97『魔王軍の帰還と熱狂』
ニューヨークダンジョン地下60階層のティアマット撃破&最下層到達。
さらに巨大魔石の回収という快挙を成し遂げた我ら西新宿ギルドは、久留里の転移魔法で地下1階層まで一瞬で戻ってきた。
俺たちより先に撤退した「ダンジョン・アベンジャーズ」の連中はまだ地下40階層あたりだろう。
……転移魔法……チートだ!
地上に戻る階段の前に行くと────そこにはスーツの男性が立っていた。
どうやら彼はニューヨークダンジョンを管理している組織の職員らしい。
今回のダンジョン攻略がどのような結果だったのかを尋ねてきた彼に雪奈が説明をすると彼は驚いた顔をして「ちょっとここで待っていてください」と階段をのぼっていった。
かなり待たされたあと、ようやく――
さっきの職員は「ディレクター」と名乗る男性と、ダンジョンまで俺たちを案内してくれたニシムラさんと一緒に降りてきた。
ディレクターは公認記録員である鯨山さんの証言、ティアマットとの戦いや討伐時の念写、63階層で手に入れた魔石を確認すると管理組織職員となにやら打ち合わせをしはじめた。
そしてディレクターは念写が浮かび上がっている紙を我々から預かり、何かを決めたように大急ぎで階段をのぼっていった。
ニシムラさんが「ダンジョンから出る時間」について説明をしてくれた。
「現在はニューヨーク時間の午後4時です。これから告知してダンジョン前の会場に人を集めないといけないですし、プライムタイムでテレビ放映をしたいので、午後9時にダンジョンから出てきてほしいということです。出る時間になりましたら職員が呼びにきます」
「5時間ここで待機……せっかく転移魔法で一瞬で帰ってきたのに……」
鯨山さんが念写用紙を入れている肩下げバッグから、クリアファイルに挟まれた紙を取り出して、読んだ。
「奥野さん、事前に伝えられていたニューヨークダンジョンのルールに、ダンジョンから外に出る時間はディレクターに決定権があるとなってます」
「そうなんですか。じゃあ仕方ないけど……それにしても、色々と“演出”があるんだなぁ」
我々は階段の前で昼寝をしたりカードゲームをしたりして5時間潰した。
地上がどうなっているのか、誰もわからないまま時間だけが過ぎていく。
俺は接待プレイをする気など一切ない久留里の「スピード」の相手をずっとさせられた。
「は〜い20連勝だドン! あ〜あ、念写画像は私のインスタかくるりんチャンネルでお披露目するつもりだったのになぁ……」
「全米生中継の方が影響力でかいと思うぞ」
「そうかな? そうかも! じゃあオッケー!」
「あのディレクターって俺たちがダンジョンに入るときに不気味な演出をして観客をドン引きさせた人だろ。なんか心配だなぁ……」
階段からカツンカツンという革靴の足音が聞こえる。
管理組織職員が俺たちを呼びにきたので俺たちは階段をあがった。
ダンジョン内と外界を隔てる鉄扉の前でニシムラさんが、チケットのような紙をポケットから取り出した。彼の顔は誇らしげだ。
「魔王軍さんにお金いっぱい賭けたんです! 正直、誰もこんな結果は予想していなかったんで倍率130倍でしたよ。明日のランチは奢らせてください!」
そしてダンジョンの鉄扉が少しだけ開けられた。
隙間から覗くと会場にはかなりの人数が集まっていた。夜なので暗くて正確な人数はわからないが、もしかしたらダンジョンに入ったときよりも多いかもしれない。
会場の照明が落ちて、スクリーンに白い文字が表示される。
“The age of humanity is over.”
────人類の時代は終わった。
“You already know.”
────もう気づいているはずだ。
“From here on… this domain is ours.”
────ここから先は、我々の領域だと。
鉄扉が静かにひらき、俺たちは文字が消えて真っ暗になったステージの上に並んで立たされた。
我々のシルエットに気がついた観客の、ざわざわ声が聞こえる。
スクリーンに真っ赤な文字が表示される。
それと同時に爆音のメタル系BGMが鳴り響き、不気味な紫のスモークが噴出し、レーザー光線がそこらじゅうから照射された。
“Nishi-Shinjuku ‘Demon Lord Army’ Guild — Tiamat defeated. Deepest floor reached.”
────西新宿“魔王軍”ギルドが、ティアマット討伐&最下層到達。
頭上の照明が点灯し、ステージ上の我々を照らす。
スクリーンにはティアマットとの戦いと勝利の瞬間の念写画像が映された。
まるで怒号のような、悲鳴のような。
セントラルパーク全体を揺らす地響きのような大歓声が起こり、観客は総立ちになった。
上空にはドローンが飛んでいる。
おそらくこの熱狂の様子を撮影しているのだろう。
最下層で手に入れた巨大魔石を久留里が掲げると大きなどよめきが起こった。
スクリーンに映されている鯨山さんが撮った念写は大迫力で素晴らしかったが、やはり「現物」には特別なインパクトがあるのだろう。
ステージ下の報道陣は久留里に向けて一斉にフラッシュを焚き、観客もスマホで撮影をしている。
「明日の朝刊載ったぞ、わたしー!!!」
こういう日を望んでいた久留里は上機嫌だ。
凱旋の演出は予想通り「ヴィラン仕様」ではあったが、ブーイングなどが起こることもなく、卵とか投げつけられたりしなさそうなので安心した。
その後はダンジョン制覇の証の銀のプレートの贈呈式や簡単なインタビューなどがあり、1時間程度で凱旋イベントは終了した。
会場からホテルまでの移動は長いリムジンだった。
「ユッピー見て見て! 私のフォロワーが20万人増えてる! たぶん2時間だけで!」
「奥野さん、窓の外見てください! あの大きな街頭ビジョンに私の念写が! 信じられません、感激です!」
「おう、社長よ。沿道でこのリムジンに手を振ってる奴がいっぱいいるぞ」
世界最大のダンジョンを攻略した夜。
“最も深く”潜った俺たちは、たしかに世界の“最も頂点”に立っていた。
半年ちょっと前まで、残業の毎日の社畜だった俺が
――今、ニューヨークの夜景の中で世界中から歓声を浴びている。
リムジンは高級ホテルの前に泊まった。我々にはひとりづつスイートルームが用意されていた。なにからなにまでVIP待遇だ。
この特別な日、みんな思い思いの夜を過ごすのだろう……俺はふかふかのベッドですぐに寝たけれど。
翌日から取材の申し込みなどが殺到したが、それらはすべて断って観光を楽しんだ。
装備を脱いでしまえば「魔王軍」だとはほとんど気づかれない。
街を歩く俺たちはただの日本人旅行者にしか見えなかった。
だから五日後の帰国時も、空港に人だかりができているとかはなかった。
見送りにきていたのは色々とお世話になったニシムラさんと……。
────ダンジョン・アベンジャーズのメンバーたちだった。
昨日ダンジョンから出てきた彼らは俺たちを讃えた。
また再会できるとは思ってもいなかったから、俺たちも大喜びだ。
西新宿ギルドメンバーは「ダンジョン・アベンジャーズ」メンバーと握手を交わして、成田行きの国際線が飛び立つ出発ロビーへと向かった。
────この時はまだ、久留里が帰りの飛行機チケットをネットに投稿したせいで、成田空港で大騒ぎの出迎えが待っているなんて思ってもいなかった。
次回
エピソード98『異世界の古代人・3』




