097 230年の修行~誠編~
誠は毎日剣を振るう。
それでも竹の葉は切ることができない。
名の通り誠実に、サボることなく、毎日毎日繰り返す。
その間、剣の切れ味が悪いのではないかと疑いシゲに研ぎを依頼したこともある。
それでも尚、竹の葉は切れない。
佐々木小次郎はそんな誠の姿を岩の上に座ったまま眺め「本当に不器用な奴じゃのう」と偶に感想を漏らす程度。
指導、指南は一切なく、ただ誠が必死で剣を振るう姿を見続ける。
確かに誠の持つ大剣は重いし大きい。しかしそれを扱えるだけの腕力はレベルで補正できるようにしている。
また、大剣は抜刀術に向かないのも誠を苦労させている理由の一つである。
佐々木小次郎にしても、シゲの座頭市スキルにしてもそうだが
日本刀というのは反りがあるため抜刀と同時に攻撃する事が出来る。
なんなら鞘を通じて抜刀する瞬間こそが一番スピードの乗った状態ともいえる。正確な狙いに対して加速度の乗った日本刀は正確無比な威力を発揮する。
従って、ある意味日本刀で葉を切ろうと思えば目の前を通過する瞬間に抜刀し、そのまま刀の位置で切るのが正解なのだろう。
それが最短で、目標を全く変えず、目線の移動というのも最小限に抑えられる美しい剣術というものだ。
一方で誠の大剣はどうしても威力を出そうと思えば、背中から振りかぶってまるで薪割りの様に振り下ろすしかない。これが袈裟斬り。
それ以外は巻き打ちと言って身体をひねることで遠心力を利用した切り方になる。これが横斬り。
あとは少し特殊だが、大剣を敢えて地面で転がしながら相手に近づいての斬り上げ。
結局はこの三方向からの斬撃しか誠の攻撃方法は存在しない。
上から降ってくる竹の葉に対して一番有効そうなのは斬り上げだが、いかんせん大剣が大きすぎて斬り上げの風圧で竹の葉がどこかに行ってしまう。
同様の理由で横斬りも竹の葉を蹴散らしてしまう。残った選択肢は袈裟切りだが、竹の葉を見ようと顎をあげてしまうと大剣を扱うのに腰が入らない。
じゃあ目線のラインまで降ってきた竹の葉ではどうなるかというと、袈裟斬りでは間に合わず地上へと落ちてしまう。
剣を振っても、振っても、振っても、振っても、振っても終わらない。終わりが見えない。
剣の根元で、切っ先で、剣の中間で、どこで切ろうとしてもうまくいかない。
既にこの修行だけで半年以上の時が流れている。230年という膨大な時間軸で考えれば微々たるものだが
人間の精神というのは同じことを繰り返し続けると徐々に崩壊していく。
そこで誠は一度剣を置くことにした。
剣を置き、胡坐をかいてどっかりと地面に座る。
そしてイメージする。自分の中にある剣を使う者たちの姿をトレースする。
片目で隻腕の黒衣の騎士、二刀流の黒衣の剣士、着流しを来た流浪人、火の呼吸。
どのイメージでも自分の大剣と重ねると、途端に竹の葉は斬れなくなる。
自分だけがどうしても斬るイメージがつけられない。
そんな中、どうでもいいことを思い出してしまう。高校野球でバット回しをしていた高校生の姿である。
動画サイトに投稿されて、一部の界隈だけとはいえ世界中で話題になったバット回し。
その後、本人によるバット回しの動画もあった。結局は手首を柔らかく使ってコントロールするというものだった。
誠は自分自身の大剣をバット回しの要領で自分の身体の周りを回すイメージをしてみる。
しかし、バットは先端が重く根元が軽いのに対して大剣は根元が重く、先端に行くほど軽いので片手の手首だけで剣を支えることができない。
では両手で支えてみてはどうなるか。
少なくとも両手で支えれば∞を描くように剣を振り回すことは可能に思えた。
実際に誠は立ち上がり、剣を手に取り両手で握って身体の周りを振り回してみる。
以前は力を入れて、しっかりと握っていたものを軽く握る。そして操作することに集中すれば柔軟に対応できることに気付く。
そこから誠は何日も大剣を振り回すことだけに集中する。威力ではなくコントロール重視。
コントロールすることが出来れば竹の葉は斬れると考えての事だった。
三日も経てば身体の周りで竹の葉など気にせずブンブンと大剣を振り回せるようになってきた。
大剣は元々威力があるのだから自分自身は剣をコントロールすることに集中すればよいのだと思い始めた矢先、それまで黙っていた佐々木小次郎がようやく口を開く。
「馬鹿者。」
たった一言。
しかしその一言が誠は間違った方向に進んでいるのだという事に他ならない。
「ではどうすればいいのですか? もう他に思いつくこともない。剣をコントロールすることに集中すればいずれ竹の葉くらいは……。」
「では聞くがのう。威力を捨てて、操作性を重視することでその剣技は必殺技になり得るのか?」
そう、誠が元々求めていたのは『高火力の必殺技』なのである。小手先の技ではないのである。
「お主の今の修行を続ければ、ワシの『ツバメ返し』は身につくかもしれん。しかし『ツバメ返し』は元々極限まで長さを追求した日本刀による切っ先での攻撃でしかない。お主の大剣ではただ、小手先でこねくり回すだけの剣技にしかならんだろうよ。『ツバメ返し』は初撃はただの袈裟切り、二撃目が本命で右足から踏み込み強く斬り上げるから意味があるのじゃ。お主の剣技でいうならば雪月花だったか? 三撃目の払い抜けがある分、ツバメ返しは必殺技にすらならん。そろそろ思考をまとめろ、強く、重く、一撃で、その大剣を存分に使用可能な方法を。」
「そんな方法など……。」
そういった矢先、ふと思い出したことがある。
先日のポセイドン戦でペインは最後何をした?
ランスを構えて多段ロケットの様に皆の必殺技を背中に受けて加速をして突っ込んだのではなかったのか。
大剣で『斬る』事しか考えていなかったが、『突く』というのも剣技ではないのか。
本来であればレイピアの様な形状こそ、突きに特化しているとはいえ大剣は一突きで真っ二つにできるだけの威力がある。
誠は静かに腰を落として大剣を顔の横で水平に構える。
右肘を限界まで引き、左手で大剣の柄をしっかりと握る。
そして目を閉じて呼吸を整える。
竹がざわざわと風に揺れる音だけが聞こえる。
風に揺れるたびに竹の葉はどんどん地上へと落ちてくる。
タイミングは自分で決めた瞬間でいい。
まっすぐ走り込み、背筋力を使ってやり投げのイメージでブレることなく真っ直ぐに剣を突き出す。
ただ、それを脳の中で何度もイメージさせて身体へと教え込む。
LAOは脳が全て、脳がイメージできたことは必ず処理できる。
誠はゆっくりと目を開くと、右足で地面を蹴り出し限界まで張った右肘を1メートル先に落ちてきている竹の葉に狙いを定めて真っ直ぐに突き出す。
ピッと小さな音がすると、誠の狙った竹の葉は真ん中から真横にまっすぐ切れて上の部分は大剣の切っ先に静かに乗っていた。
「お見事。」
佐々木小次郎は誠が一年かけて至った境地への賛辞を贈る。
「技名を決めねばな。」
佐々木小次郎のその言葉に、誠はイメージをそのまま伝える。
「椿……落とし……」
「結構。首を狙って頭を落とすのじゃな。」
誠は大剣を払うと、上に載っていた半分の竹の葉がゆっくりと地面に落ちるのだった。




