101 特別回~男だけの昔話~
「海だー!」
「真っ暗で夜明け前だけどな。」
「それはいいんだけどよ。今日は何用で男だけなんだ? しかも浜辺じゃなくて漁港だし。」
「そういう日があってもいいじゃないか。」
そう答えるのはシゲである。
「海と言えば水着回だろ! なんで男だけで海なんだよ!」
そういって反論するのは誠である。
「ルカは来ようとしていたけど、急用が入ってな。」
「ルカちゃん、カムバーック!」
「でも今日の本題は水着じゃないぞ?」
「海なのに? 水着じゃないの?」
「あぁ、今日は釣りだ。ダイヤマグロの目が欲しくてな。」
「ダイアマグロっていやぁレアモンスターじゃないのか?」
「レアだね。その中でもダイヤの大きさが100カラット以上の大型のものが欲しくてね。」
「なんだ? とうとうハナと結婚でもするのか?」
ペインがいつになくシゲにトゲを刺す。
「まてまてまてまて。1カラットが0.2グラムだぞ。100カラットって20グラム以上の超大粒ダイヤじゃねぇか!」
「案外詳しいな。」
「誠がダイヤに興味があるとは知らなかった。」
「そこは……別にいいだろ。」
「誠が言葉を濁すのは珍しいですな。」
そういって俊也が誠を茶化す。
「あーもう。船にのりゃいいんだろ。」
そういって誠は港に用意されていた船へと乗り込んでいく。
あとのメンバーはシゲの用意した釣り竿などの道具をそれぞれ分担して船へと運び入れていく。
「船長、それじゃお願いします。」
「あいよ。」
そういって漁船は港を出港していく。
本当であればシゲが操船しても構わなかったのだが、今回は初の海域という事で漁船をチャーターした。
船の操船というのは実は色々と難しい。
海の上というのは無尽蔵に好き勝手走っていいのではない。
例えば大型船のフェリーの航路を横断してはならないし、海苔や貝類の養殖をしている場所には近づいてはならない。
また、海域を知らなければ岩礁など詳しい情報を予め理解しておかねばならずうかつに岸へと近づけない。
オート操船という方法もあるのだが、今回のケースでは船を走らせながらの釣りとなるため結局漁船をチャーターする方が良いのである。
出航して30分もすると360度どこを向いても海だけになる。
「はい、落としてー。」
船長からの指示に従い、トビウオ餌やヤリイカ餌をそれぞれ落としていく。
そして餌がさも生きているかのように見せる為、船は速度を落としてそのまま走り続けるのである。
これが、オート操船ではなかなか実現が難しく、かつシゲの操船では悩ましいというのが原因だった。
「しかし、これはまた暇な話だな。」
「だから道連れにしたのだよ。こんなの一人でやってちゃ飽きて仕方ない。」
「昔のMMOでも釣りってあったけど、ありゃただの放置だもんなぁ。」
「飽きるというか、リアルで寝てる間に釣りで放置しておくかみたいな。」
「その割に、別にいいもの手に入るわけじゃないんだよな。」
「そう考えると、何でもかんでもリアルにすればいいってもんじゃないよな。こんな釣りなんて誰がするんだ?」
「そりゃリアルの釣り好き連中だろうさ。」
「で、今回の狙いのダイヤマグロって結局何なのだ? ただのでっかいレアモンスターってことはあるまいよ。」
「基本的にはマグロだな。」
「いやまぁ、そうなのだろうけど。食えるのか?」
「食えるんじゃないのかな。結局レアだから流通に乗ることがないんだよ。」
「レア、レアっていうけど単純に個体数が少ないとかそういう話なのか?」
「いや、この海域では『ルビーマグロ』ってのがいるのだけれども、そのうちの65535分の1の確率でダイアマグロになるって話だな。」
「誰だよ、その数数えた奴は。」
「誰かが解析したんじゃないのかな。逆アセンブリすればできなくはない。」
「できねーよ! ってかシゲはその手のレアモンスターの情報とかレアアイテムの嗅覚とか昔から異常に高いよな。」
「あのクリスマスイベントとか公式から何も発表なかったのに初日からガン決めしてたよな。」
「え、だってアップデートファイル数数えたらわかるじゃん。」
「は? なに?」
「いや、アップデート前とアップデート後のファイル数かぞえるじゃん? そうするとアイテムとして何個、新実装されたかがわかる。で、あとは実際にレアじゃないアイテムを全部揃えてしまえばあとはレアとして埋まっているアイテムが何個あるのか判定できる。」
「ただのクリスマス遊びイベントだと思ってた……。」
「基本的にはそうだね。サンタ服とか、サンタ帽子、トナカイ服にトナカイ帽子が実装された。あとはランダムでモンスターに変身できるお遊びスクロール。」
「じゃああの時のアップデートファイルで5個以上あったからレアアイテムが眠ってるって判断したのか?」
「いや、あの時のイベントは実は変身スクロールが内部的には6種類に分けられていたんだよね。」
「は? 初耳なんだが?」
「ちゃんとその辺は確認するようにした方がいいよ。変身できるモンスターをアイテム使用の際に100種以上ある中からランダム実施というのはシステム負荷がかかりすぎる。そんな無駄なことはしないでABCDEFの6種のスクロールで15~20種類のモンスターに変身できるようになっていたよ。まぁこの辺があの頃のシステムの限界だろうね。」
「それでアップデートしてから即ダッシュしてたのか……。」
「最終的にあの装備はサーバ内で持っているの3人だけだったしね。運で出したのが二人、出るまでやったのはシゲだけさ。」
「珈琲とタバコの消費量がえぐかったな。あの頃はエナドリとかもなかったからね。」
「栄養ドリンクはあったじゃないか。」
「平成の栄養ドリンクって意外とアルコールが入っていてね。油断して飲むと寝るんだ。」
「マジか!」
「アルコール度数はかなり低いのだけど、徹夜明けに飲むとアルコールで死ぬ。」
「死ぬって……。まぁゲーマーとしては死ぬのか。」
「酒飲んでMMOはやっちゃいかんよ。」
「立ってゲームしてたもんなぁ。寝ないように。」
「AFK(Away From Keyboard)と言ったっきり帰ってこない奴いたよな。」
※キーボードから離れる。離席の意味。
「いたいた。OTK(On The Keyboard)は案外流行らなかったな。」
※キーボードの前にいるけど別のことしているの意味。
「まぁキーボードの前にいて別の事って何するんだと。」
「基本的にMMOは全画面表示でやるものだったからなぁ。裏画面に行ってもいいけど攻略サイトのマップ確認とか最初だけって感じで、結局は全部覚えてないと話にならなかったから。」
「安置(安全地帯)以外でそもそも放置は死ぬ。」
「安全地帯に稀に敵湧いて装備外して放置してる奴が片っ端からKILLされて酷いことになったりしてたよな。」
「懐かしや50年前の想い出。」
「歳をとったもんだ……っと引いてるぞ! マグロじゃねぇのか!」
「よっしゃ! 巻くぞ巻くぞ!」
そうして男共はくだらない話をしながらマグロ漁に明け暮れるのだった。




