96『最下層と巨大魔石』
「《魔獣創造》!!!」
空間が歪み、鍾乳石が音もなく浮かび上がる。
砕けた石片と雪奈が斬り落とした三つの首が引き寄せられ、粘土のように捏ねられながら形を変えていく。
――その異様な形成は、ほんの数秒で完了した。
俺は空間にある物質を素材にして魔獣を作り出す魔王専用スキルで、ティアマットモドキを作った。
ティアマットモドキがティアマットと対峙する。五郎と雪奈は戦線から離れた。
現在ティアマットに残っている首が「氷の首」「毒の首」「水の首」。
地面に落ちていた首は「炎の首」「雷の首」「風の首」。
雪奈は切りやすい首から斬っただけだ。
ただ、俺たちには組み合わせの運があった。
「炎の首」のブレスは、「氷の首」から出た氷塊を溶かす。
「風の首」のブレスは、「毒の首」から出た毒霧を吹き飛ばす
ティアマットのブレスを打ち消し──そして
「雷の首」のブレスは、「水の首」から出た水流に電撃を走らせる。
純粋な水は電気を通さないが、ティアマットが吐く水(おそらく海水なのだろう)は電気をよく通した。
水流を導線のようにして雷の電撃が一直線にティアマットへと走り、ティアマットは感電状態になった。
ティアマットの動きが止まった。
今ならいける!
俺は両腕を前に突き出して、腕に魔力を集中させた。
「──《天蝕む虚無の柱》」
天井の虚空が裂け、闇の光が柱となって落ちる。
黒よりも黒い絶対の闇が、ティマットとティアマットモドキを包む。
音すらも遮断する、重力も狂わせる、漆黒の最強闇属性魔法。
だけどこの魔法だけで再生能力のあるティアマットが倒せるとは思ってない。
闇に包まれているティアマットに近づいた俺に、雪奈が後ろから声をかける。
「勇人くん、何をするつもりなの?」
「こいつの6つの首は意志なんて持ってない、だから再生だってできる。きっとどこかにティアマットを制御しているコアがあるはずなんだ」
闇が若干薄くなってきた。
そして、ほんのわずかだが一瞬キラリと輝いた────闇の中で命の光が。
その場所……ティアマットを正面から見て、首の付け根から60センチくらい下のセンターから若干左寄りの場所。
一瞬光った場所と同じ位置に、
俺は剣を突き刺した。
地下60階層に、残ってた3つの首からの断末魔が響き渡る。
────ドゥゥゥン。
ティマットは巨体を地面に打ち付けるようにして倒れた。
巨体が崩れ落ちる寸前、
3つの首がわずかにこちらを向いた気がした。
「勇人くん……すごい……ティアマットを倒した」
「いや、倒したのは俺じゃなくて、ここにいる全員だよ」
「勇人、チャンスかも」
「チャンス? なんの話だ真希」
「ティアマットは死んだけど消えてない。わずかに残ったコアが肉体を蘇生しようとしているのかも。急げば死骸から武器や防具が作れるあなたのスキルで何か作れるんじゃないかしら?」
真希が言うようにまだティアマットは霧になって消えてはいなかった。
俺は《妖器賜与》を使った。
ティアマットの死骸が淡く光る粒子となって集う。
ええと……誰用のを作ろう……早く決めないとガラクタができあがっちゃう。
久留里に傷を癒してもらっている五郎の姿が目に入った。
《妖器賜与》の使い方はAIのプロンプト入力とよく似ている。俺は頭の中に「大盾 戦士用 タンク特化 敵視固定 属性耐性 ブレス軽減 衝撃分散 耐久強化」のワードを思い浮かべた。
光は六角形の形になり、大盾が現れて地面に落ちた。俺はそれを拾って五郎に手渡した。
「これは五郎用の盾だ。ティアマットで出来てるから耐久性に加えて、6種類の属性のブレス攻撃に耐性があると思う」
「おお! なんか表面はトゲっぽいウロコだし、6つのおっかねぇ顔が彫られていて、相変わらず禍々しいな」
「たぶん、めっちゃ敵のヘイト集めまくるとは思うけど……五郎は両手剣だから普段は使うことないかも。だけど今回の戦いみたいなときに役にたつはずだ」
俺たちは世界最大のニューヨークダンジョンの、まだ未討伐だった地下60階層ボスを倒した。これより下層は前人未到の領域だ。
少し休憩をとってから地下61階層へつながる階段を降りていった。
鍾乳洞タイプダンジョンなので、アイテムボックスはないが魔石はある。モンスターを倒しながら俺たちは魔石を採取していった。
そして地下63階層の細い通路を抜けた先の広めの空間に、それはあった。
台座のような岩の上に、まるで「勝者への報酬」のように置かれていた。
魔石だ。しかも無茶苦茶でかい。
サイズ的にはマンゴーよりちょっと大きいくらいだろうか。
真希は魔石を両手に乗せた。
「この魔石は……7億円か、8億円くらいで売れるかも……」
「は……8億? そんなの持ち帰って大丈夫なのか?」
「10年に一度見つかるかどうかってサイズ……こんなのが手に入るなんて……」
真希が珍しく動揺している。というかみんな動揺している。
10億で動揺しないのはイマイグループご令嬢の久留里くらいかもしれない。久留里は知床ダンジョンで手に入れた羅針盤を見ていた。
「下に降りる階段はないっぽいよー。たぶんこの63階層が最下層だねー。じゃあもう出ちゃおうよ! さっき桃ちゃんに見せてもらったティアマット戦の念写、はやくネットにあげたい! あれヤバすぎだもん、超バズり確定!」
「半年ちょっと前は観光記録員だったのに……誰も撮ったことがない念写が撮れるなんて本当に夢みたいです。ではみなさん、ここで念写を撮りましょう!」
台座に魔石を戻して、その後ろに全員が横一列に並んで記念念写を撮った。
俺のとなりの五郎はさっき作ったティアマットの大盾を誇らしげに掲げている。
「タンクとしては世界最強になれたかも知れねぇ。社長……ありがとな」
最強になりたい五郎。有名になりたい久留里。お金を稼ぎたい真希。素晴らしい念写が撮りたい鯨山さん。
自分達の望みが叶って嬉しそうだ。
俺も嬉しい。今回のこの成果でギルドランキングがあがるのは確実だから。
だけど、みんなと笑顔でハイタッチしている雪奈だけは、心の底から喜んでいるようには見えなかった。
ここにも彼女が求める“ダンジョンの向こう側”へつながる扉はなかった。
世界最大と言われているダンジョンの最下層にもなかったという現実は、「そんなものは存在しない」という可能性をかなり引き上げてしまった。
久留里のまわりに全員が集まった。
光の粒が下から上へとあがっていく。
雪奈が俺の腕をちょんとつついた。
「まだ、諦めてないから」
転移魔法で我々は──地下1階層へと戻った。
次回
エピソード97『魔王軍の帰還と熱狂』




