130『……というわけなんです』
雑居ビルの5階に入っていた西新宿ギルドにステータス診断をしに行ったのは9ヶ月くらい前のことだ。
そのときからずっと隠していたことを、全員に伝えた。
俺が異世界でかつて魔王だったこととルーシェルが同じ世界でお姫様だったことを話してから、これまでの経緯をできる限り詳しく話した。
全員、口をポカンと開けたまま聞いている。
去年の夏頃、残業時のうたた寝の5分間に異世界で魔族の王として1000年の人生を経験したこと。
魔王の人生を終えて残業時に戻った自分には、魔王時代に自力で手に入れた4つの特別なスキルが備わっていたこと。
ルーシェルとは魔王に転生して250年目くらいに知り合ったということ。
そのルーシェルは“試練の洞窟”と呼ばれている異世界に勇者を送る装置を「逆行」してこっちの世界に来たこと。
消失してしまったダンジョンXが“試練の洞窟”のオリジナルで、世界中にあるダンジョンはルーシェルが因果に干渉したことで増殖してしまったものだということ。
その俺の話を聞き終えたギルドメンバーたちは納得してくれたのか、まだ信じきれていないのか、顔を見ただけではまだわからない。
「ええと、つまり……社長は前世が魔王だってことなんだよな?」
「前世とは微妙に違うんだよ。過労死しかけて蘇生して、その一時的に仮死状態になった間の出来事なんだ」
朝食の手を止めて俺の話を聞いていた久留里は、ジャムのついたパンをひとかじりしてから挙手した!
「はいっ、質問! じゃあユッピーがこっちの世界にも魔王軍を作ったのは、世界征服とかを企んでるからなのー?」
「俺が作った装備がちょっと禍々しいせいで勝手にネットで魔王軍って言われはじめただけだよ。そもそも久留里がアップした画像が原因じゃないか。世界征服なんて企んでないし!」
「でも魔族の王様なんだし、悪いこといっぱいしてたんでしょ?」
「魔族といっても人間族とは見た目と信仰している神が違うってだけだ。それと長い報復の連鎖のせいでいがみ合っていただけで、どっちが正義とか悪とかないよ」
真希は俺ではなくルーシェルに質問をした。
「その“試練の洞窟”というのは、あなたの世界でよく作られていたものなの?」
「数百年に一度くらいの割合で人間族が窮地に見舞われた際にたびたび作られたと聞いています。必要に迫られた強い想いがないと作れませんので比較的平和な時代では忘れられた存在になっておりました」
「そう……もしかしたら何度か作られた“試練の洞窟”が、こっちの世界各国にある“神話”の元になったのかもしれないわね」
民話やファンタジーに興味のある真希っぽい仮説だ。
真希はそのまま話を続けた。
「とりあえず、三法師雪奈が18年間探し求めていた異世界は本当に存在していたってことなのね。でも世界中にあるダンジョンが異世界に繋がっているのかはまだわからない……と」
「ああ、そういうことだ。バグで自動生成されたものだからな」
それからいくつかの質問が続いた。
魔王時代のことに関しては、記憶がかなり曖昧になってはいたが俺は質問に対してなるべく丁寧に答えていった。
「社長のいかれたスキルや、ルーシェル嬢の存在は謎すぎたから言ってくれてモヤモヤが晴れた気はするな」
「異世界で魔王でこっちの世界でも魔王ってヤバすぎない? 草はえるー!」
「勇人は勇人だし……私は別にどうでもいいわ。勇人のおかげで西新宿ギルドは変われたのだし」
五郎、真希、久留里はそこまでショックや忌避感のようなものは見せてはこなかった。それだけで、俺は少し救われた気がした。
だけど雪奈だけは、少し様子が違った。
彼女のその表情は、悲しんでいるのか怒っているのか……そのどっちにもとれた。
ずっと無言だった雪奈は俺を一度だけ見てから、ルーシェルへ視線を向けた。
「ねえルーシェルさん、あなたは何故こっちの世界に来たいと思ったの? なにか理由があるんでしょ?」




