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蝶の末裔  作者: 夢想迷幻
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第三章 高校1年生

《麗》

 爽と僕は高校生になった。僕たちは家から歩いて20分ほどのところにある高校に通うことになった。二人ともあまり勉強しなくても偏差値は高く、その高校がちょうどぴったりのレベルだったので、迷うことなく近いという理由でそこに決めた。


 中学生になったと同様に、妹たちは兄たちとまた離れることを嘆いていた。それに今度は、同じ高校に行くためには、かなり勉強をしなければならないことが彼女たちを悩ませていた。


 僕とレナの名字が青山から結城に変わった。父は両親を知らない。孤児院育ちで母と結婚した時は母の両親に反対され、駆け落ちし籍を入れた。当然父の姓である青木を名乗っていた。僕が生まれ、母の両親が父を認めた。僕たちは母方の結城家の屋敷に住むことになった。


 結城家は古い家柄で、もともと母は婿養子を取ることになっていて、結婚したら母方の姓である結城を名乗るはずだった。父は青木という名前に何の感傷も持っていないようだったが、名前を変えるにはいろいろタイミングがあるというものだ。結局、祖父たちをかなり待たせることになった。



 僕は桜ヶ丘中学で爽と同じ野球部だった近藤譲、白川霞と同じクラスになった。僕は3組で、爽は1組だった。最初は同じ中学校の仲間が集まるのは当たり前のこと。近藤が、窓際の席に座っている僕のところにやってきた。


 「麗、これからよろしくな。」近藤が窓の外を見て続けた。「あそこにいるカップルさあ。女は1年で男は2年だって。初日から男の方が女の教室に迎えに来て、腕組んで帰ったって、みんな大騒ぎしてたぜ。それに休み時間になるとああして二人でいるらしい。」と近藤が中庭にいる二人を指した。


 「ふ~ん。」たいして興味もなかったが、窓の外を見た。男はこちらを向いているので顔が見えた。180㎝くらいはありそうなモデルのようなスタイルで、整った顔立ちをしていた。僕が女の子なら申し込まれたら断らないと思った。女の子の顔は見えないが165㎝ぐらいだろうか、手足は長くスタイルはいい。黒髪が肩ぐらいの長さで切りそろえられていた。


 「こっち向かないかな、かなり美人らしいぞ。」近藤が言った。女の子はこちらを振り向くことなく、休み時間は終わった。


 帰りの時間になると爽が3組の教室にやってきた。


 「爽、久しぶり、野球部に入るんでしょ?」と白川霞が寄ってきて聞いた。


 「まあな。おまえこそ、部活は?女子野球部ないし。」


 「う~ん。野球部のマネージャーやろうかと思って。やって欲しい?」と白川が訊いた。白川はいつもショートヘアーで愛嬌のある丸顔は美人ではないが、中学でも男子野球部員から人気だった。


 「好きにするさ。白川は麗とまた同じクラスか。中学でも同じクラスだったことあったよな。こいつ人見知りだから、よろしく。」と爽が僕の方を見ながら言った。


 「僕の保護者なの?」


 「俺だって、中1は同じクラスだったじゃん。忘れないで。面倒見ますよ。」と近藤が割って入ってきた。


 「お前の場合は麗に振られた女の子を慰める優しい男のふりして、女の子をゲットしようとしてるだろ。」と爽が近藤の肩をたたいた。


 「え~、わかった~?そうじゃないと彼女できないよ。麗にはじゃんじゃん振ってもらわないと。」と近藤は同意を求めるように僕に視線を向けた。背が高くスポーツマンの近藤がもてなかったわけはないが、野球部で爽と一緒だったなら、もてないキャラになるのはしかたがないということか。


 「同じ中学だったから、結城麗を紹介してって何人もの女の子に言われたんだけど、結城君はそういうの嫌いだと思って、できないっていったら、使えないだって。結城君の影響力、最強だよ。」と白川が嘆いた。


 「今度そんなことがあったら、そういうこという子は嫌いだって言ってよ。」


 「何言ってんのよ。どうせみんな振るくせに!他校の子しか付き合わないでしょ。それにすぐ飽きて振るって噂になってるよ。」と白川がにやりとした。


 「違うよ。麗は彼女になった女の子を守る為、他校の子しか付き合わないんだよ。でも結局女の子はモテる麗のことが心配になって、ストーカーみたいに付け回すから、困って別れることになるんだ。」と爽が勝手にウソの解説を始めた。


