112『羅針盤』
ずっとモヤモヤしていた違和感への「答え」が、突然にやってくることがある。
……そしてそれは、だいたい偶然だったりする。
ボスである透過蜘蛛を倒したあと、ルーシェルはこのダンジョンの魔素量が他のダンジョンと同じくらいまで低下していると教えてくれた。
ってことは、もうここで魔法の“ひらめき”を得るのは難しいのかもしれない。
だけど、とりあえず全員が新しい魔法を手に入れたし十分だ。
全員じゃなかった……俺だけ覚えてない。
もうちょっと使い勝手の良い、最強じゃないそれなりな魔法が欲しいのに。
地下一階に戻った俺たちはダンジョンから脱出する階段に向かって歩いていた。
帰路で転移魔法は使わなかった、というか使えなかった。
久留里はボスを倒したあとに新しく覚えた光の鎖を何度も出して遊んでいたら、魔法を使うためのエネルギーがゼロになってしまったのだそうだ。
その久留里はパーティーからひとりだけ遅れている。
「お〜い、久留里。もうちょっと急いでくれ。ダンジョン出たらブロードウェイ名物のアイスクリーム食べるぞ」
「やったー! 私8段ソフトねー! わわわわっ!」
こっちに向かって走った久留里は思いっきり、ずっこけて尻餅をついた。
昭和の漫画かよ! とツッコミを入れたくなるような見事な「ズコーッ!」だった。
そして────見えた。
「いてててっ」
「おいおい、大丈夫かよ。ほら、手を出して」
「あ、ありがと……はっ!」
久留里はスカートをパっと下に引っ張って、顔を真っ赤にした。
「みっ……見た?」
「見た……小悪魔服に合わせて黒なんだな」
「はがががっ!」
そりゃあ、あんな短いスカートなんだからコケたら見えるだろ。
久留里は「そこは見てても、見てないよでしょ!」と訳のわからないことを大声でわめいた。
胸元に手を持っていった久留里はあたりをキョロキョロとしている。
「ない! 私のコーちゃんがない! どこ? どこ?」
「コーちゃん? ああ、あのハズレアイテムの羅針盤のことか」
「ハズレアイテム言うなー!」
羅針盤には細いチェーンが付いていて、久留里はいつもネックレスのように首からぶら下げていたのだが、それがなくなっていた。
あたりを見回すと一瞬キラっと光るものが見えた。
羅針盤だ。
さっき久留里が転んだときにチェーンが切れて飛んでいってしまったのだろう。
俺は床に落ちている羅針盤の近くまで行き、拾おうと身体を屈めて手を伸ばした。
その自分の手は止まった。
────え?
羅針盤の────針────が。
そう、「答え」みたいなものは、突然にやってくることがある。
それは偶然だったのかもしれないけど、もしかしたら必然だったのかもしれない。
なにしろ中野Cダンジョンは、自分にとって色々と縁が深いダンジョンだから。




