129『異世界の旅人・1』
人間族居住地区と魔族居住地区の狭間にある街・イムリ。
この場所は、かつては激しい戦闘が繰り広げられた戦場だった。
俺が求めている人物がいるかもしれないという話を頼りに、そのイムリを訪れた。
しかし街の商店や宿屋を回ってみてもこれといった情報はなかった。人を探すにはこの街は大きすぎた。
俺は酒場に入ってカウンターに座る。
今日も歩き通しで疲れた、一杯ひっかけてから今夜の寝場所を探そう。
カウンターの椅子には俺と同じような人間族や、あきらかに魔族と思われる者が並んで腰掛け、テーブル席を見ると賭けカードゲームに興じている人間族と魔族の姿も見えた。
店主の口髭の親父さんが注文と俺がどこから来たのかを聞いてきた。
「お〜そうかい、ハイナスタリ家の領地からか、そりゃ随分遠くからの旅人だ。イムリにようこそ」
「この街は人間族と魔族が仲良く暮らしているんですね」
「仲良くか! かははっ、くだらねぇトラブルだらけだぜ。だけどまぁイムリは他とくらべりゃ両種族が入り混じってる街だから一緒に仕事をすることは多いし、お互い身近な存在ではあるな。うちの店だって従業員は半々の割合なんだぜ」
店主は蜂蜜酒が入れられた真鍮のカップを俺の前にドンと置いた。ここでは酒と注文したらこれが出てくる。
背中に蝙蝠のような羽が生えた魔族の大男から銅貨を受け取った店主は、木の実が入った小皿を持って俺のところにきた。
「千年魔王が死んで10年後に魔王の悲願だった和平が成立して……今年でもう15年目になるか。だが両種族は何千年もいがみ合ってきて、まだたった15年だ。変わってくのはこれからだろうよ……この木の実は魔族居住地区の特産品でな、遠路はるばる来てくれたあんたへの俺からの気持ちだ」
店主はこの街がそれなりに長いようだし、酒場というのは情報が手に入りやすい。
俺は店主に尋ねてみることにした。
「親父さん、ちょっと探してる人がいて……」
「俺がガマスだ。アンタかい? “試練の洞窟”に興味があるって物好きは?」
背後から低いダミ声がして振り返った。
俺が探していた男は老学者のような風貌だと勝手に想像していたが、現れたのはボロ布を纏ったトカゲ男だった。
俺は椅子から立ち上がり、右手を差し出した。
「サリトル・ファーレスだ。失われた秘術である“試練の洞窟”について調査をしている。あなたの知見をお借りしたい」
ガマスの縦長の瞳孔をした目が、品定めをするかのように俺をじっと見つめた。
第九章・完
次章『第十章 真実』
ここまでお読みいただきありがとうございました。
自分が異世界で魔王だったということをついにバラしてしまった奥野勇人にたいする西新宿ギルドメンバーの反応から次話は、はじまります。
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