119『神殿ダンジョン』
中野Cダンジョンの地下1階層の天井に四角い穴ができた。
俺は《闇築因子》でせり上げた床をさらに高くあげて、全員は頭上の穴に吸い込まれるように入っていった。
世界中にあるダンジョンは「「鍾乳洞タイプ」と「迷宮タイプ」のほぼ2パターンだった。
「鍾乳洞タイプ」の地面は石で土で、壁はゴツゴツとした岩肌。天井からはつららのような鍾乳石がぶらさがっていることが多い。
時々狭い穴を通らされたりする自然が作り出したようなダンジョンだ。
一般的な迷路のような感じではないので迷うことは少ない。
高価な魔石が産出されるために、探窟家のメインの稼ぎ場所でもある。
「迷宮タイプ」は石を積み上げて作られていて、炭鉱跡や地下牢という表現が近いかもしれない。人工的に作られた雰囲気で通路は直角に曲がって進む。
こちらのタイプは鍾乳洞タイプよりも比較的出現するモンスターが手強く、魔石がないかわりにアイテムボックスから武器や装備や魔道具を回収できる。
探窟家にとっては、強くなるためのダンジョンという存在だ。
どちらも壁や天井は発光しているのでたいまつなどは必要ない。
そしてどちらもボスがいる階層は広いワンフロアになっていることが多かった。
我々を乗せた床が、上層階に到達した。
上層階は鍾乳洞タイプでも迷宮タイプでもなかった。
それはまるで────古い神殿のようだった。
床はタイル張りで、天井はかなり高く、その天井を古代ギリシャの遺跡にあるような縦に溝が入った太い柱が支えている。
全体は白っぽい石でできているはずなのに、長い年月を経たようなところどころに黒ずみやヒビが走っていて、妙に現実感があった。
神官が歩いてそうな場所なのに人の気配だけがまるでない。
静かすぎる。
音があるとすれば、俺たちが床に着地したときの靴音だけだった。
コツン。
その音が高い天井へ吸い込まれて、少し遅れて返ってくる。
「ダンジョンの上層に……こんな空間が……」
そう小声で言った雪奈の身体は少し震えているようだった。
「話を聞いたときは半信半疑だったがよ……ははっ、なんだよこりゃ」
五郎は自分の目が信じられないというような感じで苦笑いしている。
「なんか……すごいところに来ちゃったね」
久留里がいつもの明るい声を少しだけ潜めて言った。
珍しくテンション高めに騒がないあたり、この空気に飲まれているんだろう。
「ここ、本当にダンジョンなの? もっと神聖な……」
真希が周囲を見回しながらつぶやく。
その気持ちはよくわかる。
少なくとも俺たちがこれまで潜ってきたどのダンジョンとも似ていない。
地下のダンジョンが“狩場”だとしたら、ここは明らかに違う。
────胸の奥で、妙な確信が膨らんでいく。
俺たちは今、人類が20年間見つけられなかった、ダンジョンの真実の姿を目撃していた。
「勇人君……私の《境界感知》が反応してる。かなり強い敵が向かってきてる……でも」
「でも?」
「この感覚……前に戦ったことがあるボスモンスターかも」
雪奈は剣を鞘から抜き、五郎は腰の後ろから斜めに下げていた両手剣を構えた。
五郎は以前はその両手剣を背中に装着していたが、現在の彼の背中にはティアマットを素材にして作った大盾がある。
左右に柱が並ぶこの廊下の奥から向かってくるモンスターが見えてきた。
その特徴的なシルエットでそれが「何」なのかはすぐにわかった。
なるほど……いきなりこれか。
そりゃあ上層階のチュートリアルとして下層階が必要なわけだ。
それは過去に外苑前“ハズレ穴”ダンジョンで出会ったボスで、俺が現在身に纏っているローブの素材となったモンスター。
3つの顔を持った巨大な黒い犬。
────地獄の番犬・ケルベロスだった。




