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092 魔王

 男の子がおずおずと中の様子を探っている。

 

「いらっしゃいませ。」

 

 ステファが男の子にそう声をかけると、「いいですか?」と男の子が聞いてくるのでステファは迷うことなく「何処でもお好きな席へどうぞ。」と応える。

 男の子は髪が長く銀髪で肩ぐらいまでの長さがあり、軽くウェーブがかかっている。身なりはよく、決して貧しい身ではないことが見て取れる。

 男の子は一番手前のテーブル席へと座ると、ステファがメニューとお冷を持って注文を取りに行く。

 

「ではこの、紅茶とシフォンケーキのセットを。」

 

「畏まりました。」

 

 そういってステファはキッチンカウンターの裏で紅茶を入れる準備を始める。

 その後数分してステファは紅茶とシフォンケーキをお盆にのせて男の子の席へと届ける。

 男の子は紅茶を一口飲んで、ふうと一息吐くと立ち上がり、シゲたちのいるテーブルへと近づく。

 

 LAOの世界ではPlayerKiller(通称PK)は許容されている。そもそもゴシックロリータは場所を知るものしか来れないような場所にある。

 そんなところに子供の姿で来た時点でシゲたちの警戒度はMAXである。

 男の子はぺこりと頭を下げると「こんにちわ、魔王です。」と、突然言い放った。

 あまりの礼儀正しさに、皆一様に頭を下げてしまう。

 

 男の子は話を続ける。

 

「魔王というのは役職で、一応LAOのゲームの中で冒険者の皆さんを倒し倒されるためのボスです。確率でレアアイテムもドロップします。」

 

「そりゃそうだろうな。レアドロップのないボスなんて聞いたことがない。」

 

 誠が少し投げやりに茶化す。

 

「ポセイドンにしてもそうだったけど、なんていうか子供がボスなの?」

 

 ハナが魔王に対して質問をする。

 

「この姿は、一番話を聞いてもらえるかなと思って変更してきました。角とかマントとかあるとここまで来れないような気もしていたので。」

 

 魔王は誰しもが納得する理由を述べる。

 

「さて、本題に入らせてください。LAOには7人の女神がいるように、7人のボスが存在します。それらを束ねるのが魔王となってます。先日戦っていただいたポセイドンはボスの一人です。」

 

「なるほど。」

 

「あっ、別にボスを倒すなとかそういう話じゃないんです。できれば冒険者の皆さんにはどんどんボスに挑んでもらって、勝てたり勝てなかったりしてくれないと次のアップデートが出来ないので。」

 

「ではどうしろと?」

 

「本来の道筋では、女神の加護を受けた冒険者がボスを倒すことで世の中が段々にアップデートしていく予定でした。ところが何を思ったのか、女神が暴走し始めた。隠しパラメータとして存在していたステータスを表に出してきた。」

 

「俺がポセイドンの槍を下賜されるところまでは計画通りってことか?」

 

「はっきり言えばイレギュラーです。ポセイドンは倒すことが可能なボスですよ。あなた方が我々の想定より弱かったのです。」

 

「はっきりと言うねぇ。」

 

 誠が魔王の言葉に反応する。

 

「プレイヤースキルだけで対応できるほど、LAOの世界は易しく作ってません。キャラのレベルを上げて、スキルレベルを上げて、プレイヤースキルを磨いてくれないとこちらとしても張り合いがない。それは毎日の積み重ねでしか得られないことはあなた達でも理解しているでしょう? 問題なのはそのスキルが制限されている事です。」

 

「スキルはMODとしてどこでも売っているだろう? 制限がかかったとはどういうことだ?」

 

「スキルは確かにMODとして販売されています。どのような企業でも、個人でも開発可能でLAOの内部で販売は継続されてます。問題は……。」

 

「問題は『女神の加護』を得られるMODとそうでないMODの差だろう?」

 

 魔王の話を聞きながら考えこんでいたシゲがやっと口を開く。

 

「その通りです。公式が販売しているMODは基本的に女神の加護がつきますが、そのほかの企業や個人が開発したMODは女神の加護がつかないケースが多い。今、リアルではLAOの開発会社とMODの販売会社で喧々諤々の大揉めしています。公式MODだけが優遇されていると言ってMODの開発会社が次々と訴訟準備を進めています。」

 

「で、魔王様直々に俺たちに何をしろと?」

 

「端的に言います。あなた達には強くなってもらいたい。少なくとも魔王である私を倒せる程度まで。」

 

「期間は?」

 

「リアルタイムで1日。ゲーム内時間で236.7123287671233年。」

 

「リアルタイムとゲーム内時間は一緒に流れるのではないのか?」

 

 澄狐がもっともな質問をする。それに応えたのはシゲだった。

 

「圧縮するんだよ。1日である86400秒を365日で割るとだいたい236年になる。閏年は割愛しているがね。236秒……つまりは約4分で1年過ごしただけの経験を得ろと魔王は言っているのだね。」

 

「ご明察。その通りです。ただ、これには脳負荷が確実にかかります。耐えられなければ途中で脳死になることもあり得ます。」

 

「シゲ、こやつの言う事は本当か?」

 

澄狐はまだ魔王のいう事が信じられていない。 

 

「理論値では可能だよ。脳年齢は500歳まで生きられると検証結果が出ている。これは実際に500年生きた結果ではなく、脳への時間圧縮の結果500年までは脳の老化が微々たるものであるという研究結果だ。脳は肉体に引っ張られて老化する。これは自律神経や目からの刺激、その他身体を動かすことに使用する末端神経系の処理に脳のリソースが割かれるためだ。脳だけの状態となれば、それら肉体の管理から解放され、脳単体の生存は約500年というのが結論だ。ただ、個人差は確実にあるだろうけどね。全員が全員、500年生存できるわけじゃない。」

 

「我々の中で誰かが耐えられずに脳死したら?」

 

「その時はまた別の方を探します。と、いっても候補は既にピックアップされています。」

 

「我々が、魔王の望むところまで強くなれなければ?」

 

「その時もまた別の方にお願いします。失敗してもリアルタイムでは1日しか経過していませんのである程度の余裕はあります。」

 

「既に候補になっている者全員に対して一斉に適用すれば効率的なのでは?」

 

「LAOのシステムリソースをFULLで使用するので多角的に実施することはできません。」

 

「具体的にどの程度の強さを求められているんじゃ?」

 

「そうですね……。今、LAOのトップランカーである人がLv300程度。これが15年運営してきての最大値です。7体のボスのレベルは1000~ですからもう少し。あと数年たてばLvが500とかのパーティが出来てボスに挑む者も出てくると思っていました。ところがあなた達はLv100以下でスキルレベルとプレイヤースキルだけでそれを壊してしまった。ボス側としては倒されるのが仕事なのでまぁいいかなと思っていたのですが、女神の側としては面白くなかったのでしょうね。自分の加護を受けずに、しかもキャラレベルも低いまま世界を進めてしまった。だからこそ女神の加護に世界を寄せる為に今のような暴挙に出たのだと思います。」

 

 その魔王の言葉を聞いて一同は黙ってしまった。

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