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第1話 第1章(1/3)

「よし。今日から私は、どこにでもいるフツーの女の子!」


アルカディア伯爵邸の一角に与えられた使用人部屋。


朝の瑞々しい光が差し込む鏡の前で、エルザは自分の両頬を力強く叩いた。


可憐なメイド服に身を包み、今日から始まる平穏な日常に気合を入れるための、ちょっとした儀式のつもりだった。


——バチィィィィィン!!!


狭い室内を、およそ人間の肉体から鳴り響いたとは思えない、鼓膜を震わせる爆音が駆け抜けた。


衝撃波によって部屋のカーテンが激しく揺れ、机の上の書類が数枚宙を舞う。


恐る恐る鏡を覗き込むと、そこには茹で上がったタコのように真っ赤に腫れ上がり、衝撃で少し歪んだ己の顔があった。


(……あ、やってしまった)


元勇者エルザ。数か月前まで世界を滅ぼそうとしていた魔王を討伐し、その後どこへともなく姿を消した、人類最高戦力。


そんな彼女の細胞に染み付いた「気合入れ」は、一般人の数千倍の筋力で行われてしまう。


エルザが頭を抱えて絶望した、まさにその瞬間。


彼女の意思とは無関係に、長年の死線で鍛え上げられた肉体が勝手に生存本能のスイッチを押してしまう。


彼女の身体に宿る最高位のパッシブスキルが、完全なる無意識下で作動した。


自動回復(オートヒール)


ピカァァァ……と、本人の焦りを置き去りにするような、無駄に神々しい聖なる光が彼女の顔面を包み込む。


そしてもののコンマ数秒で赤みは引き、歪んだ骨格はミリ単位の狂いもなく元の位置へと再構築された。


「……お?」


一瞬にしてピカピカの完全回復を遂げた己の顔を見て、エルザは呆然と瞬きを繰り返した。


「よ、よし……セーフ。誰も見てないし、結果オーライよね……?」


世界を救うために使われた神聖な癒しの奇跡が、無意識の自傷行為の隠蔽のためだけに、贅沢に使い果たされた。


とはいえ、これが彼女の目指す「ハッピーな第二の人生」の第一歩。重い鉄の鎧も、返り血を浴びる日々も、すべてはおしまい。


今日から彼女は、この素敵なお屋敷で健気に働く新人メイドのエルザとして、何が何でも平穏を貪るのだ。

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スローライム目指すんだ(フラグ) スローライム終了のお知らせがプンプンにおいます。頑張れエルザ、すべては安寧の生活のために!!
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