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090 秩序と混乱

 COSMOSとは秩序、CHAOSとは混乱と直訳できる。

 しかし、今回のケースは「属性」なのである。状況を表しているのではない。

 世界はいつも混沌としている。一面を見れば秩序が保たれているように見えても一本裏道に入れば様変わりすることは多々ある。

 夜になってみれば世界が変わることも多々ある。

 昼の顔と夜の顔。そういった二面性は人間の中だけではなく世界にも表れる。

 

 もっと具体的な話をしよう。

 今回の話のキモは『信仰』である。ではカトリックなら秩序が保たれるのか、イスラムなら混乱なのか。

 そう簡単な話ではない。それらが複雑に絡み合った結果、世界というのは構成されている。

 シゲたち一行が、来た道を引き返して潜水艦を使って街に戻るとそこには秩序などどこにもないくらいに崩壊していた。

 

 冒険者と思われるプレイヤーは、自分と同じ属性のパーティを求め

 今まで仲の良かった人間関係をすべて捨てて、属性一致を求めている。

 そしてNPCからの買い物についてはCOSMOSであろうとCHAOSであろうと10倍以上の価格で取引されていた。

 本来であれば属性一致や不一致での価格変動だけが発生するはずだったのだが、これはそれ以上の価格で提示されていた。

 

「なんでこんなにインフレが……。」

 

 ステファが驚いて声をあげる。

 

「こりゃ、おかしいぞ。こんな事になるなんてアナウンスはなかったはずだ。」

 

 俊也も現状が呑み込めずにいた。

 

「なるほど。『揺り戻し』が出来なくなったのか。」

 

 シゲがポツリと答える。

 

「シゲ、なんでお主はこう原因が予測できるんじゃ。」

 

「推論だけどね。一応聞くかい?」

 

 シゲの言葉に対して全員がこくりと頷く。

 

「そうだなぁ……じゃあ例えばパン屋があるとしよう。パン屋が1個100円でパンを作ろうと思うじゃないか。そうなるとすごい雑に計算すると10個のパンを作るのに必要な小麦粉やらイースト菌やらを最低300円くらいで入荷しないとならない。パン屋の原価率はだいたい30%~40%と言われるからね。じゃあパン屋はどこから小麦粉やイースト菌を手に入れる? 小麦農家から直接買い付けはしてないだろう? そう、ここで出てくるのがいわゆる問屋。総合商社から販売店が噛んでいるかもしれない。商業ギルドの管轄だな。商業ギルドの面々はじゃあどの女神の加護を受けている? 答えは『どの女神にも属さない』だ。商業ギルドはなんでか知らないけど日本的な神社に傾倒している。個人的には七福神の布袋や恵比寿なんてのは好きな神様じゃないんだがね。」

 

「それがどうしてインフレの原因になるの?」

 

「パン屋が小麦を直接仕入れができないってことは、間の問屋や販売店がCHAOSの場合小麦農家がCOSMOSの場合、まず小麦農家から問屋への販売が1.5倍になる。そして次に問屋から総合商社は0.5倍で販売される。これは同じCHAOSだからだね。ところがだ、問屋は100円で買ったものを決して100円で総合商社に売りつけるわけではないという事だ。それをしてしまうと自分たちの儲けがゼロどころかマイナスになってしまう。ここで最初から見直してみよう。小麦農家は本来100円の小麦を150円で問屋へ、問屋は総合商社へ本来は150円で売るはずだったものが買値が150円になってしまった。それじゃ売り上げにならない。50円の差額が得られるのを属性一致で半額にしなくてはならない。よって問屋から総合商社へは175円で販売される。総合商社は販売店、まぁスーパーマーケットとかだと思えばいい。そこに売る場合、従来だったら200円で売っていた小麦を同一属性のスーパーには200円で、別属性のスーパーには262.5円……まぁここは切り捨てて262円としようか。この時点でもう価格差が発生している。スーパーだって儲けを設定しなきゃならない。こうなるともうぐちゃぐちゃだ。あっちこっちで価格変動が発生する。」

 

「それでも10倍になるってのは、いきすぎじゃ……。」

 

「今のは単純化したケースさ、間に問屋が入るといっても輸送費なんかを完全に無視して机上で計算している。」

 

「輸送費ね……。」

 

「そう、そして輸送するにも人件費、馬の餌代、距離によっては宿代など経費も掛かる。」

 

「経費がかさめばアドオンされる金額も変動するってことか。」

 

「ご明察。こんなのが繰り返されると倍々ゲームとは言わなくても、末端価格は跳ねあがる。」

 

「何考えてるんだ、ここの運営は……。」

 

 誠が投げやりにそう呟く。

 

「運営じゃないと思う。」

 

 そう断言するのはルカである。

 一斉にルカの方をみんなが見つめる。

 

「運営……正確には開発側だけど、私が所属していたところではもっとこう牧歌的な第二の人生を謳歌できるように設計されてたし、開発チームもそういうクエストを用意するようにしてた。ただし、所謂やり込み要素も入れなきゃいけないので、それは専門チームが作ってた。基礎だけじゃなく、もっと色々なやり込み要素を作っていたはず。」

 

「では『女神』とは一体何なんだ?」

 

 ペインがルカに対して質問する。

 

「私が知っている限り……『女神』は7体のAIよ。」

 

「NPCのAIとは異なるのか?」

 

「ええ、NPCのAIはあくまでも市民としての振る舞いをするための基本的なAI。それに対して『女神』は全く異なる専用AIが7体用意されていたはず。」

 

「AIの反逆はネタとしては古くないか?」

 

「女神のAIは特別製なの。」

 

「どう特別製なの?」

 

「聞いた話……あくまでも噂話だった。信憑性は五分五分だけど……。」

 

「それでもいい。聞かせてくれ。」

 

「どこかの偉い人の子供が脳腫瘍になって……まだLAOが出来上がってなかったし、脳腫瘍の場合は脳だけにしても病気が進行するから……。」

 

「まさかAIへの人格移植か? あれはWHOでも禁止されていたはずだぞ?」

 

「どういう手段をとったのかはわからない。でも、そういう噂があったのは本当。まさか『女神』に使われるとは思っていなかったけど……。」

 

「運営は? 運営は動いてくれないの?」

 

 ハナは悲痛な声で叫ぶ。

 

「今、女神のAIをLAOから切り離すのは困難だろう。既にNPCのAIも支配下にあると見ていい。『揺り戻し』がなくなればLAOは崩壊する。」

 

「そんな……。」

 

「正面切って『女神』を倒せと、そういうこったな。」

 

 誠の言葉に納得する。ゲームでの秩序はゲーム内で解決するほかない。

 

「まずは……女神に対抗できる神々を探そう。」

 

 そのシゲの言葉に全員が頷いた。

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