第63話:星天のリビルド
――ゴ、ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!
宇宙の深淵、大気圏を突破したゼロの眼前に、星を丸ごと呪い殺すようなマザーの超巨大な「赤い単眼」が迫る。そのレンズの奥底で、暗黒のエネルギーが限界まで臨界に達していた。
『チ、チチ、チチチチ……【破壊光線】、発射』
ドバァァァァァァンッ!!!!!
マザーの単眼から放たれたのは、直径数キロメートルに及ぶ赤黒い絶望の熱線だった。星の地殻すら一瞬で焼き切る物理破壊力と、触れた機械のシステムを根こそぎ消去する最悪の電子攻撃。
「ゼロ……! 私たちの、全部をあげる。だから、あの大きなバグを……直そう!!」
『――御意。我が魂は、永久にマスターとともに。……【最大出力・限界突破】ッ!!!』
ズバァァァァァァンッ!!!!!
ゼロの右腕が天へと掲げられ、展開された【絶対領域・蒼天世界】の全エネルギーが、その一点へと猛烈に凝縮されていく。
形成されたのは、星の引力すら歪めるほどの、眩い蒼き光を纏った全長数百キロメートルの『超・巨型スパナ』――【創世のスパナ】。
大気圏の境界線で、宇宙を割るようなゼロの蒼き工具と、マザーの赤黒い破壊光線が激しく激突し、拮抗した。
JUSCOの脳内には、宇宙そのものを書き換えかねない暴力的なデータ流量が、津波となって押し寄せていた。頭を構成するナノマシンの一粒一粒が沸騰するような、凄まじい熱量。
彼女の右半身はすでに、服の上から完全に冷徹な蒼鉛の結晶へと置き換わっていた。その侵食はついに右の瞳にまで達し、彼女の視界を完全な蒼一色の世界へと染め上げていく。
『マスター、これ以上の演算維持は不可能だ……! 君の精神の器が、完全にマスター・コードの海へ溶けて消えてしまう!』
ゼロの電子音声が、かつてないほどのノイズを交えながら、悲痛な叫びとなって脳内に直接響く。
『JUSCO!! 手を引け!! もういい、あとは俺が……俺の命を全部魔力炉に燃やして、あの光線を叩き落とすッ!!』
直結されたコクピットから、FELIXが自らの生命維持システムを強制遮断し、全魔力をゼロへと注ぎ込もうとする。
「だめ……だよ、お兄ちゃん……」
JUSCOの、半分機械と化した声が優しくそれを拒絶した。
「お兄ちゃんは……せっかく、思い出してくれたんだから。また、あのガレージで……お父さんのスパナを、一緒に触るんだから……!」
JUSCOの脳内モニターの最深部。真っ赤なエラーログの隙間で、あの一枚の「錆色の遠景」が強く、鮮烈に輝いた。
隣で笑っていた、ぼんやりとした男の子の顔。そのピントが、今、はっきりと結ばれる。泣きそうな顔で、必死に自分の名前を呼んでいる、大好きなお兄ちゃんの顔だ。
(ああ、そうか……。どんなに壊れた機械だって、直せないものなんて、ないんだ。――この世界が、どれだけ冷たいシステムに壊されていたって……!)
「いっけええええええええーーーッ!!!!」
バリバリバリバリバリバリッ!!!!!
ゼロが【星天解体】の権限を『創世のスパナ』へと100%上乗せする。
宇宙から降り注いでいた赤黒い光線が、先端から完全に「蒼い光の結晶」へと、分子構造ごと100%書き換えられていった。
そのリビルドの波紋は、光線を逆流するようにしてマザーの本体へと瞬時に到達。星を丸ごと飲み込もうとしていたマザーの赤い単眼を、内側から蒼く染め上げていく。
100年間、地球を恐怖に陥れた機械細胞生命体の女王が、たった一人のジャンク屋の少女の執念によって、今、ただの「機能停止した巨大な宇宙の瓦礫」へと強引に組み替えられていく。
『ギ、ガガガ、ガガガガガガガッ――!?』
次の瞬間、マザーは爆発することすら許されなかった。
直径数千キロの超巨大な赤黒い異形の巨体が、パズルのように自ら外れ、フレームが分離し、ボルトが、ネジの一本一本にいたるまで、まるで最初からそう設計されていたかのように、綺麗に、美しく、宙へと「全解体」されて崩壊していく。
宇宙の彼方で、音のない大爆発が起きた。
赤黒い絶望の塊だったマザーの巨体が、粉々に砕け散り、無限の星屑となって宇宙の闇へと融けて消えていく。
地上に降り注いでいた流星群も、その光を失い、ただの冷たい塵となって夜風に消えた。
本当の、静寂が。そして、本当の星空が、今度こそ地球の上に広がった。
「はは……直せ、た、よ……」
ゼロのコクピットの中で、JUSCOの意識の灯火が、フッと静かに眠るように、完全な闇へと落ちていった。