 「じゃあ、今度きかれたら、他校に彼女いるって言っといてよ。本当に好きな子には自分から告白したいから。」と柊碧の顔が浮かんだ。「それより、爽は何人に告白されたわけ?」


 「うん。でもみんなと付き合う訳にいかないからね。それにちょっと気になる子をみつけたんだよね。でもその子彼氏いるんだ。」と爽が憂鬱そうに言った。


 「誰?誰?」近藤と白川が食いついた。


 「内緒!」いつもオープンな爽が珍しく隠したので、僕もそれ以上は訊かなかった。



 高校生活の最初の1年の終わりが近づきつつあった。近藤が騒いでいたカップルは、相変わらず一緒にいたが、女の子はいつも校舎に背を向けていて正面からみたことはなかった。久しぶりに近藤がカップルの話をした。


 「そういえば、あのカップル、男は藤堂紫苑で、女は伊集院碧だって。美男美女は名前も美しいって感じ。」と窓の外のカップルを顎で促した。


 碧という響きに反応して、思わず窓の外を見た。休み時間が終わろうとしていた。教室に戻るために、伊集院碧が向きを変えるのを待った。


 伊集院碧はこちらの窓をまっすぐ見た。しかし、彼女の目には景色としてしか映っていないようだった。黒い瞳の黒い髪のちょっときつそうな美しい顔が見えた。急に息が苦しくなり、大きく深呼吸した。緊張して息を止めていたらしい。どうして柊碧を重ねたのか自分でもわからないが、がっかりした。薄茶色の瞳、茶色の髪、優しそうな柊碧。記憶の中の柊碧とは違っていた。



 その日は、爽も伊集院碧の話をしてきた。部活がないので久しぶりに一緒に帰った。


「俺の部屋にこいよ。話がある。」家の前に来ると、爽が言った。ほっとしたことにあゆみちゃんはまだ帰ってきていない。僕がいるとわかると、すぐに爽の部屋に飛んでくるから。


 「麗、いつも休み時間に一緒にいるカップルの女の子の方知っている?」鞄を机に置きながら、椅子に座った。


 「今日、ちょうど近藤がその話をしていて、初めて正面から見たよ。ちょっときつそうに見えたけど、何?」勝手にベッドに腰を下ろした。いつもの場所だ。


 「俺、その子が好きなんだよ。今までで一番本気かも!」と爽が恥ずかしそうに言った。


 「話したことあるの?」


 「前から気にはなっていたけど、昨日までは話したことなかった。」と経緯を話し始めた。




《爽》

 部活でいつもなら仲間と一緒だが、昨日はみんな急ぎの用事で先に帰ったので、最後ひとり部室を出て校門へ向かった。校門の脇の茂みに明かりが見えた。誰かが何かを捜しているようだった。


 「どうしたんですか?」と明かりの方へ声をかけた。


 「鍵を捜しているんです。」と女の子の声が答えた。明かりに近づくと、それは携帯の明かりで、携帯の持ち主は伊集院碧だった。


 「鍵がなんでそんなところに?」通り道ならいざ知らず、校門の脇の茂みだから不思議だった。

   

 「ちょっと暗くて寂しかったから、鍵を振り回していたら、じゃらじゃら音がするでしょ、手を離れて飛んでっちゃった。うふふっ。ばかみたい。」と思い出し笑いをした。


 「彼氏は一緒じゃないの?」とつい言葉が出た。


 「私を知っているの?」


 「うん。有名人だからね!」


 「そうね。迎えに来てもらおうかな?あった!鍵があった。」と嬉しそうに鍵をみせた。


 「今日は彼氏いないし、送らせてよ。家どこ?」二人で並んで歩きだした。



 「彼氏とは中学から付き合ってるの?」ぶしつけな質問をしたにもかかわらず、普通の返事が返ってきた。


 「そうね、付き合いは長い。兄妹みたいかな?」


 「兄妹みたいなら、俺にしなよ。」と強引に言った。


 「私と付き合いたいってこと?」と俺の目をまっすぐ見つめながら、首をかしげた。


 「そう。」


 「でも、紫苑は、藤堂紫苑っていうのだけど、いつも私のそばにいるのよ。」


 「俺を好きにさせてみせる。チャンスをくれよ。」 


 駅前にはマンションが立ち並んでいるが、伊集院碧のマンションの向かい側には一軒家があり、そこだけ二階建てで低くなっていた。今時珍しく犬小屋があり、人が通るたびに柴犬が犬小屋からでてきて吠えていた。俺に向かっても吠えていたが、伊集院碧を見ると、犬小屋の中に戻ってしまった。


