114『下じゃなくて上』
ルーシェルは俺に言った。
こっちの世界に来るために“試練の洞窟”に入って、階段を降りている途中で突然眩しい光に包まれて正二十面体水晶体ボスと出会った、と。
それを聞いたときに妙な違和感を覚えた。
そして世界中にあるダンジョンはバグで増殖したものなのに、オリジナルであるダンジョンXにいなかったモンスターがなぜか出現する。
それもずっと違和感だった。
それら違和感に対する解答は────あまりにも単純だった。
俺はたぶん眉をしかめながら笑っているような顔をしていたのだろう。その変な表情を見た雪奈が心配そうに声をかけてきた。
「勇人くん? どうしたの?」
「世界中に突如ダンジョンが出現して20年……ずっとみんな勘違いしていたんだ」
「勘違い?」
「俺たちはダンジョンは下へ下へと潜っていくのが“当たり前”だと、何も疑わなかったんだ。下層階に降りていく階段しかないんだから仕方がないけどね」
俺は床に落ちている羅針盤を拾い上げた。
そして中野Cダンジョン地下一階層の高さ10メートル以上ある天井を見上げた。
雪奈は大きく目を見開き、血の気が引くような顔をしてから身体を震わせて同じように天井を見上げた。
真希も久留里も俺が言いたいことに気がついたようだ。
「まさか……そんな……」
「そのまさかだよ、雪奈」
ルーシェルを見ると、彼女は「あっ」と口をあけて、その口をすぐに手で隠すように覆った。
ルーシェルは“試練の洞窟”の階段を降りて、異世界からこっちの世界に来ようとした。
つまり、こっちの世界から異世界に行くには階段をのぼる必要がある。
ダンジョンXは地下40階層が最下層だったのだろう。
そこまでの道中にケルベロスも、石の竜巻も、ティアマットもいなかったが、別にそれもおかしい事じゃない。
あいつらはダンジョンXの中にいたんだ。ただし、地下にはいなかっただけだ。
“試練の洞窟”のオリジナルであるダンジョンXの地下1階層には、どこかに上に行けるポイントがあったんだ。
それはバグで増殖した世界中のダンジョンも……同じだった。
羅針盤は、いつもは方位磁針のように針が水平に回転して、行くべき方向を指し示してくれる。
だけど現在俺がいるこの場所では、針は垂直に、上に向かって立っていた。
この真上に「ある」ということだろう。
誰も“上へ行く”という発想を持たなかった。
ダンジョンは地下に潜るものという先入観が、探索そのものを縛っていた。
ダンジョンは本当は上にのぼっていくのが正解ルートだったのに。
これは……ダンジョン攻略が根幹から変わるぞ。
────しかもその「真実」に気がついたのは「俺たちだけ」だ。
第八章・完
次章『第九章 我々だけが知る新世界』
ここまでお読みいただきありがとうございました。
この物語は現時点で全体の2/3は終わっている感じです。
のこり1/3がどうなっていくのか。色々と「仕掛け」をご用意していますので最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。




