98『異世界の古代人・3』
ここまでお読みいただきありがとうございました。
第八章では主人公が違和感の正体に気がつき、その発見によって西新宿ギルドが「先行者優位」を手に入れます。
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今日は私はフルートを持って中野Cダンジョンに魔素を浴びに来ていた。
ユウト様たちは明日アメリカからお戻りになるらしい。
マンションで吹いていたら隣の住人から壁を叩かれてしまった。
どうやらそれは「壁ドン」という行為だそうです。
マンションではフルートの音は迷惑になってしまうけれど、ここならば誰にも「壁ドン」されることなく吹くことができる。
音楽はあっという間に時間が過ぎる。
ダンジョンに入ってから2時間ほどが経過して、また《追憶眼》が発動した。
この記憶が入ってくるときだけ、私がこれまでに見てきた記憶のかけらも全部思い出せる。
記憶の主である女性は10年という長い年月をかけて別世界から勇者を呼ぶ方法を完成させた。
つまり私が見ているこの記憶は、私がこの世界に来るために使った“試練の洞窟”を最初に作った太古の人の記憶。
その記憶の主である女性の視界が、ゆっくりと開けていく。
でもきっと私は、何を見たのかまた忘れてしまうのでしょうね。
◆
お師様の研究所があった小島の中央は少し小高い丘になっている。
私はそこにお師様が考案した特殊な魔法陣を描いた。
水晶玉に手を乗せて長い呪文を唱える。
この呪文を完成させる前にお師様は殺されてしまった。そして研究を引き継いだ私が呪文を完成させた。
別世界に“試練の洞窟”の入口を作り、こちらの世界に“試練の洞窟”の出口を作る。
そして出口から試練を乗り越えてきた勇者が現れる。
それが私が辿りついた「答え」だった。
呪文を唱え終えたあとに、水晶玉に自分の「想い」を込める。
なぜ“試練の洞窟”が必要なのか? それを神に伝える。
私は強く願った。
しかし何も起きない。
磯の香りがする海風が、この丘の草を揺らす音が聞こえるだけだ。
そんな、まさか────失敗した?
魔法陣を書き損じた? 呪文が間違っていた?
私は魔法陣を消して、手順を1からやり直したが駄目だった。
その日は太陽が沈んで魔法陣が描けなくなってしまったので翌日もやってみたがやはり駄目だった。
その次の日も、またその次の日も繰り返した。
この島の食べられる草は知っていたし、鳥と魚の捕り方も知っている。
私は研究所の建物に寝泊まりして、90日繰り返した。それでも駄目だった。
────失敗だ。私は失敗したんだ。
今日も昨日や一昨日と同じように落胆して研究所に戻り、お師様がいつも座っていた椅子に腰掛けた。
私は自ら命を断つかどうしようか考えていた。もう生きる気力は残ってなかった。
涙が勝手に溢れ出す。
どう願っても、その想いが届かない。
私には人間族を救いたいという気持ちが弱いのだろうか?
私の弟と妹、そしてお師様。
彼らが魔族に殺されたときの気持ちを思い出していた。
そして、ふと思った。
私はずっと「人間族を助けたい」と願ってきた。
でも本当は「身近な人を助けたい」のかもしれない。
最後の一回……これが失敗したら私は……と丘の上に戻った。
魔法陣の前で水晶玉に手を置いて、呪文を唱えたあとに目を閉じて強く願う。
ここに“試練の洞窟”を作りたい。
もう、自分のまわりの大切な人を──誰ひとり失いたくない。
その瞬間、水晶玉から光が溢れて目の前が真っ白になり、光が消えると魔法陣があった場所に人が通れるほどの穴の空いた岩が出現していた。
お師様、やっとできました────私はその場に倒れ、気絶してしまった。
翌日から勇者が洞窟から現れるのを待つ日々がはじまった。
お師様の話ではこちらとむこうの世界では時間の流れが違うらしい。なのでこっちでは1日でもむこうでは100日経過しているかもしれなかった。
だけどなかなか勇者は現れなかった。
洞窟が出現してからちょうど季節が一周したくらいの頃。罠にかかった鳥を研究所に持ち帰る途中で丘の上に寄った。
すると洞窟の前に、ひとりの傷だらけの男性が立っていた。
男性は周囲を見まわし、そして私を見て驚いた顔をした。
私の顔が涙でぐちゃぐちゃだから驚かせてしまったのだろうか?
涙を拭ってもう一度よく見てみた彼の鎧と剣は、私が知るこの世界のものとはあきらかに違う異質なものだった。
そして役目を終えた“試練の洞窟”は忽然と姿を消した。
現れた。
────ついに。
我ら窮地の人間族を救う、別世界からの勇者が。
第七章・完
次章『第八章 だが世界は勘違いをしていた』




