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131『雪奈の予感』

ルーシェルがこっちの世界に来た“動機”については、あえて詳しくは話していなかったが、雪奈が何よりも先にそのことを聞いてくるとは思ってもいなかった。



「ルーシェルさんはこっちの世界に興味があったから来たの? もし戻れるなら戻りたいって考えているの?」


「それは……」



ハチ公の隣にいたルーシェルは返答に悩んでいるように見えた。

そしてしばらく下を向いて考えたあとに彼女は「わかりました」と言うと雪奈の前まで歩いてきた。



「……ではお話いたします。私がこちらの世界に来た理由はユウト様にお会いしたかったからです。そして……皆様が異世界と呼ばれている私が元々いた世界に帰るつもりはありません」


「勇人くんに会いたいから? 他に理由はないの?」


「はい……ユウト様とずっと一緒にいたい。それがすべてです」



全員、ルーシェルの言葉に固まった。

まあ、そりゃそうだろうな。一国のお姫様が祖国を捨てて来る“動機”としてはあまりにも……だもんな。


雪奈は片手で頭を抱えていた。



「やっぱりそうだったのね……そんな予感はしてたのよ。そういう特別な雰囲気があったもの……」



予感がしていた……のか。

特別な雰囲気って……まあ、ひそひそと怪しかったけどさ。



「いがみあう魔族の王と人間族の姫の許されない恋……それってまるでロミオとジュリエット……」


「いや……雪奈……あのさ」


「そのロマンスに反対する邪魔者がいないこちらの世界で、ふたりは結ばれなかった愛をついに……そうなのね、そういうことだったのね」


「いやいや、ちょっと待ってくれよ、俺は……」


「……ユキナ様」



ルーシェルが俺の言葉を遮り、雪奈はルーシェルを見た。



「私が勝手に押しかけてきただけなんです」



少し寂しそうな笑顔でルーシェルがそう言うと、雪奈は黙ってしまった。



とりあえず他にも気になることがあればダンジョンを出たあとに聞いて欲しいと俺は言い、全員は今日の攻略の準備をはじめた。


ローブを羽織るだけで準備が終わってしまう俺は、白いロングブーツの靴紐を結んでいた雪奈の近くに行った。



「あのさ、雪奈。異世界のこととか黙っていてごめんな」


「ううん、大丈夫。勇人くんが言えなくて悩んでたのはわかってるし。きっとその時その時の判断で言わない方が良いって考えたんだろうなって思ってるよ」



紐を結び終えた雪奈は身体を起こして、まるで居合切りの達人のように鞘から剣を抜き放つ動作を何度も繰り返した。



「それに18年間追い続けたものが「妄想じゃなかった」っていうのが実はすごくほっとしてるの。異世界を目指そうって気持ちはさらに強くなった。もちろん前に約束した通りもし行き方を見つけても公表しないっていうのは約束する」


「そうか……うん、ありがとう」



雪奈は鞘に剣を収めた。

カチーンという音が、余韻を残している。



「……ねえ、勇人くんとルーシェルさんって何年前に出会ったの?」


「俺にとっては750年くらい前のことだけど、ルーシェルにとっては3年前の出来事らしい」


「そうなのね、なんだか不思議ね」


「まったくだよ」



俺の横に立っている雪奈は顔は前に向けたまま、まつ毛の長い目だけを俺に向けて薄く笑って呟いた。



「魔王とお姫様、かぁ……そっか…………うん」

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