126『セーフルーム』
秘宝守護兵が霧になって消えた大広間。
アイテムボックスを開ける者を排除しようする敵はもういない。
「こういうのを開けるのはよ、やっぱギルドの代表者だろ」
「いやいや、今回の功労者の五郎だと思うな」
俺と五郎が譲り合いをしている隣で、雪奈は真剣な顔をしてアイテムボックスを観察している。
「……もしかしたら人喰い箱の可能性もあるんじゃない?」
「ええ? そんなこと……あるの? あんな強敵と戦わせといて、それはさすがに酷くないか?」
「ここは前人未到の上層階なんだから、どんなトラップがあるかわからない。なんでも疑う……そうやって私は生き残ってきたの」
「……ボールが入っていたわよ」
雪奈が警戒している横で、真希はまるでそんな空気を意に介さないように、すでに箱の蓋を開けていた。
真希は中に入っていたアイテムを俺に手渡す。
「はい、どうぞ」
「あ……ども。うん、本当に……ボールだ」
大きさはテニスボールくらいだろうか?
表面は艶を失った鈍い銀色をしていて、不思議な重みが掌に沈んだ。
1センチ幅ほどのラインが地球儀の赤道のようにぐるっと一周あって、そこには小さな文字が彫られている。
俺はその文字が読めたが、ここでその内容を伝えるわけにはいかなかった。
真希はこのアイテムに価値があると踏んでいるようだった。
「過去に同じものが見つかっているのかはわからないけれど……きっと相当なレアアイテムよ、ダンジョンから出たらすぐに鑑定ね」
「あ、ああ……そうだな」
扉の方をずっと見ていた久留里が俺のローブの裾をクイックイッと引っ張った。
「ねえねえユッピー、この部屋ってもう中に敵はいないし、扉閉めちゃったら安全じゃないかな?」
「え? あ、そうか!」
久留里が言う通り、扉さえ閉めてしまえばここはセーフルームだ。
下層階では「ボスがいなくなったフロア」が休憩場所だったが、上層階では「扉がある部屋」が休憩場所として使える可能性が高い。
今後、他のダンジョンの上層階を攻略するにしても、このセーフルームがどこにあるのかという情報はかなり重要になってくる。
……もちろん、今回のように難敵を倒してからでないとセーフルームにはならないのだが。
あれ? もしかして秘宝守護兵がいてもアイテムボックスに近づきさえしなければ安全なのか?
だけど、あんなのがいる部屋では安心して寝れないよな……やっぱ。
扉を閉めて今日はこの場所で野営をすることになった。
《幻界収蔵》に入れておいたレトルト食品を温めて食べ、寝袋を並べて全員は寝た。
もちろんこの大広間も暗くならないのでアイマスクは必須だ。
しばらくしてから俺は静かに起き上がり、少し離れたところでハチ公に寄りかかって寝ているルーシェルの肩をちょんちょんと叩いた。
アイマスクを取ったルーシェルはキョトンとした顔をしている。
「ユウト様? いかがなされ……」
「しっ! みんなを起こさないように大広間の奥の方に一緒に来てくれ」
「は……はい……」
俺とルーシェルはみんなから30メートルほど離れた場所の柱の影に移動した。
そこで俺はアイテムボックスから手に入れたボールを取り出して、ボールに書かれていた文字を、そのまま異世界語で読んだ。
────従獣に投ず。詞「ネル・オルハ」にて封ず。
再投にて顕現す。同じく詞を要す。非契の獣、入らず。一器一獣。
『ユウト様……それって……』
『ああ、このボールの取り扱い説明だよ』
俺の異世界語につられたのかルーシェルも異世界語で話してきた。
気づけば俺たちは、こちらの世界の言葉ではなく、あちらで使い慣れた言葉で会話していた。
『このボールは自分に従う魔獣なら1体だけ中に入れることができるんだ。これまで発見されたことのない超レアアイテムだね』
『魔獣を中に入れる……ということは……』
ルーシェルの瞳が、ぱっと花が咲いたように輝いた。
『良かったな。これでハチ公を他のダンジョンへも連れていけるぞ』




