第57話:ジャンク屋の領域
――ガギィィィィィンッ!!!!!
ゼロの背部から爆発的に噴き出した蒼きエーテル光波が、背後から迫るナイトメア・ゼニスの【ファントム・エッジ】を紙一重で弾き返した。激しい金属音と衝撃波が白磁の街を駆け抜け、周囲のビルに無数の亀裂が走る。
『チッ……バグの分際で、この速度に反応しますか!』
エレノアの焦燥を含んだ声とともに、黒きMSが再び残像を残して跳躍する。右から、左から、上空から。四方八方から襲い来る紫黒の刃。その一撃一撃が、ゼロの装甲をかすめるたびに赤黒い火花を散らした。
「はあ、はあ……っ。速すぎて、追いつけない……!?」
JUSCOの網膜は、すでに半分がデジタルノイズに埋め尽くされている。感覚の消え去った身体で、ただ「敵の殺意」だけを感知してレバーを動かすが、ナイトメアの圧倒的な出力の前に、防戦一方へと追い詰められていく。
『マスター、これ以上の近接回避は生体ログの限界を超える。――これより、戦術フェーズを「管理者の庭」へと移行する』
ゼロの電子音声がJUSCOの脳内に直接響いた。
「うん……! 私たちの場所へ、引きずり下ろすッ!!」
JUSCOの魂の叫びに呼応し、ゼロが右脚を白磁の舗道へと力強く踏み下ろした。その瞬間、巨神を中心に、幾何学模様の蒼き光の波紋が、津波となって街全体へ急速に広がっていく。
――【絶対領域・蒼天世界】。
キィィィィィン――ッ!!!
世界が、蒼く塗り替えられた。
上層世界の物理法則が一時的に遮断され、ゼロが支配する絶対的な管理者領域が展開される。その光の膜に触れた瞬間、超高速で移動していたナイトメア・ゼニスの動きが、まるで泥の中に飛び込んだかのようにピタリと鈍った。
『な、何ですかこれは……!? 機体の出力が、強制的に低下している……!?』
エレノアの驚愕の悲鳴。システムの最高位にいるはずの彼女の機体が、今やただの「動作不良を起こしたクズ鉄」と同等のレスポンスしか示さない。
「ここなら……見える! エレノア、あんたの機械の『壊し方』が、ハッキリ分かるよ!」
JUSCOの右半身を、蒼鉛の結晶がさらに深く侵食していく。激痛を通り越した圧倒的な熱量が、ゼロの魔力炉と完全にリンクした。
ゼロが右腕を天へと掲げると、展開された蒼天世界のグリッドから、街中の瓦礫や大破した防衛ロボットのパーツが、磁石に吸い寄せられるように猛烈な勢いで集束し始める。
『駆動、フェーズ6――【創世のスパナ】ッ!!!』
ガガガガガガガッ!!!
ゼロの右手に形成されたのは、全長30メートルを超える、眩い蒼き光を纏った「超巨型スパナ」。ジャンク屋の執念が具現化したその一撃が、身動きの取れない黒き天秤に向かって、容赦なく振り下ろされた――!