 「いいよね。」と念をおした。


 「そうね。考えておく。」


 マンションの入り口で、後ろ姿を見送った。



 話し終わると「爽はそれでいいの?言葉は悪いけど二股だよね。そんな女の子爽に相応しくない!」普段、もの静かな麗が強い口調で言った。


 「前から気なる子がいるって言ってたろ。伊集院碧なんだ。諦めようと思ったし、彼氏と別れるのを待とうとも思ったけど。こんな気持ち初めてなんだ。諦めきれない。振り向かせてみせる。」顔を真っ赤にしながら顔をそむけた。


 「わかった。」と麗は静かにため息をついた。


 


《あゆみ》

 学校から帰ってくると玄関に爽ではない靴があった。こっそり二階に上がっていって、部屋の外から様子をうかがった。ドアノブに手をかけたとき、麗の声が聞こえた。


 「二股だよね。そんな女の子爽に相応しくない!」麗がいつになく強い口調で言った。


 女?ドアノブから手を離し、聞き耳を立てた。爽は伊集院碧という子が好きで、二股をかけられているのに、諦められないって話のようだ。レナには悪いが、麗のことじゃなくて、良かった。レナに話すべきだろか?どうしよう?でも、私たちは中学生で学校も違う。邪魔したくてもできない。とりあえず今は、受験をがんばって、同じ高校に入ることだけに集中しよう。だから、今はレナに言わない。


 階段を静かに降りて、玄関から入り直した。


 「だだいま、爽いる?あっ、誰かの靴ある。友達来てるの?」と階段を上って、元気よく爽の部屋のドアを開けた。


 「あゆみ、ドアはノックしろって、いつも言ってるだろ。」爽が呆れ顔で言った。


 「麗がいるじゃん。麗と同じ高校に入るために今頑張ってるから、応援してね。そうだ。来月のバレンタイン、レナとチョコ作るから楽しみにしててね。」


 「受験でそれどころじゃないでしょ!」と麗がカレンダーを見た。


 「でも、手作りチョコあげたいんだもん。麗はもらったチョコいつもレナにあげちゃうけど、あゆみのだけは食べてね。絶対だからね。」


 「麗が手渡しチョコはみんな断るって、桜ヶ丘中学から来た女の子たちは知っているけど、他から来た女の子たちは知らないから、ちょっと大騒ぎになるかな?でも、手渡しがダメとなると、下駄箱がいっぱいか?」


 「爽だって、同じだろ」


 「同じじゃないよ。俺は女の子の気持ちを無下にできないんだ。」と肩をすくめた。


 「真面目に断っている僕が、たらしとか、女キラーとかいわれているのに、あっちこっちに手を出している爽が、爽やか爽君だなんて、ほんと世の中間違っているよね。」


 「麗の場合は女なんか興味ないって態度なのに、実際は本質的にやさしいから、知り合うといちころなんだよ。それで、自分だけにやさしいと思っていたら、その他大勢と同じ位置にいることに気づく。天然のたらしってことだな。自覚ないだけだろ。」


 「その言葉はそのまま、爽に返すよ。本当に好きな人には明らかに態度違う。」とつぶやくように言った。


 「麗は今好きな人いるの?誰かと付き合ってないよね?」実際彼女は見たことない。いつも他校の女子と付き合って、誰とも合わないようにデートはほとんど都心へ行っていると爽が言っていた。レナもよく知らないらしい。


 「他校の女の子と付き合っているとしても、誰にも言わないよ。相手に迷惑がかかるから。」うまくはぐらかされた。


 「麗、もう帰れ。あゆみの勉強のじゃまだ。」と爽が麗を追いだした。本当に勉強頑張ろう。



 

《麗》

 人の気持ちなんて、自分自身ですらどうにもならない。3年前のあの日に戻れたら、「今まで、ありがとう。」の意味がわかっていたら、と何度思ったことか。いや、ちがう?あの時は自分自身でさえ自分の気持ちに気づいていなかった。そう自分を慰めた。もちろん、柊碧に彼氏はいたようだったし、告白しても断られただろう。それでも、いっしょに居たいと思った女の子は柊碧だけ。


