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蝶の末裔  作者: 夢想迷幻
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第六章 真実

《麗》

 「紹介するわ。兄の藤堂朱雀と紫苑よ。」


 意味がわからなかった。兄?一人っ子じゃなかったのか?


 「兄なんて言われるのは何年ぶりかな?なんか意味があるの。かわいい妹よ。」と藤堂紫苑が、碧を抱きしめた。


 「あっ、この間トイレで会ったイケメンだ。あんまりカッコいいから、覚えているよ。」と朱雀がウインクした。


 「お兄さ・・・」驚きすぎて絶句した。


 「彼氏が驚いているから、朱雀、からかわないで帰るぞ。」紫苑が朱雀を引きずって行った。



 「座って話をしましょう。」僕たちは席に戻った。僕は混乱した頭で碧の言葉を聞いていた。


 「父と母が離婚したから、名前が違うけど、実の兄たちよ。藤堂の名前を私が使うのを父が嫌ったこともあるけど、母が再婚して伊集院になったの。だから、紫苑とレナちゃんが付き合っても構わないの。」


 「でも、なんで彼氏ってことにしていたの?爽は?」


 「彼氏とは言っていないと思うけど、爽は友達よ。まだ、話せないことがあるの。いずれすべて説明できるときがくるかもしれない。」と口を噤んだ。


 そして、話を変えた。


 「教科書の紛失は、白川さんの仕業だということがわかったの。爽が野球部の部室で私の教科書を見つけたみたい。」


 「やっぱり、そうか。」


 「紫のマジックもあったらしいから、体操着もそうだと思うわ。中学のと・・・・。これで、あまり心配しなくていいのかもしれない。」


 「心配なら、僕がずっとそばにいる。」自然にそんな言葉がでてしまった。「何か食べて帰ろう。お腹が空いた。」とあわてて言葉を続けた。碧は小さく頷いたが、どっちに対する返事なのかはわからなかった。柊碧に対する心の痛みは、無くなったわけではないが、僕の胸の奥に大切に仕舞った。


 碧のマンションまで、送って行った。いつもの柴犬はやはり犬小屋から出てこなかった。フェンスには張り紙が貼ってあった。『犬をさがしています』の張り紙の中に柴犬はいた。





《碧 高校1年生》

 離婚後父は、藤堂兄弟と私が兄妹である事実が世間に知られるのを極度に嫌った。離婚後すぐは兄たちもマンションに遊びに来ていたが、引っ越してからはなるべくホテルの部屋で会うようにしていた。その流れで、高校に入り、私がマンションに戻ってきてひとり暮らしを始めてからも、ホテルで会うことがよくあった。料理を作らなくていいので、ホテルの方が都合よかった。


 一つ上の兄藤堂紫苑の通っている高校がマンションの近くにあった。私が紫苑の高校に入れば、紫苑が2年間は守ることが出来るということだ。藤堂朱雀は大学1年生だけど、なるべく様子を見に来てくれることになった。


 中学の時と同じストーカーに出会っても、私だと気が付かれなければ、それでよし。気づかれても、紫苑がストーカーを牽制する。


 「彼氏はできないな、碧!」と朱雀が笑った。


 「朱雀と紫苑以上の男性なんていないから、彼氏はいらない。」白王子青木麗の幼い顔が浮かんだ。カッコよくなったかな?


 「碧といるということは、俺だって彼女できないってことだぞ。」と紫苑が恨めしそうにいった。


 「え~。この間、自分のことで女の子達が揉めてうんざりしたから、しばらく彼女はいらないって言っていたよね。考えてみれば紫苑のファンたちに私は苛められるの?」と不安になった。


 「ストーカーよりはましだろう。多分?」と紫苑は顔をしかめた。



 帰りの時間になるとさっそく紫苑が1年8組まで迎えに来た。2年生が1年生の教室に来ることは珍しいので、早速噂になった。それもモデル並みのスタイルで学校一番の美少年、女の子の間では大騒ぎになった。


 「紫苑と一緒に歩くのは好き。紫苑かっこいいから、ちょっと自慢。」と腕を組んだ。


 「俺だって、こんな美人と歩けてうれしい。」と顔をよせて耳元で囁いた。


 「もし、紫苑に好きな人ができたら、言ってね。」


 「そうしたら、一緒に居られなくなるよ。彼女がやきもちをやくからね。」と困ったふりをした。


 「誰か代わりを捜しておかなくちゃ!」


 「代わり?彼氏じゃないの?」


 「彼氏は・・・・・いらない。」白王子以外は。





《碧 高校2年生》

 学校でもてる女を演じるのはけっこう楽しい。二股女とか男好きとか影で酷いことを言われているのは知っているが、恥じる事はしていない。でも、結城麗に藤堂紫苑と爽とのことを追及された時はかなり落ち込んだ。なんとも思われていないのは知っているが、やはり嫌われたくない。なぜか気になる存在。


