135『お金の使い道』
「私は探窟家の遺児を支援する組織に所属しております」
ショートカットの女性が差し出した名刺には「探窟災害遺児育成機構・三池彩」と印刷されていた。
「貧困国では自分のレベルに見合っていないダンジョンに挑戦して亡くなってしまう探窟家が少なくなく……残されたご家族への公的支援もないので困窮しているケースが多いのです」
「近年はアイテムも魔石も取り尽くされているから、無茶をしないとお金にならないしな」
「……おっしゃる通りです。そのような人々をすべて救うことは不可能ですが、せめて子供だけでも支援しようというのが私たちの組織なんです」
女性は具体的な金額は言わなかったが、真希は相当な額を子供たちのために援助しているっぽい……おそらく探窟家として手に入れた報酬のほとんどだ。
缶ジュースと缶コーヒーを持ってコンビニから戻ってきた真希は、俺と女性が話しているのを見て、一瞬顔をギョッさせたように見えた。
そしてほんの少しだけ頷くようにして女性に挨拶すると、さっさと運転席に乗り込んでしまった。
社用車は西新宿ギルドのオフィスに戻るために夕方の東京の街を走る。
「探窟家の遺児を支援している組織があるなんて知らなかったよ」
「あの団体は各国政府と提携してる正式な支援機関。資金の流れも全部公開されてるし、外部監査も入ってるし、一応、現地も見てる」
「うんうん、それなら安心だな。前に子供のころに家族のことで色々あったと言ってたけど、やっぱり同じように困ってる子供が見過ごせないのか」
「見過ごせないというよりは……見たくないからよ」
その言い方は、どこか自分に言い聞かせているみたいだった。
現代のトレジャーハンターである探窟家は、ハイリスクハイリターンの職業で、実力次第で相当稼ぐことはできる。
西新宿ギルドは現在、AチームにもBチームにもかなりの報酬が支払えるようになってきていた。
そのお金を手にした彼らの使い道はもちろん人それぞれだし、どう使おうが自由だ。
そして真希の使い道は、自分のためではなく他人のためだった。
真希はこのことを隠していたから俺はこれ以上はこの話題は出さなかった。
彼女はいつも通りのアンニュイとクールが混じった表情で前を見てハンドルを握っている。
俺たちは無言だったが、この時間は嫌いじゃないし、妙な心地よさがあるのはなぜだろうか。
オフィスに戻ると無言とは真逆の褒めて褒めて星人が走ってきた。
「ユッピー! フォロワー50万人超えたよー! 褒めてー!」
「はいはい、すごいすごい」
「あとねー、今夜だったらパパはうちにいるみたいだから会えるよー」
「本当か? じゃあ、すぐにでも行きたいんだけど」
「オッケー! パパに伝えておくねー!」
よし、これでルーシェルの国籍戸籍取得について相談ができるぞ。
「魔王様♡ファンクラブ本部」「池袋Bダンジョン」「鑑定所」と移動して次は「久留里の実家」と、今日は忙しい1日だな。




