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2-22.商人と貴族

「幸運の光教団の第2階位、魔道具の研究をしてる"学者"のケージと申します。」

 俺は簡潔に自己紹介をすると、お辞儀をした。

「儂はセト・ベイカー男爵だ。そう畏まらなくても良い。」

 ベイカー男爵は、そう言うと握手を求めてきた。

 俺が手を差し出すと、ベイカー男爵は老人とは思えないほどがっしりと手を握られた。

 ベイカー男爵は60を超える年齢に似合わず壮年と言えそうな見た目である。頭は白髪交じりのグレーだが、体はがっしりとした印象である。貴族とか商人とか言うと、なんとなくでっぷりとしたイメージだったが、まったくそんなことはない。

「まあ、座りなさい。儂も貴族としての礼節など知りはせぬからな。堅苦しくする必要はないさ。」

 俺は勧められるがままにソファに座る。

 教団で用意してもらった儀礼服を着ているため、微妙に座りづらい。

 俺とミホークは内層側にある貴族の邸宅を訪ねていた。ここ数日、のんびりと落ち着いた生活を送っていたのだが、突然、ミホークによって連れてこられた。

「ミホーク殿から儂のことは、どのように聞いているかね。」

「いえ、特に。オーソン村に関係のある方とだけ。」

 何でも、オービニ王国商人ギルドの偉い人にして貴族であるベイカー男爵が俺に会いたいと言う。貴族と呼ばれる人と会うのは気が進まなかったが、オーソン村とも関係のある人だからと強引に連れてこられてしまったのだ。

 よくよく思い出してみると、、ヤーゴンさんが商人ギルドの出資でオーソン村やいくつかの開拓村が作られたと言っていた。そして、商人ギルドの長がセトと言い、ヤーゴンさんの幼馴染みだと言っていた。

 俺がベイカー男爵について知っているのは、その程度だ。

「ミホーク殿、君らしいと言えば君らしいが、少しは他人と情報を共有したらどうかね。」

 ベイカー男爵は、俺の隣に座るミホークに顔を向けて言った。

「ベイカー男爵、事前情報など不要です。ベイカー男爵の人となりは、実際に自分の目で見て判断させるのが一番なのです。それに、我が教団の者は世俗に疎く、人に興味が少ないですので、いちいち教えていたのでは時間がいくらあっても足りません。」

 さりげなく、ミホークは俺に何かを教えるのは面倒だから嫌だと言い切った。

 ミホークらしいと言えば、そうなんだが。

「本日、ケージさんを連れては来ましたが、何も説明はしていません。交渉事は全てベイカー男爵にお任せしようと考えております。いかがでしょうか。」

 ミホークが、すました顔でベイカー男爵にこれからのことを全て丸投げした。

「ミホーク殿は、いつも人を試すようなことを言うな。儂も商人(ゆえ)、人から試されることに慣れてはいるが、ミホーク殿は殊更(ことさら)人が悪い気がするぞ。」

 物言いもそうだけど、貴族に対して随分と無茶なこと振るものだ。

 ミホークは、どこに行っても、誰に対しても同じように振る舞うことだけは分かった。

 そこは尊敬する。

「ケージ殿。改めて自己紹介からさせてもらおう。儂は男爵位を持っているが、継承権のない一代限りのものでな、周りからは金で爵位を買ったと言われているくらいだ。本業は商人でな。農産物を主に扱うセト商会の長をやっておる。また、王都商人ギルドの役員でもある。と言っても今は、半分、隠居の身でな。商会も商人ギルドも後進に道を譲っており、どうしようもない時のみ口を出す気楽な身分だ。」

 ミホークをちら見すると、うんうんと(うなず)いている。

 知っているのなら教えろよと思う。

 仕事でも誰かと会うのなら、相手の会社のこととか下調べしてから行くのが普通だろう。

 何にもなく突撃させられる方の身になってもらいたい。

「それでな、ケージ殿に来てもらったのは、デリストア領へ同行してもらえないかお願いするためだ。」

 いきなり、話が自己紹介から本題に切り替わった。

 デリストア領ってどこだ。俺は、慌てて視界に地図を表示して調べる。

「デリストア領へは、何をしにですか。」

 知らない地名に焦りながら、時間を稼ぐ質問をしてみる。

「それなんだがな、デリストア領はオービニ王国にとって、どのような役割を持つ領地かは知っておるかね。」

「いえ、詳しくは。」

 時間稼ぎに失敗した。

 俺は、地理も政治も苦手だ。理系だから。

 それ以上に、ヒロモン世界の世界情勢なんて誰にも教わってないので知るわけがない。

「学者とは、対象について深く学ぶことが求められる職種か。とは言え、多少は世事(せじ)にも興味を持った方が良いぞ。人は紙の中に生きるに非ず、人の中で生きているのだからな。」

