134『アイテム鑑定所』
西新宿ギルドではダンジョン内で入手したアイテムの売却は真希が担当をしている。
アイテム鑑定を行う場所へと向かう社用車の中で、真希はハンドルを握りながら鑑定について説明してくれた。
ダンジョンで手に入るアイテムは武器、防具、道具の3種類がある。
そして鑑定士は「武器の攻撃性能」「防具の防御性能」「道具の効果」を調べることができた。
「武器の攻撃性能」「防具の防御性能」に関してはゲームのように「攻撃力+170」のような具体的な数字までは出せない。
「コモン → アンコモン → レア → エピック → レジェンダリー」という5段階評価となっている。
先日、真希が“魔王軍装備”を鑑定に出してみたら、五郎の「ティアマットの大盾」が唯一のレジェンダリーで、他はすべてエピックだったそうだ。
また、「炎耐性」「跳躍補助」というような武器防具に付与されている効果もある程度は調べられるらしい。
「道具の効果」に関しては、道具は攻撃力や魔力に強化がかかるアクセサリー類が多いのだが、どんな効果があるのかを調べることができる。
我々が上層階で手に入れた“魔獣の門”のような特殊すぎるアイテムは「効果不明」となることが多いそうだ。
鑑定士には「鑑定スキル」を持った人しかなれない。
スキルはダンジョン内でしか使えない。
なので彼らの「職場」はダンジョンだった。
真希は砂利の駐車場に車を停めた。
バンタイプの社用車のハッチバックを跳ね上げてアイテムが入っているダンボールをおろし、2台の台車に乗せた。小さ目のアイテムはリュックに突っ込んだ。
駐車場のすぐ隣にある地下1階層しかないダンジョンが「鑑定所」だ。
看板も装飾もなく、ただ「鑑定所」とだけプレートが打ち付けられていた。
ダンジョンに入って階段を降りると、そこには木製のカウンターが設置されていた。
受付の女性にアイテムを全部預けて、書類にサインをする。
ダンジョンの中にこのような商業のための施設が入っているのは、なかなかに新鮮な光景だった。
俺と真希はダンジョン内のベンチに座って鑑定を待った。俺たち以外に鑑定を待っているのは40代くらいの男性がひとりだけだった。
「……あいかわずの閑古鳥ね」
「そうなのか?」
「世界中のダンジョンは攻略されまくっていて、アイテムボックスは空ばっかり。だから鑑定所の仕事も最近は闇オークションなどで手に入れたアイテムの真贋鑑定とかがメインだそうよ」
「なるほどね」
「だから今回みたいに13個も持ち込むなんて、まずありえない……鑑定結果がとても楽しみ」
そういえば真希はお金のためにダンジョンに潜っているんだったな。たしか以前、引退後に不動産と株式投資だけで悠々自適な生活がしたいとか言っていた。
上層の神殿タイプダンジョンに魔石がないとなると、今後はアイテム類の売却益がギルドの収入となっていく。
真希のためにも良い結果になるといいんだが……。
「西新宿ギルド様、お待たせ致しました」
受付の女性に呼ばれて俺たちがカウンターの前に行くと、メガネをかけた50代後半くらいの男性が現れた。
この鑑定所の主任だそうだ。
「これほど一度にお持ち込みされるとは驚きました。つかぬことをお伺いしますがこれらのアイテムはどこで入手されたのですか? 過去のオークションにも出品されたものではないようですし」
「企業秘密です」
「ふふふ、なるほど承知しました。このようにたくさん持ち込まれるようになればこの鑑定所も以前のような活気が取り戻せるんですがね……ではこれが認定印付きの鑑定書と鑑定結果一覧でございます」
男性は紙の束をカウンターの上に置いた。
真希は鑑定結果一覧を手に取り、俺が隣から覗くと見やすいように少し紙を傾けてくれた。
【ファルシオン型刀剣:付帯効果(ガード崩し)】
【白銀の細剣:付帯効果(急所補正)】
【魔導ローブ(グレード・レア):付帯効果(魔力増幅)】
【紅玉の首飾り(グレード・レア):付帯効果(魔力回復補助)】
鑑定結果一覧にはこのような感じで、今回持ち込んだもののグレードなどが書かれていた。
「コモンやアンコモンはございませんでした。すべてレア以上のグレードでございます。これほどの逸品を一度に鑑定させていただいたのは初めてです。手が震えっぱなしでしたよ。貴重な体験をありがとうございました」
「全部、レア以上……それはすごいな」
俺が鑑定料を支払う間も、真希はずっと鑑定結果一覧を無言で眺めていた。
返却されたアイテムを車に積み終えると、真希は鑑定結果一覧の紙を俺に渡してきた。
「その鑑定結果一覧には、過去に市場へ出た類似品の落札価格から算出した予想価格が書かれているの」
真希は一度言葉を切り、唾を飲み込んだ。
「……合計で、1億2500万円よ」
「1億2500万!? マジかよ……」
「マジよ」
たった二日。上層の一部を探索しただけで、この金額だ。
「ちょっと驚きすぎて喉が乾いちゃったからジュース買ってくるわ。勇人もなにか欲しい?」
「いつもクールな真希でも動揺するのか……、まあ、するよな。じゃあ、コーヒーお願いします。ブラックで」
真希は長い髪を揺らしながら近くにあるコンビニへ行った。
そして俺が社用車のそばで鑑定結果一覧を見返していると、ショートカットの女性が遠慮がちに声をかけてきた。
「あのう……お車に名前があるのですが、西新宿ギルドの方でしょうか?」
「はい、そうですが? 一応、俺が代表です」
「そうでしたか! いつも蛇澤真希さんにはお世話になっているんです。蛇澤さんのご援助のおかげで助かっている子供たちが大勢いるんですよ」




