魔法
「おかえりなさいませ」
ギルドに戻ったサンドラ達をエリザが出迎える。
「無事、クライムさんの職業適性確認及び、職業指導のクエスト完了しました」
報告をはじめたサンドラを横目に、ガンドフ達3名は食堂の扉へと向かう。
「サンドラ、先に食堂いってるよー」
ミルーシャに手を挙げて応えつつ、サンドラは報告を続ける。
「今回はわたくしがクエスト進行のまとめ役を務めましたので、わたくしのほうでまとめてご報告いたします」
「かしこまりました。ところで、クライム様がいらっっしゃらないようですが‥」
「クライムさんは訓練場で魔法の練習をするそうです。後ほど報告に来られると思います」
エリザが少し驚いたような顔をする。
「魔法、ですか。てっきりクライム様は拳闘士の職業をお選びになるのかと思っていました」
「エリザさんがそう思われるのも納得できます。適性確認でのガンドフさんとの手合わせを間近で見させていただきましたが、すごかったです
サンドラは骨の折れたガンドフの治療をした時のことを思い出しつつ、クエストの報告をし始めた。
ーーーーーーーーーーー
「報告は以上になります」
「ありがとうございました。報告承りました」
エリザはサンドラからの報告を聞きながら記録していた報告書をパタンと閉じる。
「クライム様はどうやらギルド長がおっしゃっていた以上の方のようですね」
報告を聞いたエリザは素直にそう感じた。
「はい。わたくしもそう思います」
サンドラも同意見のようだった。
「おそらくですが、クライムさんは近接戦闘能力に関して言えば少なくともブロンズのセカンドクラス相当の実力はおありになるかもしれません」
自分の属するブロンズセカンドクラスの前衛職、とくに拳闘士の戦いぶりを思いだしながらサンドラは続ける。
「わたくしが今までにパーティを組んだ拳闘士さん達と比べてですけど、遜色のない動きだと感じました」
本来は職業につきレベルを上げることで得られる、いわゆるステータスの上昇と、身体能力を底上げする闘気を操る能力が合わさることで得られる戦闘能力を、レベル1の新人が発揮するなど信じられなかったが。
「へぇークライムくんてばそんなにすごいんだ」
いつのまにか近くに来ていたサンディが話しに入ってくる。
「サンディ‥」
サンディのカウンター前に並ぶ冒険者がいることを確認したエリザが静かに、だが確かに怒気を感じさせる声を出す。
「わ、すぐ戻りますって。すみませーん」
悪びれた様子もなく自分のカウンターへ戻っていくサンディ。
「まったく」
エリザは腕を組みなながらあたまを軽く振った。
「ふふっ」
その様子を見ていたサンドラは口元に手をやりながら笑った。
「そうでした。サンドラ様、クエスト完了の報酬ですが、クライム様が戻られて報告を受けたあとでのお渡しになりますので」
「はい。わかりました。それではクライムさんが戻られたらまた伺いますね」
「かしこまりました」
お辞儀するエリザに笑みを返して、サンドラは食堂の方へ歩き出した。
ーーーーーーーーーー
「さーて、もう一度コアソウルの確認かな」
胸の奥辺りに感じたコアソウルの感覚は最初はぼやけていたが今ははっきりと感じられる。
最初に刻んだ回復魔法士。
そして次に刻んだ攻撃魔法士。
二つのコアソウルの感覚。
(ソウル、魂というくらいなのに複数あるのも変な感じだな)
「お次は‥ステータスの確認。‥うーんゲームだと職業に応じてステータスに補正がかかってたはずだけど何も無しか」
頭で念じて表示されたステータスの一覧。
ヒーリング、ストーン、魔法障壁のスキルが新たに増えている事以外、能力値は初期値のまま、変化はみられない。
MPだけは魔法を使った影響で減少していた。
「まあよく分からないチート補正もあることだしステータスはあんまり気にしなくてもいいか。それより魔法魔法っと」
ステータス一覧を確認しながら、訓練場の丸い木の的の前へ移動する。
「えーと60あったMPが今40ってことはヒーリングとストーンで20消費と」
(よし。まずはヒーリングから)
サンドラから教わった通りに身体の中の魔力の流れを魔法力へと変換するイメージ。
「『ヒーリング』」
魔力を消費する感覚と体を包む暖かい感覚が同時に感じられた。
「えーとヒーリングはMP10消費か。ということはストーンも消費は10かな」
40あったMPは30に減少していた。
MPが半分になった影響なのか、わずかに身体にだるさを覚えた。
「お次は、『ストーン』」
木の的へ手をかざし、石飛礫を放つ。
リーグザールに教わった時と同様に木の的には大きな穴が空いていた。
「うわやっぱすげー威力。‥あーなんだろ。さっきよりだるくなってきたかも」
頭を軽く振る。
間違いなくMPの減少によるものだろう。
「魔法障壁も試しとかないと」
クォーツワールドファンタジーでの基本属性は7つ。
火、水、風、土、雷、光、闇。
そして複合属性として火と風で熱、風と土で嵐、土と雷で振動、雷と水で氷、光と闇で無の5つ。
そして水は火に強いが雷に弱いという具合に、火→風→土→雷→水→火、複合属性についても熱→嵐→振動→氷→熱の流れで属性同士に強弱関係が設定されており、例外として光と闇は互いが相反するようになっていた。
「ゲームと同じならストーン相手だと風か」
土に相反する風の魔力をイメージする。
「おお?キタかも」
イメージとしては曖昧な感覚は拭えなかったものの、身体を包む魔力の流れを感じる。
(よし、この状態で‥)
「『ストーン』」
上空に向けて石飛礫を打ち出す。
「えーと、あ、落ちてきた」
落下してきた石飛礫を手のひらで受け止める。
「あっ」
手のひらで受け止めた瞬間、石飛礫がスーっと消滅していった。
「うーん単に魔法の効果時間みたいなもので消えたのか障壁が機能して消えたのかわからなかったな」
MPは残り5。
なんとも言えない疲労感により身体が重い。
「あー、、魔法の使いすぎはマジでやばいかも‥」
その場に座り込んで目を瞑る。
少し休んでいると疲労感が減少してきたのがわかった。
「MP20か。わりとすぐ回復するもんだね」
立ち上がり、少し離れたところに置いておいた外套を羽織り荷物を背負う。
「魔法の感覚は何となくは掴めたし、そろそろ戻るか」
訓練場を見渡す。
壊れた木の人形と木の的の破片が散乱しているのが気にかかった。
「人形はまあそのままでもいいとして、的の破片はさすがに散らばったまま放置というのもなあ」
訓練場奥のテーブルや椅子のあるテントの方へ足を運ぶ。
「箒とかないのかな」
辺りを見回すと箒と塵取りが置かれているのを見つけた。
「お、あるじゃん」
散らばった木の破片を箒で纏めて一箇所にかためる。
「ゴミ箱なさそうだし、散らばったままよりはマシでしょう。これでいいかな」
箒は元の場所へ戻しておく。
「さて戻るか。あー腹減ったな」
(金尽きてるし、今日の宿と食事はどうするかなあ)
などと考えながらエラントへ続く小道へと足を向けた。




