第55話:白銀の進撃
――ガツゥゥゥンッ!!!
『プロトタイプ・ZERO』の巨大な二本の脚が、上層世界『カイゼル・シェル』の美しく磨き上げられた白磁の舗道へと突き刺さった。
吹き荒れる爆煙の向こうに広がっていたのは、どんよりとした錆色の天井ではない。人工的に制御された眩いほどの「青空」と、どこまでも整然と立ち並ぶ純白の高層ビル群――地下世界の人間にとっては、おとぎ話でしか聞いたことのない、偽りの楽園の景色だった。
「ここが……上の世界……」
ゼロの後方に連結された装甲車から、カイルが呆然と窓の外を見つめていた。ジャンク屋の誰もが言葉を失う中、街中にけたたましいサイレンの音が鳴り響く。
『緊急事態、緊急事態。中央区画に「コード・ゼロ」および反乱分子の侵入を確認。全防衛システム、ただちに街街区の自動掃討を開始せよ』
街のいたる所から、先ほどの猟犬とは比べものにならない規模の無人防衛ロボット――『白銀の近衛兵』の軍勢が、地響きを立てて押し寄せてくる。その数、数百。
「ルカ、シン! 車のみんなを護って! ここからは私が道を拓く!」
JUSCOが掠れた声で叫ぶ。彼女の視界は、今や全体の7割がデジタルノイズとエーテル数式に埋め尽くされ、色の識別すら困難になりつつあった。それでも、レバーを握る腕に迷いはない。
『マスター、我が魔力炉の同調率120%。――これより、最適解の駆除を行う』
ドォォォォォンッ!!!
ゼロの背中から蒼き光の翼が爆発的に広がり、巨大な「光の刃」となって周囲のビルごと近衛兵の軍勢を薙ぎ払った。一撃で数十機のロボットが融解し、美しい白磁の街に、地下世界と同じ黒煙と鉄屑の嵐が吹き荒れる。
「な、なんて破壊力だ……。でも、ジャスコ、無茶しすぎだ! 生体反応のグラフが完全に狂ってやがるぞ!」
通信機越しに叫ぶシンの声すら、今のJUSCOにはどこか遠く、水の中にいるようにしか聞こえない。
(耳も、あんまり聞こえなくなってきたな……。でも、まだ……お兄ちゃんを安全な場所に連れて行くまでは……!)
ゼロの胸部装甲の奥、昏睡を続けるFELIXのコクピットカプセルは、マスター・コードの絶対障壁によって完全に保護されている。だが、その兄を狙うように、上空から一筋の「黒い影」が超高速で降下してきた。
――ズ、ドォォォォォンッ!!!
ゼロの目の前の舗道が爆散し、すさまじい衝撃波が巨神の巨体を数メートル後退させた。
巻き上がる硝煙の向こうから現れたのは、これまでの純白の機体とは一線を画す、漆黒の重装甲を纏った異形のMS。
『――そこまでのようです。フェリックス准将を盗んだバグの娘、そして旧文明の遺物よ』
漆黒の機体から響いたのは、エレノアの、冷酷極まる声だった。彼女は中央評議会『ゼニス』が隠し持っていた、もう一機のオリジナルMSのコクピットから、冷たい眼差しでゼロを見下ろしていた。




