085 宝島~ブレドウィナー⑨~
「この世界にはこの世界のルールがある。」
シゲは神妙な面持ちで説明を続ける。
「そりゃゲームだもの、ルールがなくちゃやってられない。」
俊也が思わず口を挟む。
「あぁ、ゲームだ。しかし、このルールというのが少々面倒に作られていてね。」
「世界の在り方を語るというのか?」
澄狐は核心に迫る質問をシゲに投げかける。
「いや、そんな大層なものじゃない。もっと単純な話なんだ。この世界は7人の女神を信仰することでバランスがとられていることになっている。」
「7人……。」
シゲは誠を指さして「まず、『剣の女神』」
次に澄狐を指さして「次に『格闘の女神』」
更にステファを指さして「知っての通り『愛の女神』」
俊也を指さし「『速さの女神』」
そしてペインを指さし「『誉の女神』」
寝ているハナを指さして「『音の女神』」
最後にシゲは自分自身を指さして「『魔法の女神』」
「この7人の女神は全ての基礎スキルと基本スキルに紐づいている。色々と文献を読んだが、これがこの世界の根幹となっていると踏んでいる。」
「結局、基礎に話が戻るのか。」
「そう、全ては初めに回帰する。これがスキルによって書き換えられる世界を揺り戻す力になるのだろうな。」
「普通は『女神の加護』ではないのか?」
ペインがシゲに問いかける。
「加護というのであれば加護なのだろうね。スキルによって書き換えられてしまうはずの世界を元に戻す。それはとても大事な役目だ。」
「この話、ハナは知っておるのか?」
「あぁ、ハナも作家の端くれだ。俺が図書館で文献を調べているときに手伝ってくれたし、俺の仮説は十分に聞いている。」
「そう、この話は知っている。」
その声を聞いて一斉に後ろを振り向く。
そこには首を回しながら立っているハナの姿があった。横にはルナの姿もある。
「ハナ、もういいのか?」
「多分大丈夫。頭痛もなくなった。ま、なんとかなるでしょ。」
そういいながらハナはグーッと背伸びをする。
ルナはててててとシゲに走り寄る。
「なぁハナ。いったん退かないかな? 再チャレンジしてもこのクエストなら問題ないでしょう?」
意外なことにステファがハナへと確認を行う。
パーティ随一の回復役が進言するのだから、これはよっぽどの事である。
「んー。でも、ステファができるのはあくまでもゲーム内の回復だけでしょう? 私のはもうリアルまで及んでしまっている。変わらないよ。」
そういってハナは自分に貼られた呪符を引きはがすと、破って捨てる。
その姿を見て、全員の視線はシゲへと集まる。結局決めるのはリーダーであるシゲなのである。
シゲはふうと一息つくと、「致し方ない。このまま続行だ。」と言うしかなかった。
その一言を聞いた全員は、最終決戦に向けて準備を整える。
出していたティーセットをしまい、テーブルと椅子もしまう。
ハナとルナを寝かせていた敷物も仕舞う。
そして各々は自分自身の最強の武具を装備し、準備を整える。
ルカも初めから龍の姿となり、背中にペインを乗せていつでも飛び立てる準備を整えた。
先頭には誠、その横には澄狐とルカに乗ったペイン。
続くのは俊也とハナ、その後ろにステファとシゲが続く。
この三列構成が本来のベスト隊列。超攻撃型の陣形である。
場合によってはペインの1トップになり、二列目に誠と澄狐が続く場合もある。その場合は四列構成になる。
四列構成はどちらかと言えば、防御隊列。とにかくペインが攻撃を一手に引き受ける。
今回は超攻撃型の布陣である。ボスとの戦いを長引かせる気はない。
全員の超高火力のスキルを用いて一気にカタをつけるのが目的である。
誠は大剣を構えて、グッと腰を落とすとそのまま駆け出す。
それを合図に全員が一斉にブレドウィナーへと向かって駆け出す。
何があってもこのメンツで戦えない相手などいるわけがない。
ピラーが張っていたバリアの場所を超えると声が聞こえてくる。
「我の眠りを妨げる者よ、その罪の深さを知れ。」
その声と共に、ブレドウィナーの前には人物が現れる。
人物と言っても小さい。大変に小柄である。それはまるで子供くらいのサイズしかない。
その人物は両手に何も持たず、俯いたまま微動だにしない。
誠は有無を言わさずその人物に向かって大剣を振り下ろす。
しかし、その人物に当たる前に大剣は弾かれてしまう。澄狐は渾身の拳を打ち出すも、それも人物に当たる前に弾かれる。
ペインは低空を滑降しながらランスを突き出すも、人物に当たる前にそれすら弾かれる。
ならばとハナはシャムシールで何度も切りつけようとするが、それすらも全て当たる前に弾かれる。
俊也の短剣も低い位置から、急所であるみぞおちを狙って突き出すも身体に当たる前に弾かれる。
仲間全員が、人物からの距離があることを確認するとシゲはファイアアローを上空に展開して一斉に降らせる。
その爆炎で周囲に土煙が巻き起こり、全員が一旦下がって土煙が晴れるのを待つ。
徐々に薄れてゆく土煙の中、その人物は微動だに動くことなくその場に立ち尽くしている。
彼らの攻撃は全て、一度もその現れたボスに対して有効打とはなり得なかった。
「おいおい、マジかよ。」
誠が嘆きの声をあげる。
「バリア……っぽいね。」
唯一攻撃を仕掛けていないステファが分析する。
「当たる前に弾くとは、難儀じゃな。」
「何かカラクリがあるものだと思ったほうがいいのか。」
俊也はゲームを必ずゲームとして捉える。そこにブレはない。
だからこそ、こんな理不尽には必ずカラクリがあるものだと断定している。
だから俊也は素早く周囲を見渡す。ほんの少しの違い、些細な事でも見逃さないようにする。
「ハナ!」「澄ちゃん!」
ハナと澄狐は互いに互いの名を呼びあうと、それぞれ四神の力を降臨させる。
ハナは左腕に白虎の力を、澄狐は右腕に青龍の力を宿し、左右に展開して一気に敵との距離を詰める。
「白虎電雷!」「青龍乾坤!」
しかしどちらの攻撃も敵に当たる前に弾かれる。
「ちっ、この程度じゃダメか。」
「そのようじゃな。」
バリアに吹っ飛ばされながらも体勢を何とか保ちながら二人はそれぞれ吐き捨てる。
「二人でダメなら!」「三人なら!「どうだ!」
今度は三方向から誠、俊也、ペインが敵に向かって一斉に攻撃を行う。
「雷鳴剣!」「帯電突き!」「ライトニングスタブ!」
しかし三人の同時攻撃もバリアにむなしく弾かれる。
それでも全員が全員、雷系統の技を自然と選択しているのはゲーマーならではといったところであろうか。
敵の弱点を突くのはセオリー。しかしそのセオリーを以ても敵に対して全くダメージが与えられていない。
俯いていた敵がようやく顔をあげる。
その表情は俯いていた時から一変し、怒りに満ち満ちた表情となっている。
「我が眠りを……。」
「妨げたなあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
そう言葉を発しただけで衝撃波が発生し、全員踏ん張りがきかないほどの衝撃となり吹き飛ばされる。
そしてしたたかに床に打ち付けられる。




