116『天井の謎』
魔法を覚える目的で中野Cダンジョンに潜った西新宿ギルドメンバーとダンジョンマスターの三法師雪奈は、最下層ボスを倒して地下一階層まで戻ってきていた。
我々は地上に出るための階段から30メートルほど離れた場所に集まっている。
俺の手に乗せられた“正解ルートへと導いてくれる羅針盤”の針はピンッと垂直に、真上に向かって立っている。
この場所からちょっとでもズレると針は落ちて、いわゆる普通の方位磁石のような状態になる。
「天井までの高さは……10メートルから15メートルの間くらいだよな。あそこに上層階に行ける扉のようなものがあると思うんだけど……真希ならここから天井がどうなってるか見えるか?」
「見えるけど……とくに変わった部分はないわ。ただの石の天井で文字やレバーのようなものもなさそう」
この中野Cダンジョンは迷宮タイプのダンジョンだ。
地下2階層から9階層は天井までの高さが3メートルくらいの迷路になっていて、この1階層と最下層の10階層はわずかに弧を描く高い天井のだだっ広いホールになっていた。
「そうか……とりあえず見てくるかな。ちょっとみんな待っててくれ」
俺は様々な構造物などを地中から形成するスキルである《闇築因子》で、自分の立っている狭い範囲だけを持ち上げた。
ゆっくりと俺の体は上にせりあがっていき、そして天井に到達した。
ホールの中心に向かって湾曲している石造りの天井で、触れても何も反応はない。
でもよくよく考えたら、もし「上に行ける場所」だけ異質な感じになっているのだったら、20年におよぶダンジョン攻略の歴史の中で、世界のどこかのダンジョンで「上に行ける場所」は発見されていたはずだろう。
なにかアイテムが必要なのか? それとも「開けゴマ」的な呪文とか?
《闇築因子》で持ち上げた床を戻して、みんなのところに戻った俺に雪奈が話しかけてきた。
「勇人君、どうだった?」
「よくわからなかった。色々試す必要があるかもしれないな。それと今日は五郎がいないから一旦ここから出て、また明日でも来ようかと思う」
「そうね……今日は全員疲れているものね」
そう言って天井を見上げた雪奈は少し残念そうな顔をしているように感じた。
雪奈は“ダンジョンの向こう側”へ行くために最下層を目指すのに行き詰まりを感じていたのだろう。
だから上層階の存在を、はやく確認してみたいのかもしれない。
全員はダンジョンから出た。
近くのマンションに住んでいる雪奈は徒歩で帰っていった。小さくなっていく彼女の後ろ姿が振り返って手を振ってきたので、俺は手を振りかえした。
帰りは中野ブロードウェイに寄って名物の8段になっているソフトクリームを食べようと思ったのだが、着替えを用意していないことに今更気がついた。
そんなことは気にもしない久留里と真希はダンジョン装備のまま車から降りて行ってしまい、駐車場に停まっている社用車内には俺とルーシェルだけが残った。
「ふたりが戻ってきたらオフィスに行ってそこで着替えて今日は終了だ。ルーシェルは魔法を覚えられて良かったな」
「ええ……そうですね……」
ルーシェルは心なしか元気がないように見えた。はじめてのダンジョンでさすがに疲れているのかな?
「着替えが終わってから、ユウト様のご自宅にお伺いしてもよろしいですか?」
「俺の家に?」
「大事なお話があります……ユウト様に」
後部座席に座るルーシェルのエメラルド色の目は────何かを思い詰めているように光った。




