098 230年の修行~俊也編~
「さて、どうするかな。時間がありすぎるってのも考えものだよな。」
そういって一人、湖の畔に佇むのは俊也である。
すぐ傍には木製のバンガローがある。
とりあえず俊也はバンガローの中へと入る。
バンガローの中は綺麗にされており、居間には暖炉がある。
そのほかの部屋も調べてみると、ベッドルームにシャワールームも完備されており
何よりも助かるのが、俊也の持て余している武器防具が全て倉庫に存在していたことである。
また、その倉庫は通常の倉庫と異なり、通常であればアイテム数に上限があり上限値が記載されているものだが
この倉庫には上限値として『∞』が記載されており、上限なく、際限なくアイテムが預けられることがわかった。
とはいえ、俊也は他のメンバーと異なり明確に伸ばさねばならない部分がわからない。
宝箱の開封についてはある意味、今の状態でも十分通用しているし
斥候としての活動についても不十分とは思っていない。
あとは攻撃力に寄るべきなのか、防御力に寄るべきなのか。もしくはこのままバランス型が一番いいという可能性もある。
結局は戦う相手とその環境なのである。水陸両用のズゴックがいくら地上で強いからと言って宇宙空間戦闘ではその利点は使えない。
また逆に、ジオングの様な足のないモビルスーツで地上戦は戦えない。
トレードオフといういい言葉があるが、全能のプレイヤーなどいてはならないのである。
そういう意味ではシゲの様にシステムの隙間を突くのが本来は正解なのかもしれない。
魔法という遠距離攻撃しかできないキャラ作成において、仕込み杖で一閃と縮地スキルというのはシステムの穴としか言いようがない。
スキルを潤沢に取得できるだけのスキルポイントとレベルを馬鹿みたいに上げれば魔法使いでありながら剣技の習得なども可能なのであろうが
それこそどっちつかずの中途半端キャラにしかならない。剣技だけ、魔法だけというのがやはり一番オーソドックスでありながら強い。
そして俊也の中で『遠距離はシゲに勝てない』という思いが強すぎる為、どうしても弓に手を出すという事は考えに無かった。
弓スキルはLAOにおいてとにかく制限が多い不遇武器である。まず第一に矢を必要数持ち歩かねばならない。
雑魚相手でPT戦であれば10本や20本で十二分に役割は果たせるが、ボスクラスとなった場合長期戦が予想されるため潤沢な矢の本数が必要になる。
また、矢には火矢や毒矢と言ったステータス異常を引き起こす物から、着弾と共に範囲爆発を起こす爆矢なんてものまで多種多様にあり
それぞれを事前に用意しておかねばならないのでとにかく維持費のかかる武器である。
その面倒くささ、その費用対効果として熟練者ならば威力があるが、低レベル帯は魔法に劣るという事でLAOのなかでは不遇とされている。
だが、俊也の倉庫の中で実は一番UR武器として多いのは弓なのである。
それも、市場に出すことのできない特殊仕様の弓ばかりなのである。
例えば、矢を一切必要としない魔法弓。これは魔力を矢として放つ。魔法の基礎系のアローとは異なり弓の技量でダメージは上昇する。
炎の弓。これは通常の矢に火属性を与えて放つことができる。そして氷結の弓。これは氷属性を与えて放つことができる。
極めつけは強弓。説明欄には『強い矢を放つことができる』とだけ記載があり、なんでこれがURなのかと疑問に感じた俊也は一度だけ森の中で適当に矢を一本放ったのだが
まるでモーセが海を割るかの如く、周囲の大木を巻き込み真っ直ぐに数キロほど飛んでいき、地面すらえぐれた後だけが残った。
これは実践ではとても使用できないとして、俊也は倉庫に放り込んで封印することを決めた。
しかし考えようによっては今後の強敵と対するには強弓は心強い武器ともなる。
だからこそ悩むのである。
今のスタイルで様々な武器を使える万能キャラとするべきか、いっそ弓に乗り換えてしまうか。
ただ、斥候は誰よりも前に進むので後列からの攻撃を想定した弓というのは微妙に合わない気もしている。
誠は昔から剣に全振りの浪漫追求型。澄狐は拳が世界を変えると信じている。ハナは支援でシゲの横にいることしか考えてない。
ステファは回復役でパーティを支える。ペインはよくわからんが多分流れに身を任せている。
今更ながらにゲーム内で自分探しというのも馬鹿馬鹿しい。
パーティの事など考えずに自分のやりたいことを探求することが一番の近道にも思える。
自分の好きだったゲーム、音楽、アニメ、漫画、スポーツ、そして仕事に家族。
結局は自分自身を探すのではなく自分などというものは歳を重ねるごとに構成されていくものである。
年老いて尚、このようにゲームの中に帰ってこれただけでも自分は十分に幸せと言える。
その中でも最高峰を目指せと魔王は仰せなのである。
結局、俊也が選んだのはいつも使用している短刀と弓。
槍や一般的なロングソード、フルーレのような突き武器、サーベルなんかは止めることにした。
近づくのであれば限りなく接近を、気配を殺して殺気を消し、影の中から現れて急所を一突き。
それ以外は前衛メンバーの充実さから、遠距離の弓へとシフトチェンジすることにした。
そしてバンガローの外に出ると、そこには一人の青年が桟橋に腰を掛けて湖に足を沈め、きらきらと輝く水面を蹴って遊んでいた。
「どちらさんでしょう?」
俊也の問いに対して、少年は水面から足を抜いて桟橋に立つ。
「黄忠と申す。」
右手を拳、左手は手のひらを胸の前で合わせ抱拳礼《ほうけんれい》をして俊也に挨拶をする。
なるほど、自分が若返ったように黄忠もまた若返れば偉業を成し遂げたに違いない。
俊也も黄忠に対して抱拳礼をして返答する。
「俊也です。」
「貴殿に弓の技を伝えに来た。」
「それはありがたい。」
「使用する弓を見せてもらっても?」
黄忠の問いに俊也は選んできた3種類の弓を提示する。
一つ目は魔法弓、二つ目は爆裂弓、そして三つめは強弓。
黄忠は一つ一つを手に取り、ほうほうと言いながら弦を引いてみたりしながら弓を確かめる。
「まずは一つ目の魔法弓だけにしましょう。速射、連射、二本打ちの三種類のスキルを身につけてもらいます。」
「なるほど、速射はいかに素早く弓を射るか、連射はいかに素早く連続で弓を射るか、二本打ちは一度に複数の矢を射る。つまりは基本となる三種だね。」
「それらが出来れば、あとは必中と必殺に展開できます。」
その言葉を受けて、俊也は自分の中で身体の動かし方を施行する。
弓はとにかく左手が全て。早く射るのにも、狙いを定めるのにも左手は絶対に動かさない。
速射に威力は求めない。六割程度の力で弦を引き放つ。連射はもっと弱く五割ほどの力で実施する。
そして二本打ちは弓を縦ではなく横で構えることで、水平方向の狙いを定めて射出する。
その姿を見て黄忠は目を丸くする。
「器用ですな。」
「それが得意なもので。」
「しかし勿体ない。弓とはとにかく消耗の多いしろもの。威力を抑えては消耗ばかりが進みます。」
「なるほど。」
「力を抑えず、全力でそれらが出来るようにまずはなりましょう。」
「承った。」
そして俊也は弓の修行を始めるのだった。