 表現は悪いがストーカーのように、女の子に待ち伏せされて、一度だけでもいいからデートしてほしいとか迫られることが多い。妹のレナにも付け回す男の子がいつもいる。幸い遠巻きにして近づいてこないので、本人は気が付いていない。


 でも、僕のような冷たい男のどこがいいのだろう。僕が女の子だったら、絶対優しい男がいい。それに顔で選ぶような女の子は好きじゃない。断っていると家まで来るようになるので、家から遠い駅でデートして何とか諦めてもらうようにしている。それでも、柊碧を忘れて好きになれるかもしれない、誰かを好きになりたいと思っていることも事実。



 バレンタインの少し前から、爽が時々伊集院碧と帰っていた。周りは大騒ぎだった。相手はモデルなみのスタイルと端正な顔立ちの藤堂紫苑と、爽やか片桐爽だし、両方とも相手を知っていて付き合っていることは明白だった。伊集院碧は二股女、男好きと散々言われている。本人は一向に気にする様子をみせず、堂々としている。


 爽が女の子にかなり本気の時、爽は僕にその子を紹介しないことに最近気が付いた。飽きてくると僕に紹介する。そして、その女の子は大体僕のことが気になって、爽に対して冷めてくるので、あっさり別れることができる。それを狙っている。最近そんな感じがしている。もちろん、本人は無意識なのかもしれない。好きな女の子が自分の親友を好きなのはどんなに残酷なことか。僕たちには起こってほしくない。



 今日はバレンタインデーで朝から大変だった。あっちこっちで呼び止められ、伝言もあったが、全て断った。下駄箱はチョコでいっぱいだったけど、ごみ箱に捨てるわけにいかず、家に持って帰ることにした。


 下駄箱を開けるとチョコがどっと落ちてきた。


 「やはり袋が必要か!」ひとりごとを言いながら、チョコを拾っていると、「この紙袋あげる!」と後ろから声がした。ゆっくり振り向くとそこに袋を差し出している伊集院碧がいた。それまで、伊集院碧とはすれ違ったことさえなかった。


 「えっ!」言葉にならない吐息のような音が喉の奥からこぼれ落ち、伊集院碧は幽霊でも見たかのように目を大きく見開いて、僕を見つめた。


 「何?僕にくれるの?」と初めて伊集院碧を近くで見た。瀬戸物のように冷たい美しいさと、同時に体験したことのあるような空気を感じて、胸が痛んだ。


 「あなた、転校生?」とつぶやいて、大きく深呼吸した。


 「違うよ。伊集院さんは有名人だから僕は知っているけど、君は僕を知っているはずない。」伊集院碧の驚き方には違和感を覚えた。


 「知っている人に似ている気がしたから、ちょっと驚いたの。名前はなんていうの?」


 「碧、帰るよ。」と後ろから声がした。振り向くと藤堂紫苑が立っていた。


 「今いくわ。じゃあ。」と言って去って行った。



 家に帰ったら、爽が来てベッドに転がっていた。小さい頃からの付き合いだし、母は勝手に爽を僕の部屋に入れる事がよくあった。


 「麗、これ!」爽が嬉しそうにバレンタインのチョコらしきものを差し出した。


 「何、僕にくれるの?」あまりにうれしそうなのでいじわるをした。


 「わかっているくせに、碧ちゃんがくれたんだよ。」という爽。藤堂紫苑にもチョコ渡しているでしょという言葉は飲み込んだ。伊集院碧が爽にチャンスを与えたということなのだろう。


 今日は、伊集院碧と話したことを爽になぜか言いたくなかった。



 翌日家に帰ると、また爽が部屋に居た。


 「麗さあ、昨日碧ちゃんに会ったんだって。」探るように訊いてきた。


 「会ったって?ああ、下駄箱でたくさんのチョコどうやって持って帰ろうかと考えていたら、紙袋をくれた。」


 「やっぱり、麗か!下駄箱の中にチョコがたくさん入っていて困っていた男の子に紙袋をあげたって言っていた。昨日は碧ちゃんに会ったって何も言ってなかったから。」


 「忘れていた。」気にも留めていないことのように言った。


 「碧ちゃんが他の人の話をすることってほとんどないんだよ。」


 「誰かに似ているとか言っていた。」


 「まじか!昔、好きだった男に似ているのかな?麗は碧ちゃんに会わないようにしてくれ!」


 「なにそれ。(柊碧以外)興味ないけど、そもそも、高校生活1年が終わろうとしているのに初めて話したんだから、次は1年後じゃないかな?」と爽を安心させた。




《Ⅹ》

 抑えきれない怒り、どこにぶつければいいのか?頭の中はいつも混沌としている。気が付くと、町中を歩いていて、手に血が付いていることもたびたびあった。手には獣の血の匂いがした。記憶が一部抜け落ちていて、何があったか思い出せない。





