第56話:黒き天秤と紫電の鎌
――ゴォォォォォ……ッ。
漆黒の重装甲を纏った異形のMS――『ナイトメア・ゼニス』の背部スラスターから、どす黒い紫色のエーテル光条が噴出し、上層世界の美しい青空を汚すように染めていく。
「エレノア……! あんたが、その機体に乗ってるの……!?」
JUSCOの歪んだ視界の向こうで、黒きMSの単眼が血のように赤くギラついた。
『驚くには値しません、バグの娘よ。私は中央評議会『ゼニス』の意志そのもの。この偽りの楽園の秩序を護るためなら、自らこの手を泥で汚すことも厭いません』
エレノアの冷酷な宣告とともに、ナイトメア・ゼニスの両腕から、禍々しい紫黒の光子大鎌が形成される。上層世界の絶対的なシステム権限を宿した、すべてを喰らう絶望の刃。
『――【秩序の断頭台】。これ以上の反逆は、システムが絶対に許しません』
ズバァァァンッ!!!
空間を引き裂くような速度で、紫黒の巨大な刃がゼロへと襲いかかった。
「ゼロッ!!」
『――【絶対防護障壁】、最大展開!』
キィィィィィン――!
ゼロが左手を掲げ、幾何学模様の蒼い盾を空間に固定する。だが、激突した『エクリプス・サイス』は、これまでの粛清艦の砲火とは次元が違った。
バリバリバリバリッ!!!
赤黒い火花が飛び散り、絶対に破られないはずのゼロの蒼き障壁が、ミシミシと音を立てて軋み始める。出力の絶対値が違いすぎるのだ。
『おやおや、驚きましたか? 我が黒き天秤は、内なる反乱を絶対に圧殺するための矛。さらに――逃げられると思わないことです』
ゾクッ、とJUSCOの背筋に冷たい戦慄が走った。
目の前で障壁に大鎌を叩きつけていたはずの黒き巨体が、次の瞬間、ブレるようにして視界から「消えた」のだ。
『――【滅びの残像】』
「しまっ――後ろッ!?」
超高速の移動が残した偽りの残像。本物のナイトメア・ゼニスは、すでにゼロの死角である真後ろへと回り込み、その無防備な背中に向かって紫黒の刃を振り下ろしていた。
「く……っあぁぁぁ……!!」
直撃の一瞬前、JUSCOは感覚の消えかかった両手で、コンソールを血がにじむほど強く前へと押し込んだ。
ドォォォォォンッ!!!
背後から迫る絶対の死線に対し、ゼロの全身から狂暴なまでの蒼き光が爆発したーー。
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