41- ──リクの復讐──
昼食を済ませた後、リクカイショウは中年女性に無断で施設を抜け出した。
行く先は、リクの実家だ。
「ここから三十二キロ」と、リクが自転車にまたがりながら二人にそう告げる。
タクシーを拾う金のない三人は、施設の共有自転車を拝借してリクに実家に向かうことにした。
三人は半信半疑のロッカーの力を早く試したくて、うずうずして堪らなかった。
「もし、ロッカーの力が本物なら、銃なんて目じゃないな」
そう語るショウの目は、誕生日に待ちに待ったプレゼントをもらった子供のように意気揚々としていた。
「だな! 本物なら本当に世界を変えれるよ、俺達」カイもショウと同じく目を輝かせた。
「うん」とだけリクは返した。
* * *
二時間半ほどで、三人はリクの実家のすぐ近くにある公園に到着した。
三人は、自転車を公園に置き、徒歩で細い路地を進む。
すぐに一件のアパートが見えてきた。三階建てで、外壁に数多の亀裂のようなシミが目立つ、とても綺麗とは言えないアパート。
「あれが、リクの実家?」カイが尋ねると、リクはコクっと頷いた。
リクの手は小刻みに震え、足は無意識に内股になっている。当然だ。リクはまさにここで母親が連れ込んだ男に毎日毎日殴られ続けたのだから。
「大丈夫か?」ショウは心配そうにリクの肩に手を乗せた。
「大丈夫、やろう」リクは目をキッとアパートの二階に向けた。
「わかった。試すには、男のシリアルナンバーが何かを知らないといけない。間違ってリクの母さんに試してしまいかねないから」カイはそう告げた。
「あいつは決まって、夕方五時になると家に来てた。だからもうすぐ来ると思う」リクの手は先程より更に震えが激しくなっている。
「じゃあ、あそこの生垣に座って待とう。リクはこのマスクして、下向いてて。気付かれちゃうから」カイはそう告げると、リクにマスクを渡した。
* * *
すぐにポケットに手を突っ込んだ男がアパートに近づいてきた。黒のスーツに茶髪、はだけた胸元からはいかつい金のネックレスが光る。男は条例違反の歩きたばこを平然とこなしながら、階段を昇っていく。
「──あいつだ」リクが目を見開いて絞るような声を出した。
「……分かった。じゃあ、やろうか」
カイは素早く男のシリアルナンバーの行を選択、切り替わった年月日の画面で〝BRAIN〟ボタンを押下、リストの〝ALL〟を選択した。
《ŁŌCK》ボタンが淡い赤色を放ちながら点滅を開始する。
「いいか?」カイが尋ねるとリクはすぐに「うん」と返した。
「リクを苦しめたクソ野郎だ。構わねぇよ」ショウが男を睨んだ。
カイは透過する画面越しに階段を昇りきろうとしている男を見据えながら、《ŁŌCK》ボタンを押した。
──その瞬間、起きた出来事は、三人に狂気の笑顔をもたらした。
男はポケットに手を突っ込んだままぐらっと後ろに傾き、そのまま脳天を階段に叩き付けた。そしてそのまま、鈍い音を立てながら二度跳ねるようにして転げ落ち、地面で〝ビダッ〟と音を立てて停止した。
リクはその光景を瞳に焼き付けた。
そして、えも言われぬ高揚感に満たされていくのを感じていた。
頬が紅潮していく。
リクは突如叫ぶ。
「ケッケッケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ」
カイは慌ててリクの口を抑えた。それでも狂気に満ちた笑いを一向に止めないリクをショウがおんぶし、すぐにその場を離れた。
「ケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ」リクの笑い声が静かな住宅街に木霊する。
自転車を止めた公園に着くと、ショウはリクをベンチに降ろした。
「落ち着け、リク。俺を見ろ」カイはリクの肩をぐっと掴んだ。ショウはリクの背中を落ち着かせるようにさすっている。
「ケケケケ、……ケケケ……ケケ……ケ……」
* * *
十数分ほどでリクはようやく正気を取り戻し、我に返ったような表情で「ご、ごめん」と二人に謝った。
「帰ろう、俺達の家に」カイが笑顔でリクにそう告げた。
「うん」リクはコクッと頷く。
「おばちゃん、カンカンだろうな」ショウが苦笑いを浮かべた。
三人はまた自転車にまたがり、公園を出た。
すぐに前方から救急車がけたたましいサイレンを響かせ、三人の横を通り抜けていった。




