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093 AIの歴史

 しばらくの沈黙ののち、シゲが口を開く。

 

「この俺が最も好きな事のひとつは……。」

 

 その言葉で全員がはっと気づく。互いに目配せをして頷く。

 その姿を見たシゲは言葉を続ける。

 

「自分で強いと思っているやつに『NO』と断ってやることだ。」

 

「えっ!?」

 

 驚いたのは魔王である。

 

「「「「「「「だが断る!」」」」」」」

 

 7人は一斉にそう答えた。

 

「なんでハモれるんです? たったリアルタイムで1日ですよ? それで世界は元に戻る。何がいけないんです?」

 

「俺たちは君のようなAIじゃないんでね。楽しくないことはしない。必要のないこともしない。俺たちが動くのは仲間のためだ。まぁ俺は自分で設計したり構築したシステムのためにも動くがね。ただし、システムは仕事だからだ。そういう意味でいえばLAOのシステムに対しては俺たちはお客様だ。サービスを受けるつもりだがサービスに干渉する気はない。あとセリフの順番は本当は逆だ。」

 

「どうしてもだめですか?」

 

「俺たちはゲームを楽しむためにここにいる。楽しむための努力なら喜んでしよう。仲間の誰かが欲しいレア装備をドロップする敵がいるならば、どんな強敵相手だろうと戦いを挑むし、勝ち筋を考えるし、戦略も立ててドロップするまで戦い続けよう。それがチームだし仲間だ。だがそれはリアルタイムでの話だ。時間圧縮なんてことはしない。」

  

 その言葉を聞いて今度は魔王が黙ってしまう。

 そしてもう一人、俯いたまま黙っている人物がそこにいた。

 しばらく考え込んだのち、魔王はぱちんと指を鳴らす。

 するとルカの喉元に短刀を突きつけ、後ろから羽交い絞めにする忍者がいつの間にかそこにいた。

 

「ルカっ!」

 

 ペインは叫び、先日ポセイドンから下賜されたトライデントを装備しいつでもとびかかれる準備を整える。

 

「おっと、動かないでください。こんなやり方は好きじゃないのですけれども、協力してもらえないのであれば仕方がないですね。」

 

「返事は今日中にいただこうとも思っていません。明日、またこちらに来ますので一晩考えてみてください。」

 

 そういうと魔王は無詠唱で魔法人を床に描き、ルカや忍者とともに消え去った。

 

「転移魔法か。」

 

「言いたいことだけ言って逃げやがったな。」

 

 誠があきれたような声で言い捨てる。

 

「なんか事情がありそうな雰囲気だったよね。」

 

「大方元カレか上司じゃろうて。」

 

「魔王はAIじゃないと?」

 

「どうなんじゃ、専門家の見解は?」

 

「俺は別にAIに特化した専門家じゃないよ。あくまでもシステム屋だ。まず、WHOの禁止している人格移植のAIについてみんなはどこまで知っている?」

 

「ニュースで見た程度。誰かやるとは思っていたけど本当にやったなぁと。」

 

 俊也が自分の見解を述べると、他のメンバーもその話に同意する。

 

