099 230年の修行~ハナ編~
シゲ、ハナ、澄狐、ステファが飛ばされた場所は日本家屋が周辺にある街角だった。
正面と背後にまっすぐと大きな通り、そして右にも左にも真っ直ぐの大きな通り。
大きな通りが交差するど真ん中に転移させられたのである。
「なるほど。平の都って事か。」
シゲが冷静に自分の現在地を把握する。
「ご明察。一応君たちには僕が監督するよ。」
そういうのは魔王自身である。
「平の都って?」
ハナがシゲに質問をする。
「読んで字の如く平安京の事だよ。前身である変遷前の長岡京は災いが多かったらしく、『平安』と命名されたと言われているね。そして平安京と言えば陰陽道。安倍晴明も芦屋道満も平安時代の陰陽師。正確に言えば安倍晴明は官人として役職を貰っていたが、芦屋道満は非官人だよ。国から正式に認められていたのは晴明という事だね。」
「じゃあ晴明の方が正当という事?」
「事はそんなに簡単じゃないよ。安倍晴明は五芒星、芦屋道満は九字を基本とする。意外と日本人が好きな『臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前(りん・ぴょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん)』は九字だよ。縦に4本、横に5本で九字だ。結局、平成以降のアニメや漫画、ゲームで使われている『カッコいいもの』なんてのは歴史的に見ればごちゃまぜもいい所だしね。『急急如律令』だって英訳してしまえば『Hurry UP!』でしかない。戦いの最中、急がなくてもいい事なんてないけれども、陰陽道で毎回それを付けなきゃいけないというのは大きな間違いだし認識誤りだ。」
「漫画の知識とかじゃダメなのじゃな。」
「ダメってことはないけれども、自分の使うルーツであったり歴史的な背景というのはきちんと知っておくべきだとは思うね。」
「ボクが思うにシゲは真面目過ぎるんだよ。」
「もっとこうなんか、どかーん。ばきーん。つえー。みたいな?」
「いいかい? 言葉ってのは『呪』なんだ。ガラスのコップにはコップという『呪』がかけられている。だから物理的に割れた時にその『呪』は解呪されて『ガラスのカケラ』になうわけだね。言葉を紡ぐというのはそれによって『呪』となって魔法となるんだ。言葉を雑に使うものじゃないよ。」
「そこまでわかっているなら、『Lv1』という呪いはさっさと解呪していただきたいものだね。」
そういって横槍を入れるのは魔王である。
「Lvってのはただの補正だ。ゲームにおける攻略はベースはプレイヤースキルにこそある。攻撃を食らってHPが足りなくて即死するとか、そういうこと以外はプレイヤースキルで解決すべきだ。」
「こやつはRTA(Real Time Attack)の思想に近いんじゃよ。」
「病気ですね……。ゲームなんだからLvをあげて物理で殴ればいいのに。」
「シゲの場合は欲しいアイテムがあって、ずっと周回しているからLvが勝手に上がるって方がプレイスタイルかな。敵を倒すためにLvをあげるっていうタイプじゃないから。」
「さて、そろそろお話は終わりにしましょう。あなた方に実施頂きたいのはまず、四神との契約です。東西南北それぞれに青龍、白虎、朱雀、玄武が門番として配置してあります。それぞれ契約してきてください。」
魔王はあっさりと当面の目標を伝える。
「ずいぶんと簡単に何をするのか言うのう。」
「時は金なり。230年なんてすぐに終わりますよ?」
「じゃ、向かうとしますかね。」
ハナはそういうと西門に向けて歩き始める。澄狐も片手をあげて仲間達へと軽い挨拶を済ませると東門へと歩き始める。
「ま、やるだけやってみますかね。」
ステファも北へと向かって歩き始める。
最後に残ったのはシゲ。
そしてシゲは魔王の方をじっと見つ、なかなか南門へと歩き出そうとしない。
ハナは歩き出した後、背後で戦闘音が鳴りだしたことで安堵する。
シゲはそうでなくては困る。私が最も信頼するリーダーは一筋縄ではいかない。
真偽を確かめるのは絶対に必要なのだ。とはいえ、ハナは自分自身の力を強めるのに白虎と契約するというのは異論がなかった。
だからこそ自分は西門へと向かう。それでいいのである。
そして西門には大きな白虎が眠っている。
こう見るとただのデカい猫である。
白虎はハナが近づくと目を開けてくあぁと大きくあくびをして、ネコ科特有の伸びをする。
そしてバチバチと全身に帯電すると、ハナを一瞥してふんと鼻を鳴らしたかのように小ばかにしてそっぽを向いて地面に伏せる。
尻尾だけがひゅんひゅんと激しく動く。
ハナなど尻尾だけで十分だと言わんばかりである。
「あ、そういう態度とっちゃいます? カチーンときた。」
ハナはそういうと、アイテムボックスから何かを取り出して自身の持つ二対のシャムシールにそれを塗る。
すると白虎は鼻をひくひくと動かし始める。
ハナは両手のシャムシールを上手く操り、とにかく攻撃を始める。
白虎の尻尾が二対のシャムシールの連続攻撃を捌き続けるが、白虎の耳がぴくぴく動いているのは見て取れるし
鼻をひくひくさせているのもハナには見えている。
ハナは一度後退して、再び液体を今度はどぼどぼとシャムシールへと纏わせる。
その刹那、白虎は目を見開きハナをしっかりと両目でとらえる。
虎に睨まれる。ただそれだけの事なのだが、四神といえどやはり野生をしっかりと持っていると痛感する。
だからこそ、ハナの塗った液体が効果があるとはっきりわかるのであるが。
ぐるぐると喉を鳴らし、白虎はゆっくりと立ち上がる。
ハナは白虎に向かって突進する。互いに目を逸らすことなく、一直線に挑む。
白虎はハナのシャムシールの片方を口で簡単に止めると、そのまま帯電していた電流を全開にする。
「ぐあああああああっ」
ハナの全身を電流が駆け巡る。
電流とはこんなにも痛いものなのかと痛感する。
更にシャムシールに液体を塗っていたこともあり、電気がより流れる。
純水であれば電流は流れないが、蒸留水などを使用しなかったことが仇となった。
電流を受けた筋肉というのは収縮する。つまり、ハナはシャムシールをより強く握ってしまうのである。
電気からは簡単に逃れることができない。
電気工事士は必ず二人一組で作業を行い、電気の流れる電線に触れる時などは手の甲で触れる。
電気が流れ、筋肉が収縮した時に電線を握り続ける危険性を避けるためである。
また、電気工事士が二人一組の理由は一人が感電した際にもう一人は帯電しないゴム製の長靴で蹴るなどの方法で電線から身体を離す役目を請け負う。
帯電しない木製の棒やプラスチックなどで殴るというのも方法の一つである。
これは救助者も一緒に感電しないようにというのが前提になっているからである。
その点では今回、ハナが感電しているのは最悪の状況に近い。
しかし、白虎は咥えたシャムシールをハナごとブンブンと勢いよく振り回し、その結果ハナは壁に叩きつけられて感電から逃れる。
白虎はシャムシールに塗られた液体をぺろぺろと舐め始める。
「四神といえど……ネコ科にはやっぱりマタタビね。」
白虎はシャムシールに大量に塗られたマタタビに反応していたのだった。




