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094 進化の行き先

「成長するAIに、人格のあるAIか。もうほとんど人間だな。脳だけになった俺達と区別がつかん。」

 

「それは違う。見誤ってはいけない。」

 

「どういうこと?」

 

「AIは所詮AIだ。人間はね、脳寿命がどれだけ伸びても、結果としては死ぬんだよ。AIは死なない。」

 

「それって人間には勝ち目がないってこと?」

 

「魔王が焦る理由もそこさ。例えば俺達が230年かけて魔王一味を倒せるレベルまでなったとしよう。しかし、魔王一味も、女神も230年成長してるんだ。現時点、今という断面で考えれば230年修行すれば勝てるというだけ。それがリアルタイムの230年とイコールになるとは限らない。」

 

「なるほどなぁ。そりゃ面倒くさい。」

 

「でも、自己進化の行き着く先は自滅っていうじゃない? AIは放っておけば自死を選ぶんじゃないの?」

 

「それは可能性の一つでしかないよ。必ず自滅が約束されているとは限らない。」

 

「具体的には?」

 

「人類補完計画。」

 

「人類!?」「補完計画!?」

 

 誠とハナが驚いてシゲに聞き返す。

 

「我々の年代であれば知らぬ者はいない、人類補完計画だ。自分と他人の境界線があいまいになって、人類は一つになる。男も女も、老いも若きも。ま、既にそうされつつあるがね。」

 

「どういうことじゃ?」

 

「LAOの世界なんてのは人類補完計画の一端だよ。物理的な自分と他人の境界線は脳カプセルだけ。それらはすべて一つのLAOという機械に繋がれている。これは一つになるといっても不足はない。」

 

「そういう観点で見たことはなかったな……。あくまでも脳を直結したゲームとしか。」

 

 俊也がしみじみと感想を漏らす。

 

「このLAOという人類補完計画が超越したのは、まだほんの序章。AIの自立心化だけが問題じゃない。」

 

「まだ問題があると?」

 

「時間の超越。四次元の確立だね。」

 

「そうか! 時間の圧縮ができるという事は四次元の存在証明になり得るのか!」

 

 ハナ以外は合点がいったようで、納得しているような顔をする。

 

「まって、どういう事?」

 

「多分、みんなの頭の中にあるのは青いネコ型のロボットだ。彼の付けているポケットは『四次元ポケット』と呼ばれ便利な未来の道具がいくつも収納されている。ま、映画ではあれでもないこれでもないとガラクタが先に出てくるがね。あのポケットはなぜあんなにも色々なものを収納することができるのか。通常のズボンのポケットは三次元のポケット。縦、横、奥行きの三方向しかないから三次元。そこに『時間』というベクトルが加わることで四次元となる。だから『今ポケットにしまったもの』と『昨日ポケットにしまったもの』が同居できるんだね。だからポケットの大きさに対して、もっと大きいものや、複数のものを収納できるわけだ。また、本来ならばこんにゃくだって腐るしカビも生える。ところがポケットの中にある限りは時が止まる。だからあの便利なこんにゃくは腐らないしカビも生えない。だからこその『四次元ポケット』と呼ばれるのだね。これは元をたどれば相対性理論へと行きつく。」

 

「相対性理論って名前は知っているけれども、結局中身がわからないのよね。説明を聞いてもしっくりこないというか。私が文系だからなのかな?」

 

 ステファは相対性理論に対しての私見を述べる。

 

「相対性理論は極論で言えば、観測者Aと動く点Pの話だよ。」

 

「点P嫌い。」「なんで動くんだって感じだよな。」

 

 シゲはクックと笑うと話を続ける。

 

「数学の問題では観測者Aは常に動いておらず、点Pだけが動く話だね。これは言ってみれば自分の乗っている電車が動いていないのに隣の線路にある電車が反対方向に動いたときに『あれ? 自分の電車動いている?』という勘違いをすることが相対性理論だ。アインシュタインってのはそれをスケールアップして考えるのが得意だったのだよね。観測者Aが動かずに点Pだけが動いた場合はどうか、観測者Aも点Pも相互に動いているときはどうか。じゃあ点Pが光速で動いたときにはどうなるのか、観測者も点Pも高速で動いたときにはどうなるのか。観測者Aは動いている一方で、観測者Bは停止している。その状況下において点Pが光速で動いていることを観測した場合、どちらにとっても同じ速度で点Pが動いているならば、観測者Aは観測者Bより時の動きが遅くなければならない。時間とは人にとって一定の様で一定ではない。相対性理論はあくまでも『理論』だからね。実態に即しているかと言われれば『理にはかなっている』というのが限界だ。この辺りの解釈は難しいのだよ。」

 

「なんでLAOの世界では時間の圧縮ができるの?」

 

「それはね、脳のニューロン間で行われる電気信号は限りなく光速に近いからだよ。まぁ、真空状態や空気中の状態だからなのだけれどもね。脳髄を通って脳幹から出力される神経信号は光の速さと言っていい。だからこそ相対性理論に則れば時間の速度を一定ではなくす事ができる。ただ、その技術を用いるのが本当はすごく難しいのだけれどもね。AIの進化は恐ろしい。相対性理論を『知っている』のではなく『理解している』のだからね。多分俺の理解よりももっと深く理解しているんだろう。」

 

「頭脳派の話は面倒くさいのう。ドカッとバキッと何とかならんのか。」

 

「暴力は今までの歴史の中で、一番多くの物事を解決してきたことではあるけどね。LAOの世界にいるうちは所詮すべてがデータだ。そしてAIは学習し、進化し、成長する。」

 

「八方塞がりね。」

 

 ステファが肩をすくめて諦めの声を出す。

 

「いいんじゃないか? 放っておいて。ルカもそのうち解放されるだろう?」

 

 俊也は冷静にそう判断を下す。

 

「その根拠は?」

 

 ペインが俊也へと問いかける。

 

「まず、第一にLAOはゲームだ。そして運営がいる。ゲーム内の不都合は運営が解決すべき話で合ってプレイヤーが関与する事項じゃあない。そしてルカは元開発側の人間だ。いくらハナの親戚とはいえ自分で開発と話を付けてくれないと困る。そもそも俺達を巻き込むこと自体がナンセンスだ。AIが成長してくれるならAIが何とかしてくれるんだろ?」

 

「まぁ……多分……。あの子なら世渡りもうまいっていうか……。」

 

 ハナは自信なさげに答える。

 

「世界は変わる。常識も変わる。人も変わればAIも変わる。時間を圧縮されて230年経過した時に、俺達7人も同じ関係でいられるか?」

 

 俊也のいう事は最もだった。その意見に対しての反論は誰も持ち合わせていない。

 時間の経過は人によって異なるが、人間関係というのは時間の経過とともに変化する。それは紛れもない事実なのである。

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