115『先行者利益』
世界中に突如ダンジョンが出現して20年。
民間にダンジョン探索が開放されて18年。
人類は魔石やアイテムを求めて潜り続けた。
強大なモンスターとの戦いの先にある手つかずの階層を目指して数多のギルドが苛烈な競争を繰り広げた。
現在、世界中のダンジョンの八割近くが最下層まで到達されている。
まだ未制覇なのは、超高難度のダンジョンか潜る価値のないダンジョンくらいだ。
────ダンジョン攻略の時代はもう終わった。
そんな言葉が数年前から囁かれはじめている。
探窟家の人数は、5年前をピークに減少しだしている。
アイテムも魔石もほとんど取り尽くされてしまい、リスクに対してのリターンが見合わなくなってきていた。
月に人類が行かなくなったように、ロマンだけでは飯は食えないのだ。
けれど、もうすぐ状況は変わる。
なぜならば……
────ダンジョン攻略の新時代がこれからはじまるから。
ダンジョンの外観は巨石だ。
だけどそれは「ここにダンジョンがあるというシンボル」なだけで、巨石の下部にある入り口からは亜空間へとつながっている。
そんな亜空間に作られているダンジョンを、人類は下へ下へと潜り続けていた。
けれど俺は気がついてしまった。
────ダンジョンは上に向かってのぼれるということに。
しかもそれはどうやら「正解ルート」の可能性が高い。
もしかしたら人類はダンジョンが登場してからずっと「チュートリアル」のようなものを愚直に挑んでいただけなのかもしれない。
先に気づいた者だけが、すべてを持っていく。
それはどの時代でも変わらない。
金鉱脈を最初に掘り当てた者。
誰も見向きもしなかった土地を先に買った者。
新しい技術にいち早く投資した者。
────世界がその価値に気づいたときには、もう勝負はついている。
後から来た者がどれだけ必死に追いかけても、最初の一歩が生み出した差は簡単には埋まらない。
それが「先行者利益」であり、ダンジョンも同じだ。
そこに最初に手を伸ばした者は、世界そのものを塗り替えることができる。
そして、情報こそが最大の資産になる。
どのような魔獣がでるのか。
どの階層に何が眠っているのか。
どうすれば上層へ到達できるのか。
その答えを最初に持つ者は、巨大な魔石やレアアイテム……そしてさらに遥かに大きな価値を手にする。
いずれ世界中のギルドが真似をする。
国内1位も、世界1位も、すぐにこのルートへ群がってくるだろう。
だからこそ重要なのは、誰よりも早く動くことだ。
俺には、そのための準備がすでに揃っている。
現代日本で社畜として叩き込まれた理不尽への耐性。
魔王として1000年を生きた知識とスキル。
西新宿“魔王軍”ギルドという最強クラスの仲間。
世界がまだ眠っているうちに、俺たちは最初の頂へ辿り着く。
ダンジョン攻略の新時代────その最初の勝者は、俺たちだ。