《碧 中学1年生》

 ある意味父から解放されて新しい生活を始めようとした日、初めての街で二人の男の子を見た。一瞬にして心に刻まれてしまった。中学生になって、思いがけないことに二人と同じクラスになった。黒王子は名前の通り爽やかな片桐爽、白王子は青木麗といって、ハーフのような顔立ちをしたまさに王子様だったが、あまり話す機会はなかった。


 最初に起こったことは、上履きが隠されていたとか、傘が壊されるとかだった。いじめの定番である『画鋲が靴の中に入っている』こともあった。でもそれは、教室の外での出来事で、身近な誰かではないように思えた。しかし、消しゴムが無くなったとか、きちんとたたんでおいた体操着がぐじゃぐじゃになっていたとか、鞄の中に自分のものじゃないハンカチが入っていたとか、教室の中で起こったことは気味悪さを倍増させた。


 小さい頃、一人でいると声を掛けられ連れ去られそうになったり、ストーカーに付きまとわれたりすることがあった。中学生になって自分で対処できるようにはなったが、帰り道も誰かにつけられているようで恐怖を感じた。


 ストーカーに目をつけられたのだろうか?神経質になっているだけで、気のせいならばいいのだが・・・。



 駅前のマンションで母と暮らし始めた。母は離婚してかえって幸せそうだった。母には祖母より受け継いだ遺産があるため、働く必要もないけれど、趣味で始めたアートフラワー教室が繁盛して、忙しい毎日を送っていた。


 ストーカーについては私の思い込みかもしれないが母に相談した。母は自分もそうだったと肯定した。

「学校の中では誰かと常に一緒にいるようにして、なるべくひとりにならないようにするの。彼氏を作るのが手っ取り早いわ。」


 「彼氏かあ~。」母の忠告通りにしてみることにした。かといって、本当にそうするわけではない。王子様たちなら一緒にいれば目立つので、相手はやりにくいだろう。とりあえず、友達になろう。


 王子様たちは二人とも頭がいい。もちろん、私も成績はいい方だ。ちょっと白々しいが、勉強を教えてもらう口実で話しかけた。青木麗には年上の彼女がいた。片桐爽が冗談のように誘ってきたので、あっさり一緒に帰ることになった。爽が麗も誘ったので、結局3人で帰ることになった。麗は話に加わらず、いつもつまらなそうにあとをついてきた。



 ある日、校門を出ると、二人の小学生が待ち伏せしていた。麗と爽の妹たちだった。爽の妹のあゆみは小学生にしては大人びていて、雰囲気のある女の子だった。あゆみはすぐ麗に飛びついて腕を組んだ。麗も振り払わない。麗の妹のレナは手足のながい人形のようなスタイルをした顔立ちの整った女の子だった。あゆみは麗が、レナは爽が好きなようだった。


 青木麗には年上の彼女がいるらしい。相手が小学生とはいえ腕を組まれても振り払わない。私が彼女だったら、面白くない。


 爽は野球部に入っているので、部活の時はどうしようかと思っていたら、爽がまた解決してくれた。麗に私を送っていくように頼んでいた。気に入った女の子を他の男の子に送らせるなんて、お人よしなのか?親友を信じている心の広い男の子なのか??? 爽には感謝。爽はすてきな男の子だ。


 時々、麗と二人で帰ることになった。爽とは対照的で麗は無口だ。それでも、無言で歩く時間がこんなに心地いいとは思わなかった。なにか怒らせたようだったけど、そのうち話せばわかると思っていた。



 家に帰ると、母が結婚を考えている人がいると言った。離婚したばかりでその人とすぐ結婚はできないが、一緒に暮らすので引っ越すことになったと。


 8月の終わりに引っ越しがきまった。最初の日と同じように最後の日もあの公園で過ごそうと思った。

最後の日、偶然にも青木麗に会った。高校生たちに絡まれていたところを麗に助けられた。一瞬抱きしめられたように感じた。あれはいったいなんだったのだろう。怖い思いをした女の子を慰めたかっただけだろうか?


 翌日、引っ越した。


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