第54話 彼の増援
『久しいな、友よ』
「ええ、久しぶりね」
『一万年ぶりの世界は君の目にどう映る?』
「色々と変わって驚いているわ」
『次代への継承は滞りなく行われ、世界にはあらゆる可能性が見える様になった』
「アナタには目の眩む世界ではなくて?」
『どう感じるかは個々によるだろう。少なくとも君が思っている以上に世界は“絶対”では無くなった』
「私は正直信じられなかったわ。アナタがアレを放置していたなんて」
『“呪いの子”か?』
「ええ。『太古』よりアレの方がずっと危険よ」
『心のある存在だ。危険はない』
「そうかしら? 心は変わるものよ。正しいと信じていればいる程……歪にね」
『……友よ、世界は君の思っている以上に疲弊している。これ以上、四魔獣を喚べば『太古』が黙ってはいないだろう』
「フフ。アナタにとっては好都合でなくて?」
『君の事を思っての言葉だ』
「ありがとう。でも安心して、今のままだと二体以上の四魔獣は制御出来ないから出さないわ」
『事が終わったら語り合いたいものだ』
「ええ、色々と聞かせて頂戴。アナタの話は結構好きだから」
「お呼びですか?」
『未来視の魔王』は臣下の女騎士を呼びつけた。
「マリア、『剣の魔王』と『砂の魔王』に連絡を取って欲しい。『歪の魔王』には決して手を出すなと」
「ソード様はそれで納得するでしょうか?」
「個人的な頼みだと言っておいてくれ」
「補填はこちらで判断しても?」
「任せる」
「わかりました」
女騎士は一礼して場を後にした。
「……友よ、未来は変わる。私たちの手ではなく時の継承者たちの手によって」
『未来視の魔王』は確定した未来を見た。そして、自身も覚悟しなければならないと言うことも――
「アリス! ここはどこだ?!」
アーフィアによって木々の生い茂る場所に転移させられたファウストは即座に現在地を確認する。
『バーキ遺跡群と平原を隔てる山頂付近です』
ファウストは頂上まで駆け上がると、そこから下は戦場が広がっていた。
騎馬連隊の集合を阻止するように軍団は追撃を行っていた。それによって戦線は加速度的に下がり、味方の兵力も同様に減り始めている。
シャロンはアマテラスを騎馬連隊に行かせない様に空中戦を続けている。
『我々の敗北です』
アリスの冷静な判断はファウストに現実を指摘する。
敵は魔王と無尽蔵に現れる軍隊。
魔王の恐ろしさと終わりのない砲火の両方を直接知っているファウストは最初から勝ち目の薄い戦いだと思っていた。
「アリス、制限解除」
『……従えません』
「アリス」
『今の貴方は冷静では』
「……あの時と一緒だ」
首に下げた二つのドッグタグ。決して忘れられないもう一つの名前は彼の戦う意味だった。
「今、あの時と同じ選択を迫られてる」
『状況は……違います』
「同じだ。同じなんだよ。アリス」
『……』
「メリーはオレが殺した。あの時のお前は何も感じなかった。けど、今は違うハズだ」
『感情で判断すれば生存率は極端に下がります』
「そうだな。だからオレは冷静だ。『人型強化装甲』を通して解るだろ?」
ファウストは目の前の敗走を驚くほど冷静に見ている。
目の前の状況から、終わりまでの戦略を組み立てた上で提案しているのだ。
『大尉。今度は救えるでしょうか?』
「やれるさ。あの時と違って今は『人型強化装甲』がある」
単身ではあるが一人じゃない。有言を実行する為の装備も持っている。出来ない道理はないのだ。
『ディザロアのインカムの電波を亜空間より検知』
その報告にファウストは笑う。
これから取る行動は全てが予測の範囲でしかない。けれど……出来るのはオレたちだけだ。
「制限解除」
『お待ちください、大尉』
今まさに駆けようとした時、アリスは一つの無線を傍受した。
『聞こ……か? 誰か……聞……え……か? 』
「――どこだ!?」
『来ます』
『ルルベルの釜』によって開かれた、戦場を象徴するかのような巨大な亜空間。
そこから飛び出してきたのは“鉄の鳥”。しかし、それはこの世界での認識である。
「アリス、どこの国籍だ!?」
夜空を突き破る様に亜空間から現れたのは一機の戦闘機だった。
その機体の側面には“ユニオンフラッグ”が着色されている。




