096 コース選択
「『みんなで修行コース』と『独りで修行コース』とありますがどうしますか?」
「ってか、ペインを迎えに行かなくていいのか?」
俊也がペインが欠けている現状について確認を行う。
「どうせ行っても布団から出て来やしないじゃろ。転移魔法で魔王に引きずり出してもらうのが良いじゃろて。」
澄狐がペインの引き籠り癖を指摘する。
「あ、ペインさんなら昨晩のうちに『独りで修行コース』を選択されましたよ。うちのルカも一緒ですが。」
「うちのってどういうことだよ?」
「ルカは元々僕の部下でしてね。昨日や今日知り合った仲ではないのですよ。彼女に仕事を教えたのも僕です。」
「やっぱり。」「そんなことじゃろうて。」「どうせそれだけじゃないんでしょ?」
「まぁ、恋人だった時期があったことも否定はしません。」
「あーあ……。」「やっぱりじゃ。」「サイテー。」
女性陣の魔王に対する評価がどんどんと下がっていく。
「パワハラはしてないですよ? 別れも言い出したのはルカの方からですし。僕は素直に従いました。」
「そりゃそうじゃろうて。不倫は女の方から突き放す以外の方法はないからの。」
「っ!!!! そこまでわかりますか……。」
「お前さんみたいな優男がやりそうなことじゃ。相手の好意は無視できない、かといって自分には家庭がある。結局はどっちつかずでダラダラした道を歩むんじゃ。」
「ちょっと、私は魔王の事殴る権利ありそうじゃない?」
ハナが拳を力強く握りしめて今にも魔王に殴りかかろうとしている。
「親戚だし、頭にくることもわかるが結局は当事者同士の問題だよ。そこに首を突っ込むべきではないと思うな。」
こういう時に一番冷静なのは俊也である。シゲは敢えて何も言わない。色恋沙汰に口を挟むのは野暮だと思っているからである。
「殴ってもいいですが、今のハナさんのレベルではダメージにはなりませんよ?」
「そういう話はしてない。これは私の気持ちの問題。」
「じゃあ、まぁどうぞ。その行為にあまり意味はあるとは思えませんが。」
「ハナ。俺は『みんなで修行コース』を選ぶよ。」
そういってハナの拳の上に優しく手を置くのはシゲだった。
「本当に?」
「あぁ、そんなくだらない嘘はつかない。俺が自分でやらなきゃならないことは大体わかっているつもりだから。少なくともハナと師範代には一緒に来てもらわねば困る。」
「四神が必要という事じゃな?」
「あぁ、今の俺では四神は同時展開ができない。多分そこを同時に出せるようにしろと言ってくるはずだ。」
「ご明察。後は純粋なレベルの低さを何とかしていただきたいね。Lv1で暴れすぎだよ君は。」
「ボクも『みんなで一緒』かな。多分回復する相手がいないと話にならないと思うから。」
そういうのはステファである。
「回復職は致し方ないね。」
「くそー。いいなぁ。みんなで修行か。楽しそうだけどどう考えても俺の場合は独りで修行コースなんだよな。」
そういうのは誠である。
「なんで? 一緒でいいじゃん。楽しいよ?」
「違うんだよ、そういう問題じゃないんだ。多分俺に求められるのは必殺技。たった一つ、一振りで全てを解決するだけの最強火力が求められている気がするんだよな。みんなと修行することのメリットがないんだ。」
「前衛職としては妥当な結論じゃな。」
同じ前衛職としての澄狐の言葉は重みを感じた。
「俺は中距離だから難しいんだよな。なんでも武器はこなせるけど、『コレ』って武器がない。前衛としてもある程度張れるし、後衛として弓とかも選択肢にないわけじゃないし。後衛防御に徹してもいいわけだしね。とはいえ、ペイン程の防御も期待できず、誠くらいの火力もない、澄ちゃんのような立ち回りもない。いっそ独りでその辺を最適化と言えばいいのかな。そういうのをすべき尚ような気もするんだよね。」
「ボクとペアってのはダメかな?」
「なるほど、『みんなと一緒』でありながらペアで回すのか。」
「あぁ、言い忘れてましたが別にコースは途中変更可能ですよ。夕飯とか一緒にとることはコース関係なく可能ですし。独りぼっちで230年は修行の前に精神を病んでしまう可能性の方が高い。その辺は考慮してますよ。」
「じゃあまずは『独り』コースでやってみるかな。」
「ちなみにルナは連れて行けるのか?」
「可能です。いつもの呼び出し方法で出てきますよ。」
シゲは言われたとおりに懐から人型に切られた紙を取り出し、手のひらに置くとふっと息を吹きかける。
すると人型の紙は一瞬のうちにルナへと変貌する。
「おとーさん。お腹減った。」
「はいはい。」
そういってシゲはアイテムボックスからチューペットを取り出すと二つに折ってルナに手渡す。
ルナは一心不乱にチューペットへと口を付けて食べ始める。
「ルナちゃんってそうやって召喚するんだね。」
「まぁ、式神だからな。」
「さて、皆さん当面のコースも決まったようですので転送させていただきますね。」
魔王はメンバーの有無を聞かずに各々の足元へ魔方陣を展開していく。
「それじゃ。」「また。」「晩飯はゴシックロリータか?」「連絡はつくんじゃろ。多分。」「じゃ、流れで。」「また会おうね。」
各々の姿が魔方陣から発せられる光によって光の粒となり消えていく。
誠が飛ばされた先は竹林だった。そしてそこにはどっかりと胡坐をかいて大きな石の上に座る武士の姿。
その武士は片目だけを開け、誠の姿を見るとニヤリと口元を緩め「久しぶりじゃのう。」と声をかける。
誠の目の前に現れた武士。それは基礎の呪いで戦った佐々木小次郎その人であった。
誠は素直に両膝を地面につき横に剣を置き、深々と頭を下げる。
「剣の御指南を頂きたく。」
「ワシの剣でよいのか? お主たちの知識でワシは負けた侍なのじゃろう?」
「俺は馬鹿ですから。相手に対して真っ直ぐに剣を振り下ろすことしかできません。だからまずは威力のある必殺技がどうしても必要になります。そしてもう一つ、貴方に会ったら聞きたかった。『先読み』の技術です。」
「何年かけられる?」
「230年ほど。」
誠は即座に返答すると、佐々木小次郎は再びニヤリと笑い「結構。」と返答する。
「よろしくお願いします。」
そういって再び誠は頭を下げる。
佐々木小次郎は石の上からゆっくりと立ち上がると物干し竿を抜くと目にも見えない速さで周囲の竹を撫でるように身体を一回転させる。
それだけで周囲の竹はスパっと切れて竹の葉がはらはらと落ちてくる。
「まずはその剣で、落ちてくる竹の葉を切れ。綺麗に、真っ二つに。」
「この剣で……ですか?」
誠は自分の剣をしげしげと眺める。
誠の剣は大きすぎるが故、手入れはしているものの切れ味という点ではあまり効果を期待していない。
重さと力で打撃に近い剣技を与えるためのものだからである。
とても竹の葉を切れるような精密さや切れ味はない。
「よく見ろ。そして身体と剣を一体にさせろ。自分で選んだ剣なのだから、その剣を極めてみせよ。」
それが佐々木小次郎から誠に出された最初の課題だった。




