こいつが覆面男」


 シンは淡々とリエリにそう答えた。


「テメェ、そこのクソ女とグルだったのか。聞いたぜ、テメェ、アムなんだってなぁ」

「く、クソ女って……こ、こいつ、この殺人鬼!」


 少年の言葉にリエリが顔をしかめた。


「俺に任しとけば、救世主が現れたみてぇに世界は平和になったってのに。お前のせいで全部台無しだ」

「お前のやり方じゃ、世界を平和にできなかったよ」


「ほざけ。テメェのクソ甘いやり方で犯罪者がいなくなるかよ。奴等は人間の面しただけの虫と変わらない。とにかく殺虫剤撒くみてぇに全員ブチ殺せばいいんだ、片っ端から悪を間引かないとこの世界はクソのままだ。それが唯一の根本的な解だ。理解しろ、それができるのは、世界で俺だけだ」


 少年はそう言って、光のない目でシンを睨み付けた。


「この状況でまだそれだけほざけるなら、大したもんだよお前」

「テメェ……俺に上から目線で……」


 リエリがシンの腕を引っ張って口を開く。


「シン! もう行こう! 他の人来ちゃうよ!」

「ああ」


 シンとリエリは、少年の前から立ち去り、リエリが入ってきた入口に向かって歩き始める。


「おいアムゥ!! テメェの甘っちょろいやり方じゃ世界を救えねぇんだよ馬鹿が!! 四の五の言わず俺をこっから出せ! 俺がテメェの代わりに全部やってやる!! なぁ! おい……テメェ……」


 少年の声は、シンとリエリが歩き進むに連れて小さくかき消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