第58話:ネジの一本にいたるまで
――ドォォォォォォォォォンッ!!!!!
ゼロの右手に握られた蒼き光の超巨型スパナ――【創世のスパナ】が、身動きの取れないナイトメア・ゼニスの脳天へと真っ向から叩きつけられた。
白磁の街を割る、凄まじい大爆発。
だが、エレノアも中央評議会『ゼニス』の執念を背負う身。直撃の一瞬前、彼女は『エクリプス・サイス』を十字に構え、その禍々しい紫黒の出力を限界まで爆発させて、ゼロの巨撃を受け止めていた。
『バグの分際で……小癪な領域をぉぉぉぉぉッ!!!』
バリバリバリバリバリッ!!!
蒼き光の工具と、紫黒の死神の大鎌が激しく拮抗し、上層世界の大地を文字通りハサミのように切り裂いていく。
「JUSCO、俺の魔力炉も使えッ!!」
その時、ゼロの胸の奥で、洗脳から目覚めたFELIXの叫びが響いた。彼の純白のMSの残骸が、マスター・コードの領域を通じてゼロのシステムへと完全同期を仕掛ける。お兄ちゃんが命がけで繋いでくれた、血の通ったログの熱が、JUSCOの暗闇の世界を明るく照らした。
「ありがとう、お兄ちゃん……! ゼロ、これで、本当の『解体』を始めるよ!」
『御意。――JUSCO、我が魂のすべてを君に預ける』
JUSCOの脳細胞とゼロのAIが100%シンクロした、その瞬間。
ゼロの全身の装甲がカシャカシャと音を立てて全開放され、内部の魔力炉が眩いほどの、本当に眩いほどの純蒼の輝きを放ち始めた。
――【魂の熔融】。
ドバァァァァァッ!!!
ゼロの背中から物質化するほどの巨大な蒼き光の翼が広がり、激突していたナイトメア・ゼニスの大鎌を根元から粉砕した。光の嵐の中、ゼロ自身が一筋の、世界を貫く蒼き流星と化して突撃する。
『な、何という出力ですか……! 人間の脳が耐えられる限界をとうに超えている……バグの娘、あなた自身の精神の器ごと消滅する気ですか!?』
エレノアが驚愕に顔を歪ませる。JUSCOの肉体はすでに右半身のほとんどが冷たい蒼鉛の結晶に侵食され、声すらもゼロの電子音声と完全に重なり合っていた。
「逃げない、壊させない……! どんなに歪んだ機械だって、直せないものなんて、ないんだからぁぁぁーーーッ!!!」
ドガァァァァァンッ!!!!
ゼロの蒼き流星が、ナイトメア・ゼニスの胸部、その心臓部へと突き刺さった。
しかし、それは破壊のための衝撃ではない。JUSCOが放った、最高位の管理者権限のすべて。
――【星天解体】。
キィィィィィン……ッ。
ゼロの拳が触れた瞬間、ナイトメア・ゼニスの漆黒の重装甲から、すべての色彩が失われ、美しい蒼のグリッド線が全身を舐め尽くした。
『あ……出力が、消える……? システムが、私の楽園が……バラバラに……?』
次の瞬間、ナイトメア・ゼニスは爆発することすら許されなかった。
強固な装甲がパズルのように自ら外れ、フレームが分離し、ボルトが、ネジの一本一本が、まるで最初からそう設計されていたかのように、綺麗に、美しく、宙へと「全解体」されて崩壊していく。
『そんな……地下の、クズ鉄、どもに……っ……!』
エレノアの傲慢な叫びは、バラバラに分解されたコックピットカプセルの強制射出とともに、遠い夜空の彼方へと消え去った。
――静寂。
黒煙が風に流れる中、黒き天秤を完全に解体したゼロは、片膝を突き、その巨大な活動を静かに停止させようとしていた。
「はは……やった、よ、お兄ちゃん……」
JUSCOの視界は、ついに完全な真っ暗闇に包まれた。