 ベイカー男爵は、ちくりと皮肉ってきた。が、ちらりとミホークを見た。

 そうだ、そうだ、ミホークにもっと言ってやれ。

 俺や学者にもっと情報を与えろと。

「オービニ王国は、王都と2つの公爵地から成るのは知っておるだろう。」

「はい。」

 知らないけど、頷いておく。

「塩湖の近くにして肥沃な平野に恵まれた地に在る王都、鉱山に恵まれた山脈の麓にあるデリストア領、上質な木材が取れる森にあるセイコマ領。食料、鉱物、木材がひとつの国で全て揃っているため、オービニ王国は小さいながらも豊かな国を築けているわけだ。」

 ベイカー男爵は、講釈好きなのか、俺が何も知らないことを気遣ってか、とても丁寧な説明をしてくれる。

「ところで、昨今の情勢について、どう思う。」

 説明が続くと思って油断した。

 と言うか、ベイカー男爵の話は飛び過ぎである。

 情勢と言われてもな、街のことは詳しく知らないわけだし。

 いや、ベイカー男爵は商人なのだから、商業の状況について答えれば良いのか。

「近年の魔獣の季節は酷いようですね。騎士団は王都の防衛のために常に出兵している状態のようです。行商人も町から町への移動が大変らしく、王都でも品薄になっているものもあるみたいです。」

 ユアンちゃんのためにリボンや布を買った時も、店のおじさんから、いくつかの種類の布は在庫切れだと言われたからな。布だけじゃなく、品薄になっているものも多いと思われる。

「ほう、そのとおりだ。町と町を結ぶ物の行き来が滞っておるのだ。王都やオーソン村の様に自給自足できる町では多少の物不足は苦にならないのだが、デリストア領やセイコマ領での食糧不足が懸念されておる。もちろん、各領地ともに備蓄はあるので、今日明日に食糧不足に陥るというものではないのだがな。それにしても、近年の魔獣の季節は非常に長引く傾向にある。将来的な懸念が大きいということだ。」

 魔獣の季節か。

 プレイヤーの存在する地域は南半球なのだから、北半球は今までどおりのモンスターの発生率にできないものなのだろうか。プレイヤー、すなわち高レベルの冒険者の居る地域に合わせたモンスターの量が湧いて出れば、北半球では町が滅びてしまうんじゃないだろうか。

 それとも、OASISは、プレイヤーが北半球に進出する前に、荒廃した地域を作るつもりなのだろうか。

 俺が考えても何も答えは出ず、ひたすら申し訳ない気持ちにさせられる。

「王都の騎士団は頑張っているように見受けられますが、他の都市の騎士団はどうしているのでしょうか。」

 第4騎士団のガルガンさんは、よほどの用事が無い限り王都に戻ることもできないくらい働いている。

 そのおかげか、王都では外層であっても魔獣が侵入したと言う話は聞かない。

「うむ、デリストア領もセイコマ領も、騎士団の規模も質も王都に匹敵する。デリストア領では、ドワーフを一部隊抱えている上に、鉱山で働く者たちは逞しいからな。一市民ですら立派な戦士だ。セイコマ領も、獣人を多く抱えておる。ちょっとやそっとじゃ魔獣に何ぞ負けはせぬ。」

 おお、ドワーフが居るのか。オーソン村で獣人の人とは出会ったが、ドワーフやエルフと聞くとファンタジーの王道っぽくて良いな。

 デリストア領に行くと会えるのかな。

 いや、王都にも居るのだろうが、普段、教団の外に出ないので機会がないんだよな。

「戦力と言う点では、王都も他の都市も不足と言うほどの不足はないだろう。しかしな、人々がいつでも戦っているわけにはいかん。農作物にしろ、鉱石の発掘にしろ、木材の伐採にしろ、生産活動が充分に行われなければ衰退するんばかりだ。」

