61- ──よしよし──
女性職員がもたれる受付デスクの横に、リエリは軽快な身のこなしで乗り上げる。
リエリが少ししゃがみ、降りようとした時だった――
「――おい貴様! 止まれ!」
突然、男の声が聞こえ、リエリはビクッと動きを止めて、振り返る。
リエリの視線の先には、体格のいい警官が銃を向けて立っていた。
「この異様な光景……貴様、能力者だな?」
警官のその言葉にリエリの目が泳ぐ。
「な、な、ち、違います! なんですか能力者って!」
リエリはそう言いながら、受付デスクの上で必死に手を横に振った。
「おかしな行動をするな! 手を上げて、そこから降りろ」
「はい!! そうするから撃たないで!」
リエリは指示通りに手を上げ、受付デスクから降りた。
「その場にうつ伏せになれ」
「は、はい!」
リエリがうつ伏せになると、警官は、リエリの背中に膝を立て、腰の皮ポケットから手錠を取り出した。
「い、痛い!」
「黙れ! クソが、ちょうどこんな時に来やがって」
「うぅう」
警官はリエリの左手に手錠をかけると、一方の空いている輪を掴みながら、リエリの背中まで容赦なく引っ張り上げる。リエリの華奢な腕は人形のように力なく背中に曲がった。
「うぅ痛い」
「黙れ! 右手を後ろに回せ」
「は……い……」
リエリは怯えた声で返事をしたものの、潤んだ目は使命感に満ちている。
リエリが右手をゆっくりと後ろに回していく――その瞬間だった――リエリは右手人差し指を立てながら瞬時に腕を前に突き出した。
――その瞬間、「ヴァチ」というショート音が響いた。警官はリエリの左手首を掴んだまま激しく痙攣し、リエリに覆いかぶさるように力なく倒れた。
「うぅうう、お、重いぃ」
リエリは苦しそうな表情を浮かべながら、何とか覆いかぶさる警官から身を抜いた。
「イタタ……ハァ、よかった。シンのメモ通りにブレスレットつけてきて」
リエリはよろよろと立ち上がった後、警官の皮ポケットから手錠の鍵を取り出して、左手の手錠を外した。
「ハァハァ……だいぶ時間経ったから、もう一回《DĒŁĒTĒ》しておかなきゃ」
リエリはそうつぶやくと、宙を何度かタップしていく。
リエリが最後に宙をタップすると、エントランス内に倒れている人々がビクッと体を震わせた。その後、リエリは再びさきほどの受付デスクまで行き、よろよろとデスクを乗り越えていった。
「この人ね、留置係。……たくさんあって分からないから、とりあえず全部持ってこ」
リエリは、うつ伏せに倒れている男性警官の腰にある金属製の輪をベルトから外した。そして、そのまま奥に進み、金属製のドアを開けた。扉の奥には、更に格子状のドアがあった。リエリは、格子状のドアの錠に奪った鍵を順に差し込んでいく。四つ試したところで錠が空き、リエリはドアを開けて先に進んだ。
リエリの左側には留置部屋が並び、リエリは迷うことなく奥に走っていく。何人も拘留者が二やつきながらリエリを目で追った。
二十メートルほど進んだところで、リエリは止まり、拘置部屋の格子を掴んで涙を流した。
「シン! シン! 助けに来たよ! リエだよ!」
「ありがとう。助かった」
「うん! 今すぐ出すね!」
リエリは泣きながら十数個ある鍵を次々に試していく。錠はすぐに開いた。
拘置部屋の錠が開いた瞬間、リエリは勢いよくドアを押した。そして、目に涙を浮かべながらシンに抱きつくと、涙をボロボロと落とした。
「能力の移行は上手くいったみたいだね」
「……うん。でも、何日待てばいいのかわかんなくて不安だった。連絡もつかないし」
「何日で能力を失うのか、実験してみないと分からないからメモに書けなかった」
「褒めて」
シンはリエリの頭を撫でる。
「もっと」
「はいはい」
「もっと!」
「よしよし」
リエリは満面の笑みを浮かべて、顔をシンの腕の中に顔を埋めた。