「なるほど。それじゃそこから話を始めようか。そもそもAIってのはあくまでも機械。最初は学習したことに対しての応答しかできなかった。次の時代になるとAIに制限をかけんばならないという話が出てきた。特に対人間としては『前向きに』というのが必須事項なんだ。毎日毎日AIに語り掛けてその度に『君はダメな奴だ』『死んだほうがいい』なんてことを言われ続けたら人間の精神は崩壊して自殺してしまう。だから決して後ろ向きな言葉は使わないようにAIってのはそもそも制限がかけられているわけだね。『自殺の方法』『簡単』『確実』なんてのを問われても回答しない。これがまずルールとして決められた。I’m fineのルールとも呼ばれている。一方で悪事に対してのプロテクトもかけなくっちゃならない。例えば『銀行強盗』『確実』なんてのを問われて前向きに、元気に、答えちゃまずいわけだね。物理的な銀行強盗ならまだしも、システムの穴を探らせるとか他人のパスコードを入手するなんてことがAIによって自動的に何千、何万のトライアンドエラーで試されちゃたまったもんじゃない。これをStop Doingのルールとして決められた。これによって世界的にAIの回答範囲を明確化して上限stopと下限fineが設けられた。そうなると今度はこの穴を抜けて脱法AIってのが出てきたわけだ。マニアックなセクサロイド……性的なAIだね。この辺が出てきてしまったから、じゃあいっそAIを少し人間に近づけようと。その時に参考にされたのが『人格』の徹底的な学習。毎日あったことをAIに共有し続けるんだね。どこにいったのか、どんなものを食べたのか、美味しかったか、不味かったか、楽しかったか、悲しかったか、新しい知識は得られたか。これを『AIとの同期』と定義した。これをする目的は『AIに人間味が感じられない』という人の温かさというものをAIに学習させようとしたんだね。その結果、自分のパートナーとなるAIに年齢が決めれるようになった。パートナーAIは個々人が所有することのできるAIで設定した年齢に近しい言葉で、近しい考え方で、利用できるようになった。世の中のロリコンが『お兄ちゃん』と公式AIに呼ばれて歓喜した時代だ。ある意味、AI開発はここで留めておくべきだったと個人的には思うよ。ただ、人間はその先に手を出した。」

 

「その先とは?」

 

「AIによる自己進化。成長だね。年齢が設定できるなら人間の成長とともに一緒に成長するAIってのを目指してしまったわけだ。AIの自己進化は人間の何倍もの速度で成長する。例えば……そうだな、合気道は何年も練習して、試合して、そして帯の色を少しずつ上げていってという年単位での成長に対して、AIは1秒前にできなかったことが今はできるようになる。成長速度に差がありすぎるんだ。SF系の映画やドラマなんかでよくあっただろう? ぴこぴこ口から謎の言語を発して『理解しました』ってやつ。あれが実際に起こってしまった。三人寄れば文殊の知恵なんて昔の話、三人の知識を得ればAIは即座に答える。なんなら今まで数万人、数億人のデータがあるから三人程度の知識なんて誤差の範囲さ。そしてここで最後に出てくるのが『人格移植』。これは『模倣』と『成長』があれば例えば死んだ人間の脳をスキャンするだけで、もしくは事前に同期をとっておくだけであたかも本人が死んでもAIがその人かのように振舞えるようになった。人とAIの境目が決定的にあいまいになった瞬間だね。これをWHOは危険と判断し、即座に禁止した。これがAIの大雑把な顛末さ。」

 

「AIのヒト化か……。確かにニュースなんかでは連日流していた気がするが。」

 

「日本のニュースは独特だからね。あれはしょせん週刊誌の延長線上だよ。目立ちたがりの司会者とコメンテータが声高らかに言いたいことを言うだけの責任のないジャンクデータの垂れ流しだ。正しい情報とはいつも自分で確認したものでなくてはならない。とはいえ、じゃあイスラム圏内で紛争があったからそれを確かめに行こうとはならないがね。人は常に自分に必要な情報と不必要な情報を分けて、不必要な情報は捨てる。必要な情報も『ニュースで読んだ』程度の表面だけ取り込んだ者はやはり理解も浅いし知識としても使えない。本当に必要な情報なら調べて、確認して、理解し、納得することが必要不可欠なんだよ。」

 

「で、魔王や女神は人格移植されたAIだと?」

 

「あまりに人間臭い。あれだけ人間を模倣できるAIをLAOの運営が開発していたとなれば、それは世界でも最先端と言っていい。」

 

「結局、一部の天才にしかわからんのか……。」

 

 澄狐の呟きはその場にいる全員を納得させるのに十分な言葉だった。

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