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第101話 二つの顔

 俺は病院内の通話スペースに行くと、即座に堂宮刑事に連絡した。

 椿は紅葉ちゃんに付き添うため、彼女と病室に戻っていた。


【もしもし、堂宮ですが。金谷君かい?】

「刑事さん、すみません。今……お時間大丈夫ですか?」

【ちょうどよかった。君たちに伝えたいことがあるんだ。アリバイの確認が取れたよ】


 紅葉ちゃんの見舞いに行く前に、刑事さんにお願いしていたことだ。

 それなら、話は早い。


「ありがとうございます! こっちもお伺いしたい話がありまして……。大変申し訳ないですが、迎えに来ていただけませんか?」

【わかった。君らをボディガードする義務もあるからね。今、病院かい?】

「はい」

【じゃあ、玄関に出ていてくれ。すぐに行くから】

「お願いします」


 その後、俺と椿は玄関で堂宮刑事と合流し、一度警察署に向かうことになった。


「刑事さん、すみません。申し訳ないですが、飛ばしてくれませんか?」

「ちょっと、リツ!」


 椿の激しい耳打ち。


「すまねえ。でも、事は一刻を争うんだよ」

「あなたの言いたいことはわかるけど、相手は警官なのよ。道交法違反推奨してどうするの」

「申し訳ない、マジで」


 その話を聞いていた堂宮刑事が口を開いた。


「わかった。なるべく近道して進むよ」

「ごめんなさい、刑事さん」


 俺は申し訳ない気持ちで一杯になった。

 だが、急がなければならないことに変わりはない。

 少しでも時間短縮を図りたいので、俺はさっそく運転中の堂宮刑事に話を切り出す。


「いま、ちょっとお話いいですか。急いでいる理由なんですけど」

「簡潔に頼む」

「まず、現在、酒川刑事はどうなっていますか?」

「署の方で保護している。越川ほか足立班の刑事が見張っているよ」

「わかりました。病院から、朝永さんと泰子ちゃんがいなくなりました。時間的についさっき、病院から出て行ったみたいで」

「それは本当かい? そもそも、彼らは怪我をしていたんだろう?」

「はい。ただ、動くことはできたと思います。深い傷を負ったわけじゃないし、自作自演を図るなら、今後の目的を遂行するために、手加減はしているはずです。そして、二人はその目的を果たすために、病院を出たと思うんです」

「目的?」


 目的を語る前に、この事件の真相を語らないといけない。

 俺は堂宮刑事の言葉に応える形で、真相を話すことにした。


「この事件は、姉川班に恨みを持つ人間の犯行なんです。昼に話したように、犯人は朝永さん、そして一緒に行動していた女の子、泰子ちゃん」


 朝永正和。〈殺し屋X〉から身を守ってほしいという依頼を持ち掛けた人であり、県内にある大学の大学院生を名乗っていた男性だ。朝永さんが一連の犯行を実行したと考えれば、様々なことの辻褄が合う。

 そして、泰子ちゃんも一部の事件においては、彼女が犯行を実行している。

 少女が殺人事件を起こすなど、普通は信じられない。みんなも初めは信じてくれなかった。

 俺はこれにもからくりがあると考えていた。


「俺の憶測にはなるけど、朝永さんの本職は警官だ。そう考えれば椿の車の中で、朝永さん自身に銃を向けたことも、犯行現場に指紋がつかなかったことも、姉川警部の好みを知っていた事にも納得がいく」

「リツの考えによれば、こちらや警察の動きが手に取るように分かり、さらに私たちと行動することで、アリバイの立証もできる……という寸法だったよね。でも、どうやって犯行を進めたの?」

「警官と大学院生、二つの顔を使い分けたんだろう」


 彼は警察としての顔と大学院生としての顔を持っている。両者を使い分けることで、アリバイを確保しつつ、ターゲットを確実に仕留めるのが犯人の作戦だ。


「それなら、姉川班の警官を誘導する必要があるじゃない。どうやって行なったというの?」

「同僚の警官として、連絡を取っていたとしたら?」

「同僚の警官?」


 彼らの正体をはっきりさせるため、俺は堂宮刑事に堂宮署に所属する刑事全員の事件時の行動がどうだったか調べるよう、お願いしていた。

 堂宮刑事は調査結果を話してくれた。

 

「第一の事件も、第二の事件も署内の警官のアリバイは取れているよ。ただ、一人だけ、アリバイを確認できない刑事がいる」

「それが、朝永さんですよね。まあ、同僚を装うなら、別の名前を使っているかもしれませんけどね」


 堂宮刑事はうなずいた。


浅井(あさい)正也(まさや)警部補。同じく姉川班のメンバーだよ。数日前から家庭の事情で休職しているはずなんだけどね……。浅井警部補の指紋と、旅館で彼が触った食器類から出た指紋が一致した」

「そうか。同じ班の同僚としてなら、誘導は簡単かも……」」


 これで朝永さんが警官であることが確定した。しかし、堂宮刑事は含みのある言い方をしていた。


「だけど……写真で見たのと顔が全く違う。なんであそこまで巧妙に変装できたんだ?」


 それは、俺にとっても疑問だった。

 同じ堂宮署の警官なら、おそらく堂宮刑事とも面識はあっただろう。しかし、堂宮刑事は一度も朝永さんを疑ってはいなかった。


「変装って……朝永さんってもとはあんな顔じゃなかったんですか? 堂宮刑事は、浅井って刑事さんと面識は……」

「いや、ないな。昔常盤署にいたこともあったそうなんだけど、県内の別の署に異動になってて、最近この四月に戻ってきたんだ。姉川班は姉川班でも、彼は別行動をしていたらしい」

「孤立していたんですかね……」

「それはわからない。しかし、指紋が一致している以上、同一人物とみて間違いない」


 これで謎が一つ解けた。

 朝永さんは警察としての顔と依頼人としての顔を使い分けながら、巧みに姉川班を誘導した。時として、泰子ちゃんと連携を取りつつ、ターゲットを手にかけた作戦に出たのだ。


「それでは、この事件の全容を話します。命を狙われていた〈殺し屋X〉の、相手の策を逆手に取った殺人劇を」


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