「はい、そうでしょうね。」

「時に、儂は位だけの貴族じゃと言った。位だけの貴族と本当の貴族との違いは何か分かるかね?」

 本当に、話題転換と同時に質問してくるのは止めて欲しものだ。

 それに貴族と平民の違いも分からない俺に聞かれても困る。

「さあ、継承権だけではないのですよね。」

「うむ。本当の貴族には、ひとつの義務が課せられておる。いざと言う時には、身を挺して王と民のために戦うと言うことだ。」

 貴族の義務ノブリス・オブリージュと言うやつか

「そのため、貴族には兵を持つ権利が与えられている。魔獣の季節のように事が起きると、貴族は自らの兵を用いて自分の領地と王都を守るために出兵しなければならない。」

 貴族ごとに兵士を抱えているのか。

「儂のように一代限りの貴族は、公的には兵を持てない。実際は、屋敷の警備等のために私兵を持つのが一般的であるが、表向きは使用人と言う扱いになる。なので出兵の義務はない。だから、魔獣の季節だろうが、こうして自分の館に居ることができるということだ。」

 と言うことは、今の時期、内層に居る貴族は一代限りの人が多いのか。

 内層の人口自体減って居そうだ。街の外や、領地を持っている人たちは領地に行っているのかな。

「ところがだ、前回に引き続き、今回の魔獣の季節もとても激しいものだ。恐らく、次の魔獣の季節も激しいと考えておいた方が良い。従来と同じ対応をしていたのでは、民が被害を受ける危険性が増していくばかりだろう。」

「新しい対応が必要だと。」

「そのとおりだ。新しい対応とは何か。既存の騎士団や兵士を増やすことは急には難しいが、これもせねばならんだろうな。それよりもだ、今、問題となっている物の行き来の活性化が急務だ。かと言って、貴族や王宮の騎士団は魔獣の季節への対応で手一杯な状態だ。」

「そこでベイカー男爵の登場ですか。」

 ようやく話が見えてきた。長かったな、道のり。

「儂だけじゃないがな。出兵義務を持たない貴族達に、新しい一手を担わせようと言うのが王宮の指示だ。一代限りの貴族と言うものは、何らかの功績が認められたものに与えられる位だ。つまり、本人が何らかの特技を持った者なのだ。儂の場合は、それが商売だったと言うことだ。」

「では、ベイカー男爵以外の貴族の方も、何らかの役割を割り振られたわけですか。」

「全員が全員じゃない。この問題に役に立ちそうな貴族だな。」

 ここまで聞けば、話は分かる。

 ベイカー男爵は、商売の伝手(つて)と技量で、都市間の物流をなんとかしろと言いつけられたのだろう。

「儂以外にも都市間の物資の移動を命じられた者も幾人か()る。儂の担当は、王都からデリストア領に食糧を届け、デリストア領から鉱物や加工品を王都に運ぶことだ。」

 後は、何で俺が呼ばれたかだ。それへの同行は分かったが、俺じゃなくても良いはずだ。

「護衛は冒険者を雇うんでしょうか。」

「いや、冒険者は雇えん。」

「そうなんですか。」

「冒険者ギルドに属している冒険者は、全て都市防衛のために駆り出されておる。」

 ああ、そうだった。

 俺は義務が課せられると困るので冒険者ギルドへ入るのを止められていたんだった。

「そうすると護衛はどうされるんですか。」

 まさか、俺も護衛に勧誘されるんじゃないだろうな。

 俺は戦いたくないぞ。

「心配せずとも、ケージ殿に護衛を頼もうと思っとるわけじゃないよ。」

 俺の不安が顔に出ていたようだ。

「では、使()()()を使うのですか。」

「いや、使用人の人数はたかが知れておる。屋敷の警備をするので手一杯さ。貴族として兵を持つ権利は有しておらんがな、商人としての私兵を持っておる。」

 何と言う抜け道。使用人と言う言い訳よりも酷い。

 確かに、積み荷の護衛を毎回かき集めて居ては効率が悪い。大きな商会ともなれば、護衛要員として人を抱える必要があるのだろう。

「更に、今回はうちの商会だけでは到底、積み荷も護衛も足りぬからな、いくつかの商会と組んで物資を運搬することになっておる。かなり大きな商隊になるので、大型魔獣の群れにでも出くわさない限り、問題はなかろう。」

