103『東京ダンジョン巡り』
ルーシェルは「魔法を覚えたい」と俺に訴えた。
俺が「それは駄目だ」と言ってしまえば彼女はそれに従うかもしれない。
だけど……それでいいのだろうか?
俺はルーシェルと一緒に都庁舎のすぐ隣にある新宿中央公園を散歩しながら考えた。
危険だとか、正体がバレるかもしれないだとか、彼女にとってネガティブなことばかりが頭に浮かんできてしまう。
けれど魔法を使えることで彼女にとってポジティブなことだってある。
たとえば、魔法が使えれば戸籍や国籍を手に入れたあとにどこの国でも生きていくことができる。探窟家には学歴も職歴も関係ないのだから。
つまり、人生の選択肢が増える。
それにルーシェルは自分の隠された才能に幼いころから気がついていて、魔法に憧れていた。憧れが現実になるのは素晴らしいことだ。
とりあえず、試してみてもいいのかな。
まず魔法を覚えてみて、それからまた考えたっていいんだから。
「……わかった、じゃあやってみるか。君が魔法を習得するのを手伝うよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「魔素が多いダンジョンだと魔法がひらめきやすいとしても、魔素量を測定する方法がない。だけど君は俺の新居に漏れていた微量な魔素に気がついた。もしかしたら君ならダンジョンごとの魔素量が感覚でわかるかもしれないな」
「もし私に魔素量の判別ができるなら、一番魔素量が多いダンジョンに潜ってみればよいのですね?」
「そういうことだ。だけど“魔法をひらめきやすいダンジョン”なんてあるならとっくに有名になっているかもしれないけどな」
「そう……ですよね……」
「まぁ、とりあえず魔素の多いダンジョンを探してみるか。どうせ明日から休みだし東京都内を車で回ってみよう」
「またドライブデートなのですね! でもいつかは一緒に馬に乗って色々な街に行きたいです!」
「馬は……ハードル高いな……」
そして土日を使って「魔素の多いダンジョン探し」をすることになった。
魔素を調べるだけなので(いまは目立ちたくないし)ケルベロスのローブは着ないでダンジョンに入った。
地下1階層に潜っては、ルーシェルが魔素量をメモする──それを繰り返した。
ルーシェルは予想通り、魔素量の違いを感覚的に判定することができた。
俺たちは様々な大きさの「迷宮タイプ」「鍾乳洞タイプ」「ハズレ穴」をまるでスタンプラリーのように順番に回っていった。
日曜日の夕方。
俺たちは東京都と神奈川県の境にある町田市のダンジョンに入っていた。これが週末のダンジョン巡りのラストだった。
「東京って広いのですね。地図で見て知ってはいましたが、こうやって実際に移動してみるとすごく実感できます」
「向こうの世界の都市はせいぜい10万人規模だったけど、東京は1000万人以上が暮らしてる都市だからな」
「ユウト様とずっとご一緒で嬉しかったです。海の近くで食べた焼き鳥や鰻の肝を頂いたのが楽しかったです。食べ歩きのようなことは下品だと言われて許されませんでしたので」
「あ〜、江東区ダンジョンそばの砂町銀座商店街だね。俺もはじめて行ったんだけど楽しかったな……で、ここで最後になるけど魔素量はどんな感じ?」
「ここは少し多めですが……飛び抜けてというほどではありません」
ルーシェルは数字をメモ帳に書き込んだ。
彼女は定期的に魔素を浴びるために入っていた「中野Cダンジョン」を基準に魔素量を数値化しているらしい。
「そっか。じゃあ一番魔素量の多いところに深く潜ってみるか、あるいは次の休みに東京の外にも出てダンジョン巡りを続けるか、だな」
「あの……おそらくですが……」
ルーシェルはメモ帳をパタンと閉じた。
「中野Cダンジョンが……」
そして一拍、間を置いてから────静かに言った。
「特別に魔素が濃いかもしれません」




