101『違和感』
ルーシェルとの「デート」は高尾山はやめて、レンタカーで海に行くことにした。
冬の海ならば人が少ないだろう。
異世界では魔族の王だった俺が運転席に、敵対していた人間族のお姫様だった子が助手席に座って高速道路を移動しているのだから、なんだかおかしい。
「鎌倉ってところに行くよ。高尾山ほど空気は良くないかもしれないけど、新宿よりはずっといい……そういえば俺が君とはじめて会ったときって、君は肺の病を空気の綺麗な場所で治して王都に戻る途中だったね」
「ユウト様……そんなことを覚えていてくださったのですか。感激です……」
「覚えていたというか……記憶を取り戻したというか……ああ、記憶といえば以前ダンジョンの中で誰かの記憶が入ってくるって言ってたけど最近もあった?」
「ありました、ユウト様がアメリカに行かれてるときに。けれどやはり内容はまた忘れてしまっています」
「そっか……なんなんだろうなあ」
鎌倉駅の近くでお蕎麦を食べた俺たちは七里ヶ浜に移動した。
冬の海は物悲しさがあるけれど、夏の鮮やかな色彩とは違った独特のモノクロームな魅力がある。
ルーシェルは靴を脱いで裸足になり、冷たい冷たいと笑いながら波打ち際ではしゃいでいた。
「ユウト様、あの島は?」
「あれは江ノ島だよ。有名な観光地で人が多いから、今は行かない方がいい」
「私がこちらの世界に来る時に入った“試練の洞窟”が出現した小島を少し思い出します。あのように橋はかかってなくて舟でしか行けませんでしたが」
「その“試練の洞窟”って、どんな形だったの?」
「こちらの世界のダンジョンの巨石と似ていますが小さめです」
「島に行って、その“試練の洞窟”に入って、それでどうして君は水晶体に閉じ込められてしまったんだ?」
「階段を降りてる途中で、突然眩しい光に包まれて気がついたらあの水晶体のモンスターが目の前にいたのです」
ダンジョンは「こっちの世界から異世界に人を送る」為のものであって、「異世界からこっちの世界に人を送る」ことは想定されてなかったのだろう。
だから……昔のゲームの座標バグみたいな現象が起きてしまったんだな。
だけど、なんだろうか────この妙な「違和感」は?
ルーシェルは寄せては返す冷たい波に素足を晒しながら、ただじっと江ノ島を見つめていた。
「私は……私は……」
ルーシェルは江ノ島から目を離せないまま、唇を震わせた。
それは冬の風が寒いからではなかった。
「……私にとってユウト様と過ごしたあの数日間は特別な時間でした。あのような旅はしたことがなく、本当ならつらいはずなのに、ずっとこの旅が続いて欲しいと思っていたのです」
あのときのルーシェルの姿を俺は思い出していた。
今よりも少しだけ幼く、だけど今と何も変わっていないといえば変わってない。
自分の感覚では750年前の人物であるルーシェルが目の前にいることを意識すると、足元がふわっとするような奇妙な感覚になる。
「ユウト様は友人とも兄弟とも違う、もっと違う特別な“縁”を感じました」
振り返ったルーシェルはエメラルド色に輝く瞳に涙を溜め、今にもそれが流れ落ちそうだった。
「でもそれって私の一方的な思い込みなのかもしれませんね」
「……ルーシェル」
ルーシェルは俺の胸に寄りかかるように頭をつけた。
彼女の声が耳だけでなく、俺の骨も震わせて伝わってきた。
「ただ、またお会いしたかっただけなんです……ごめんなさい……」
この世界に来る時に行った小島と江ノ島が似ていたから、彼女は色々なことを思い出したのかもしれない。
ウエットスーツを着たサーファーがこちらをちらっと見て通り過ぎていく。
俺たちは黙ったまま、しばらくそのままの体勢でいた。
新宿へ戻る車内でルーシェルはカーナビの画面を見ながら、思いついたような感じで言ってきた。
「ユウト様、西新宿ギルドの皆さんがやられているステータス診断をいうのを私もやってみたいのですが、駄目でしょうか?」
「別に構わないよ。真希からやり方は教わってるからできるし、でもなんで?」
「……確かめたいことがありまして」
オフィスには誰もいなかった。
ルーシェルの頭にヘッドギア型の装置をかぶせ、小さな箱のような機械に彼女の左手の人差し指を挿れた。
「ちょっとだけ、チクっとするからな」
「はい」
PCの画面にルーシェルのステータスが表示される。
◆名前:未登録
Lv.4
筋力:8 耐久:9 魔力:324 敏捷:12 器用:17
スキル:《未確定》★★★★★(SS級)
未確定となっているスキルは、《追憶眼》だな。俺の魔王専用スキルのように王族にしか使えない超レアスキルなのかもしれない。
ふむふむ、んんん?
魔力────324?
桁、間違ってないか?




