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死星の涙と服選び③

「サイズが合いそうなものと、最近の流行りものを片っ端から持ってきましたよ。アウスバッハ様にはこちら、今度入荷する新作衣装のご案内です」


「……エミナルの取り寄せる服はどれもバランスが悪いから」


「そ、そんなことないですよぉ!」


 シェルンは受け取った派手な装飾の封筒の中身を一瞥してため息を漏らす。


「……あとで見ておく。私のより、リクトの服」


「あ、ああ……」


 流行りと言われてもいまいちピンとこないが、テーブルに並べられたのはどれもファンタジー世界の村人が着ていそうな、素朴なデザインの服だった。


 どれも無難そうだが、とりあえず目に留まった一着を手に取る。


「あ、これとか良さそうじゃないか?」


「リクト様、お目が高い! これは最近、冒険者の間でも特に人気の一品でして――」


「……却下」


 言いかけたところで、横から伸びてきたシェルンの手に服をぶん取られた。

 理由は聞くまでもなかった。


「ポケットが左に一つしかない。……アンバランス」


「えぇ……。デザインだろ、これ」


「不揃いは、悪。エミナル、もっとこう、均衡バランスの取れた服はないの?」


「バ、バランス、ですか……?」


 困惑するエミナルさんをよそに、シェルンの要求はエスカレートしていく。


「リクトの、この、イケメンな顔に見合う左右対称の服はないの?」


「もう、顔のこと言うのやめてもろて……」


 流石にそろそろ言われるのが辛くなってきた。何よりシェルン自身は本気で言っているからタチが悪い。そもそも褒められている気がしない。




「……これがいいと思う」


 シェルン監修による厳格な「検閲」を経て、7回目の試着でようやく俺の服が決まった。


 無地の白いシャツに、落ち着いた色のベストとズボン。至って普通の格好だ。それでもシェルンは首を傾け、目を細めながらぶつぶつと言っている。


「……許容範囲だと思ったけど、やっぱり襟の角度が、コンマいくつか……」


「エミナルさん、これに決めます!  これにしますから!」


 これ以上着替えさせられたら、俺の心の左右対称がゲシュタルト崩壊する。


「あ、は、はい!  かしこまりました。それではリクト様……」


 エミナルさんは小首を傾げ、職業用スマイルを浮かべてこう言った。


「――ここで装備していきますか?」


「……おお! おおー! まさか本場の『ここで装備していきますか?』が聞けるなんて!」


俺が興奮する理由を当然2人は理解できないらしい。まぁ無理もないか。



「じゃあ、ここで装備していきます!」俺は元気よく答えた。一度言ってみたかったんだ。


「あ、はい、ではお会計、しめて800クレになります」


「えっと……800、クレ?」


当然ながらここの通貨を持っていない。俺はおずおずとシェルンを見る。


「シェルン……あの、お金……」


「え? リクト、お金持ってないの?」


「いや、ほら……俺、今日この世界に来たばかりだし」


 ここでようやく、シェルンが「あ」という顔になった。


「あー……そっか。……はぁ……そうだよね」


 露骨に「金のかかるペット」を見るような目で俺を見る。


「か、借りるだけだから!  出世払いするから!」あてはないけど、取り敢えず言ってみる。


「いいよ。貸し借りは主義じゃないから」


 そう言って、彼女はポシェットから革の巾着を取り出した。


「……えっと、いくらだっけ?」


「はい、800クレになります」


 シェルンの眉間に微かに皺が寄る。それって結構お高いんだろうか?


「……あの、リクト?」


 おずおずと振り返るシェルン。


「えっと……なに?」


「リクトのさっきまで着てた服って下取り出す気ない?」


「学校の制服なんですけど……」


 藁にもすがる思いで査定してもらった結果、異世界の壁を超えたレアアイテム――俺の制服は、わずか「15クレ」という、ゴミ同然の査定額を叩き出された。

 

 もちろん、買取は全力で拒否した。



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