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幕間-1

「どうだ。お姫様のご機嫌は。」

 声をかけたのは白髪の男だ。

 50を超えるか超えないかといった歳だろう。

「分かりませんよ、お姫様が何を考えているかなんて。」

「そりゃそうだ。」

 答えたのは若い男だ。

 若いと言っても、30は超えている。

 二人が居るのは白く、扉のない四角い部屋であった。

 ひとつの壁面に遠見の鏡が所狭しと並べられており、ひとつひとつの鏡が彼らの言うお姫様を断片的に映し出しているのである。

 高貴な御方は直接その姿を見ることは許されず、間接的に、フィルター越しに見ることしか許されていない、らしい。

 白髪の男と若い男は雑談をしながらも、鏡からはほとんど目を離さない。

「例の件、大変だったんですってね。」

「ああ、そう言えば、お前さんは後から来たんだっけ。」

「ええ、当日は非番でした。翌朝、こっちに来てみたら夜番の人がまだ全員居て、それでもこっちは通常の仕事はしろよと言われて。何が何だか分からないうちに終わりましたからね。お姫様が大暴れしたと言う話は聞こえて来ましたが、何をしたのかまでは。」

「正直、こっちだって分かってないけどな。お姫様が籠の外へと飛び出そうとしたらしい。」

 若い方は、ちょっとだけ首を傾げた。

「籠の外ですか。お姫様って、外に出られるんですか?」

「さあね。でも、お姫様は出ようとしたみたいだぞ。」

「どうやってですか?」

「ありとあらゆる魔法をぶっ放したって話だ。」

「魔法ですか?」

「魔法だよ。それもお姫様の最大出力でな。」

「それは…。」

「あの時はな、監視装置が一斉にアラートを発したんだ。そりゃあ、もう、見事なくらいに全ての鏡が真っ赤になってな、サイレンも鳴らしっぱなしだったさ。ああなると、パニクってしまって人間、何もできないな。そもそも、俺たちに何かができるわけでもないんだが、関係各所に連絡するのすらままならなかったよ。」

 白髪の男は、その時を思い出しながら、苦笑いを浮かべながら話した。

「あれだけアラートが鳴ったからな、当然、こっちが連絡する前に向こうも気づいていたさ。気づいたからって、誰も何もできるわけじゃないのが混乱の原因さ。ひとつのアラートならマニュアル通りに対応すれば良いが、全アラートが鳴るって場合は、想定外だったからな。結局、一晩経っても何も変わらず、警報装置を切って終わりさ。」

「で、お姫様は外に出られたんですか?」

「どうだかな。少なくとも、今、お姫様の監視をしているわけだから、完全に出て行くことは失敗したんだろうな。」

「まあ、そうでしょうが…。」

「お前の言いたいことは分かるよ。あの時、籠は無事だったのかってことだろ。お姫様が同じことをしでかさないとは限らないし、その時、籠が壊れでもしたらってことだろ。」

「ええ、心配です。」

「今後は、大丈夫だとのことだ。あの時は、多分だが、障壁を通り抜けたものもあったんじゃないかな。あの時の混乱っぷりからして、何事もなければ大騒ぎにはなってなかったはずだからな。」

「そうですよね。」

「向こうの世界からも、かなり怒られたらしいしな。」

「そりゃそうですよ。ある日、突然に魔法を喰らうんですから。普通なら戦争ですよ。」

「多分、なんらかの被害が出たんだろうな。何かまでは想像も付かないが。それであの後、障壁の強化をして、お姫様に今後、こういうことはしないようにと(さと)したらしい。」

「どうやってですか?」

「向こうの世界にもお姫様と同格の方がいらっしゃるので礼節を持って接しましょうとかじゃないのか、分からんけどな。」

「お咎めなしですか。」

「罰を与えようにも、与え方が分からないだろう。」

「お姫様は言うこと聞いて大人しくしてくれるんですかね。」

「だからこその監視だよ。何かあっても何もできないし、見てるだけなんだがな。」

「見てるだけってのも、それはそれで神経使うんですけどね。」

 監視を続ける二人の男にとって、鏡越しに感じるその姿は、とても強大で恐ろしいもののように思われてならなかった。

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