 それは良かった。

 俺は、戦うためのスキルは持っているが、戦った経験はほとんどないからな。

 護衛をやれと言われても、どう動いて良いかさっぱり分からない。

「だがな、それでも色々と人手不足なのじゃ。物資、運搬の手段、護衛の頭数までは何とかなっておる。じゃが、医師、大工、料理人等の専門職の者は、なかなか集められなくての。」

 医師に大工に料理人。

 医師は分かるけど、他のは何のために同行させるのだろうか。

 と言うか、どれだけの民族大移動なんだ。

「専門職の者は必要なのですか。」

「ふむ、今回ほどの遠征にでもなれば、それぞれ数人ずつは欲しいところじゃな。」

「何人規模の商隊なんですか。」

「人員で言うと200は超えるじゃろうな。」

「200人以上ですか。」

「1商隊40人規模として、6商隊で隊列を組むからの。儂の所からは3商隊出す。専門職の者も規模に応じて出したいところだな。」

 セト商会ってどれだけ大規模な商会なんだろうか。

 てか、1商隊って単位が何か分からないが、40名規模か。

 そして単純計算で240名。オーソン村の人口の半分近くじゃないか。

 俺は、数字の大きさに驚いてしまった。

「普段は専門職の者など雇わずに商隊の者が兼務するものなのじゃが、これだけの規模だと専門職の者も必要だろう。」

 そろそろ退室したくなってきた。

 護衛としては不要だが、何かの役割として俺を連れて行きたいと。

 そして、俺は断るのが下手だ。

「まあ、こうした話をミホーク殿にしていたらの、打って付けの人材が()ると言われたのだ。」

 俺は、ミホークの方を睨みつけた。

 しかし、すました顔で何事でもないと言う風情で俺に言ってきた。

「ケージさんも、そろそろ他の都市に行きたい頃だろう。同行させて貰えば良い。」

 いや、同行は同行だけど、意味が違うだろ。

「俺では力不足ですよ。医師でもないし、大工でもないし、料理人でもない。」

「しかし、魔道具職人ではあるじゃろ。オーソン村でのことは聞いておる。魔獣を撃退し、結界を修復し、怪我人の治療もしたそうじゃないかね。」

「どこからそれを。」

 俺は、またミホークのことを見た。

「私ではない。」

 ミホークは言う。

 そして、ベイカー男爵がミホークを擁護(ようご)する。

「そうだ、ミホーク殿から聞いたのではない。オーソン村の収穫物を買い上げているのはセト商会だからな。この間のクモ騒動の後にうちの者がオーソン村に行った際に聞いてきたのだ。子グモ素材の状態の良いのが大量に手に入ったと喜んでおったな。」

 そっちルートか。それでは仕方ない。

「ケージ殿がオーソン村の自警団員を手玉に取った話も聞いておるぞ。」

 対人訓練のことか。

 手玉に取ったと言うか、スキル任せにしてただけだからな。

 俺の手柄ではない。

「なるほど、俺のことは調査済みと言うわけですか。」

「そうだな。いくらミホーク殿が頼りになる人間であっても、紹介だけでは雇えぬからな。」

 事前調査するのは構わないけど、既に雇った気でいる。

 どうやらミホークに連れられて、ベイカー男爵に会ってしまった時点で詰んでいたようだ。

 いつかは別の都市に行こうとは思っていたが、魔獣の季節が落ち着いた頃にと思っていた。急な話である。それに、何やら使える人間だと思われて雇われるのは、かなり不安である。正直、自信が無い。