 後に結城麗と青木麗が同一人物だと分かった時は、さらに奈落の底に落ちた。初めて見たときから魅了され、いつも心の片隅にいた。


 紛失した現国の教科書を貸してくれたときは、嬉しくなって公園まで一緒に行ったのに、また、軽蔑され、胸が痛んだ。


 隣の駅と言っていた。兄たちと隣の駅のホテルで会っているのだが、噂になっているのだろうか?伊集院碧は、藤堂紫苑ともう一人の男とホテルで会っていると・・・・!


 もちろん、藤堂紫苑が兄だと結城麗は知らない。もう一人の男が藤堂朱雀という兄だということも知らない。



 長年、私を苦しめてきたストーカーが白川霞であるとすれば、すべて辻褄が合った。私が藤堂の娘だと初めから知っていたのだろうか? それとも他の理由があったのだろうか?


 犯人がわかってみると、ささいな嫌がらせだったことがわかる。顔のないストーカーは恐怖を倍増させる。


 白川霞が学校に来なくなった。嫌がらせが発覚したからかとも思ったが、そうではなさそうだった。DVが関係あるのだろうか?父親からのDVだと母は言っていた。しかし、父親とは会っていないのに、白川が怪我をしていたのは、『DVをしていたのが父親ではなかった。』ということだろう。


 父の再婚相手である女性だけではなく、白川家全員が忽然といなくなり、警察で捜査をしていた。父もかなり憔悴しているらしい。



 兄紫苑がレナちゃんに告白された。なんと紫苑もレナちゃんに一目ぼれに近い感情をもっていたようだ。だが、妹を守らなければならないので、高校を卒業して、同じ学校に通えなくなれば、紫苑は必然的に自由になる。紫苑は大学生になってから、付き合うつもりで保留にしたらしい。なんとも傲慢な兄紫苑。何か月も曖昧なままで、レナちゃんが待ってくれると信じているようだ。レナちゃんはとても魅力的で、性格も穏やかで紫苑にぴったりな女の子のようだ。私のせいで、だめになって欲しくない。



 紫苑とレナちゃんのことで、話があると結城麗に言われた。ホテルで、紫苑や朱雀と会っていたことを知っていて、やはり誤解をしていたようだ。思い切って、結城麗に兄たちを紹介したが、当然かなり驚いていた。誤解が解けて心が軽くなり、『僕がずっとそばにいるよ。』という言葉を素直に受け止めた。すべてを話せるわけではないが、柊碧のことはいずれ伝えよう。しかし、蝶の一族の物語を話せる日は来るだろうか?


 爽の妹のあゆみちゃんが行方不明になった。真夜中に家を出て行くとか、朝帰りや帰ってこないときもあったらしい。それでも、二、三日すれば何食わぬ顔で帰ってきていた。しかし、今回は一週間以上帰ってこなかったので、警察に行方不明者届を出したそうだ。


 あゆみちゃんと最期に会ったのが麗だったが、変ったところはなかったらしい。爽は心配のあまりかなり痩せてしまった。姉妹のように過ごしてきたレナちゃんも、幼馴染の心の闇に気づかなかったことを悔やんでいた。





《碧 高校2年春休み》

 高校3年生になろうとしている春休み、部活動はあと少しだが、爽は野球部に戻っていた。あゆみちゃんはまだ行方不明のままだ。警察では解決しないので、今度探偵に依頼することにしたようだ。早く見つかって、戻ってきて欲しい。



 黒のカラコンをはずし、肩より下の長さにのびた髪を黒からもとの茶色にした。ひさしぶりに、自分に戻った気がする。


 青木麗と初めてあった公園へ向かった。


 青木麗が公園にいた。





《麗》

 中央公園の七重の塔の下で、伊集院碧と待ち合わせをした。


 突然、目の片隅に青味を帯びた緑色の何かがひらひらとよぎった。目で追うと、その何かはすぐ消えてしまったが、公園の真ん中にある噴水の縁に髪の長い女の子が座っていた。



 薄茶色の瞳、茶色の髪の碧が、僕に向かって微笑んでいた。一瞬で心が理解した。




  

《X》

 捕まえた蝶は蝶じゃなかった。どこで間違えたのだろう?要らないので、千切って捨てた。


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