120『モフモフしていないけど』
黒く太い体毛は逆立ち、三つの顔は大きく口を開けて鋭い牙を見せつける。
ひさしぶりに遭遇したケルベロスは相変わらずの凶暴な外見のモンスターだった。
グルルルル、と低い唸り声をあげながら我々から距離をとっている。いつ襲い掛かろうかとタイミングを見計らっているらしい。
だけどこいつの攻略法は以前戦ったからもう知っている。
檻に閉じ込めてしまえばいいだけだ。
まずはケルベロスの周囲に《闇築因子》で土の塀を作って閉じ込めてしまう。
その次は土の階段を作り、階段の上から真希が矢を放ち、五郎が飛び降りて倒す。
俺と目が合った真希と五郎は無言で頷いた。
言葉は交わさずとも、ふたりとも作戦を理解しているようだ。
「よしじゃあ、行くぞ! 《闇築因子》!」
…………あれ?
何も起こらない。どういうことだ?
これまで意識してこなかったけど、《闇築因子》を使うときはいつも地面が土だった気がする。
そしてここはタイルになっている床……もしかして土の地面じゃないと発動しない?
魔王時代も《闇築因子》は野外での防衛土塁や高台作りばかりでタイル床の屋内なんかで使ったことなかったから、知らなかった……。
「すまん……作戦変更だ! 真希! とりあえず矢で牽制して足を止めてくれ!」
しかし真希は弓を構えようとはしなかった。
「待って、ユウト……何か様子が変よ」
「え?」
ケルベロスを見た。
たしかに様子が変だ。さきほどまでの攻撃的な雰囲気が消えて尻尾を左右にふりふりしている。
俺たちは警戒しながら、ゆっくりとケルベロスに近づいた。
ケルベロスの3つの頭が俺の顔をいっせいに見る。
来るのか! と身構えたその直後、ケルベロスはその場にどさっと倒れた!
そして仰向けになって、腹を見せて体をくねくねさせている。
犬が飼い主の前でするやつだ。
「あのう……ユウト様のことをケルベロスだと思っているのでは?」
「俺がケルベロス? でもルーシェル、なんだってそんな……あっ!」
俺が着ているこのケルベロスのローブか!
モンスターの死骸から武器や防具を作り出す俺の《妖器賜与》はただ外殻や表皮を素材とするのではなく、そのモンスターが生きていたときの特性も付加されている。
「つまり、俺を生きたケルベロスと認識してるってこと?」
「はい……そして親か、あるいは群れのボスだと感じているのかもしれません。ほら、あんなに舌を出して……はっ、はっ、って声出してますし」
「…………完全にただの犬だ」
人類初のダンジョン上層階でのモンスターとの遭遇は、こうして我々の「完全勝利」で終わった。
俺たちふぁ現在いる場所は、左右に柱が並ぶ長い空間……柱廊のど真ん中だった。
柱廊は俺たちの立つ位置を中心に、両方向へまっすぐ伸びていて奥がどうなっているのかは見えない。
俺たちはとりあえずケルベロスが現れた方向に歩きはじめた。
するとケルベロスが後ろについてくる。
なんだか……モジモジしているように見える。見た目はおろしいのでちょっと不気味だ。
ルーシェルはケルベロスのところまで行った。ケルベロスが下げた頭をルーシェルが撫でている。
「ユウト様、この子も私たちの仲間にしたらいかがでしょうか? 私がちゃんとお世話いたしますので……お願いします!」
「まるで猫を拾ってきた小学生みたいだな……でも猫みたいモフモフしてないし、可愛くもないけど……まあ、いいけど、もし連れていくんなら名前があった方がいいからルーシェルが決めてくれ」
「私が、名付け親に……う〜ん」
ルーシェルは腕を組んで真剣に考えている。
そしてしばしの長考の後……パンッ!と手を重ねて鳴らした。
「では……ハチ公で!」
三つの頭が同時にぴくりと上がった。