「ケージ殿には無理を言うつもりはないが、魔道具職人として雇われてもらえんか。」

「魔道具職人ですか。」

「ああ、ついでに、何か困ったときには手助けをしてもらえるだけで良い。」

 ベイカー男爵が、さりげなく色々と押し付けようとしてくる。

「手助けをするかどうかは分かりませんが、魔道具職人は必要ですか。」

 俺はリアルの仕事的にも、今の状況的にもこの話は受けるしかないだろうなと考えていた。

 だからと言って、何でもするつもりはない。

「もちろんだ。商隊が使う船や馬車は、それぞれ結界の魔道具を組み込んでおる。これだけの大隊でデリストア領まで行くことを考えると、壊れることも想定されるからの。」

「普段はどうされているんですか。」

「うちの商会では、予備を持たせておる。しかし、普通は壊れたら壊れっぱなしだろうな。今回の6部隊の内、3部隊は恐らく予備を持っておらんじゃろう。リーガス商会はケチで有名だし、オールト商会とアマルス商会は小さなところだから金がないじゃろ。」

 40人規模の商隊を作れるのだから、小さな商会と言うこともないだろうけどな。

「まあ、後は料理を手伝ってもらえると助かる。」

「料理ですか。」

 魔道具と料理の関係性が全く見えないので、おうむ返しに聞いてしまう。

「ふむ、ケージ殿は魔物料理もできると聞いているが。」

「え。」

 俺はヒロモンの中で料理をしたことがないぞ。と言うか、魔物料理?

「当然できます。ケージさんの腕は大貴族が抱える料理人にも匹敵する腕です。」

 ミホークが勝手に答える。

 いや、まて、どこからそんな話に。

 確かに、スキルは色々あるので、料理スキルもあるんだろうが、魔獣を料理するのか。

「デリストア領までの道のりは長いからの。途中で魔獣を討伐することもあるだろう。その際、魔獣を食料にできれば商隊の食糧に余裕が生まれ、とても助かる。」

「なるほど。」

 なるほどなんだが、魔獣って食えるのか。

 オーソン村では、ヤマイヌを焼いて埋葬していたから、てっきり食べられないのかと思っていた。

 いや、ヤマイヌやクモを食べようなんて考えもしなかったな。

「お任せください。」

 そして、ミホークが勝手に答える。

 と言うか、俺は同行を引き受けてないぞ、まだ。

「魔獣を料理できる人って、居ないんですか。」

()らんな。魔獣を料理できるような料理人ならば、普通はどこかの貴族のお抱え料理人になっとるさ。」

「ケージさん。魔物料理は料理スキルの上位スキルだ。魔獣を始めとしたモンスターは身に魔素が混じっているので、通常の料理スキルでは調理できない。魔物を使った料理は珍しいのさ。」

 ミホークが耳元で補足説明を入れてくれる。

 と言うか、そう言う話は本当に予めしておいて欲しい。

 ミホークに言っても無駄だが。

「なるほど。」

 もう、完全に俺はデリストア領まで行くことになっている。

 そして、道中の魔道具の修理と魔獣の調理担当のようだ。

 この話は覆せないだろうな、今となっては。

 俺は諦めて、もう行く前提で話をすることにした。

「では、旅の日程や報酬等、詳しい話を聞かせていただけませんか。」

「おお、引き受けてくれるか。いや、助かるよ。」

 ベイカー男爵は立ち上がると、俺の手を取って縦に振り回した。

「おおい、リンドガルド。」

 ベイカー男爵が人を呼ぶと、部屋に比較的若い男性が入って来た。

 俺と同じくらいの歳だろうか。20後半から30くらいか。背丈も俺と同じくらいか。

「皆さま、お初にお目にかかります。セト商会のリンドガルドと申します。」

 柔らかな表情を浮かべ、丁寧に挨拶する。

 何と言うか、声量もあり、堂々としているが、それは安心感を与える態度に感じられ、優秀な商人なんだろうな。

「リンドガルドは、今回の大商隊の副隊長を任せている。実質の責任者だ。ケージ殿、リンドガルドから詳しい話を聞いてくれ。」

 ベイカー男爵がそう言うと、リンドガルドは俺の方に近づいてきた。

「ケージ様、どうぞよろしくお願いします。詳しい話は、別室にてさせていただきますので、どうぞ付いてきてください。」

 副隊長と言う立場からすると、同行予定の俺は従業員に当たるのに、とっても応対が丁寧だ。

 リンドガルドに(うなが)されるまま、俺はその場を退席した。

 ちなみに、ミホークは残ってベイカー男爵と悪巧みするようだ。


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