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94『パスタを茹でる水がない』

地下10階層で睡眠をとり、先に「ダンジョン・アベンジャーズ」が11階層へつながる階段を降りて、その1時間あとに我々も降りた。


まだまだ先は長い。

これから何日もかけてさらに深い階層へと潜っていく。



五郎は「60階層のティアマットを倒せば最強を名乗ってもおかしくねぇだろ」とボキボキと指の骨を鳴らしている。


真希は「ここまでも魔石は少しは拾えてるけど、60階層より下はまったくの手付かずだから沢山見つけられそう……楽しみね」と珍しく浮かれていた。


久留里は「もしニューヨークダンジョンで記録更新したら、絶対に富士山ダンジョンのときより話題になっちゃう! ヤバいよね!」とこっちは浮かれすぎだ。


鯨山さんは「久留里さんのためにも私がしっかり戦いを見ないとですね。誰も撮ったことがない念写を撮りたいです」と顔の横で拳を可愛くグーに握った。



世界最大のダンジョンにはそれぞれが様々な期待を胸に抱いて挑んでいる。

……けれど雪奈だけは複雑な面持ちだった。



「異世界への扉がここの最下層にあればいいけど……何度も期待しては駄目の繰り返しだったから、なるべく期待はしないようにしてるんだけどね」


「これまでってどんな調査をしてたんだ?」


「基本的には最下層を目指すの。だって途中の階層に扉はないと思うし」


「そっか。でも世界中にダンジョンはあるわけだし、調査できるのはごく一部に限られちゃうよな」


「うん。だから各国のギルドにお願いして、魔石とか無視して最下層に向かってもらって何か「違和感」がないか調べてもらってるの。それで気になる報告があったら私はそこに潜ってる。もちろんギルドには謝礼を支払ってるよ、かなり高額の請求をされちゃうけど」



そうか……それで写真集を出したりして調査協力費を稼ぐ必要があるのか。


雪奈はダンジョン内で稼ぐのを捨てて、とにかく最下層を目指すスタイルでやっている。そんなのに付き合ってくれるのは彼女と同じように「異世界を目指す探窟家シーカー」だけだが、そういう人間もいないわけではないそうだ。


雪奈を襲ったストーカーも……そのひとりだった。

つまり目当てが「異世界」ではなく「雪奈」そのものの人間が寄ってきてしまう。


雪奈はその美貌の《《おかげ》》で写真集が売れたり、CMに出演したりして他のギルドへの調査費が支払える。

だけどその美貌の《《せい》》で仲間を見つけるのが危険を伴うものになっていた。


ランキング1位を目指している俺は、あるかどうかわからない雪奈の異世界への扉探しを積極的に手伝うつもりはないが、本当に見つかりそうならば協力は惜しまない。


雪奈はもし見つけても世間には公表しないという約束をしてくれたし、それに見つかればルーシェルを異世界に帰すことだって可能になる。


ルーシェルが素直に帰ってくれるのかは、また別な問題だけど……。



10の倍数階層での野営時は「ダンジョン・アベンジャーズ」と一緒になるので、彼らの中で一番腕っぷしが強いのが五郎と腕相撲勝負をしたり、お互いの記録員による念写画像を見せ合ううちにかなり打ち解けていった。


特に運搬係ポーターのニールさんというちょっと丸っこい感じの愉快な男は久留里と一緒に面白いポーズの念写画像を何枚も撮ったりしていた。


30階層での野営では俺たちより2日前にダンジョンに入ったイタリアのギルドも合流した。彼らはパスタを茹でる水がなくなったということで撤退中だった。

「第二次大戦のイタリア軍かよ!」と全員同時のツッコミが入る。



さらに潜り、40階層を超えるとモンスターはかなり強くなっていた。

ケルベロスよりもちょっと弱いくらいの魔獣が普通に出てくる。



そして────地下52階層でそれは起きた。


ダンジョンを進んでいると、「ダンジョン・アベンジャーズ」が、モンスターと戦っている場面に遭遇した。

彼らはカマキリのような前脚が巨大な鎌になっている昆虫型のモンスター3匹に苦戦しているようだった。


これまでに何度か「ダンジョン・アベンジャーズ」に追いついてしまうことがあり彼らの戦いぶりは知っていたが、厳しいことを言ってしまうと彼らのレベルではもうこのへんで諦めた方がいいんじゃないのかなという感じだ。


俺が加勢するか聞くと彼らはそれを断った。

まぁ、苦戦はしているがなんとか倒せそうな感じでもあったので俺たちは少し離れた場所で彼らの戦いを見守った。


なんとか3匹目も倒して、剣を鞘に収めた彼らは先に進んだ。

だけどモンスターは倒されると霧になって消えるはずなのに……3匹目だけは霧になっていなかった。


これは──マズいぞ。



俺が動くより早く「私の《境界感知(ボーダーセンス)》が警告! モンスターはまだ生きてる!」と雪奈が叫んで走り出した。



え? と振り返る「ダンジョン・アベンジャーズ」のメンバーたち。

メンバーから少し後ろの離れた場所にいて、大量の荷物を担ごうとしていた運搬係ポーターのニールさんに起き上がったカマキリが襲いかかる。



「こっち!」



雪奈がカマキリの注意を引きつける。雪奈は剣を振って斬りかかるがカマキリの方が早く、そしてリーチも長かった。


────ヒュン。


大きく、鋭利な鎌が、雪奈の首を──


彼女の首が胴体から離れて──ああ……。


雪菜が即死する場面を見るのは精神的にキツいが、雪奈は《影身転位(ファントムシフト)》で無事だ。ショックを受けて目を逸らしている場合じゃない。


俺は走り、古いビデオのように像が乱れている雪奈の死体に気を取られていたカマキリを斬った。

振り返ると、首がつながっている雪奈が俺のすぐ後ろに立っていた。


モンスターがちゃんと倒せていたかの確認を怠ってしまうほどに疲れていた彼らは肉体的にも精神的にも、もう限界だ。

俺と雪奈に説得されて「ダンジョン・アベンジャーズ」は撤退することを決断した。


去り際にニールさんは雪奈の手を握って何度もお礼を言っていた。

これでニューヨークダンジョンで一番深い位置にいるのは西新宿ギルドとなった。



「もうこのダンジョンでは《影身転位(ファントムシフト)》は使えなくなっちゃった。構わないけどね、他の人は即死回避なんてできないのが当たり前なんだし」


「そっか……じゃあもう使えないってことを忘れないでくれよ」


「うん、気を付ける」



ふと思った。


雪奈はソロプレイヤーに望んでなったわけではないが、もしかしたら他人を助けようと勝手に体が動いてしまう彼女は自分のことだけを気にすればいいソロだったからこそ「安全」でいられたのかもしれない……と。



その後、我々は59階に野営地を作り、翌日に備えて休息をとった。


ついにここまできた。


次は未討伐の60階層の主────ティアマットとの戦いだ。




次回

エピソード95『激闘! ティアマット!』

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