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第52話:反撃の光条

――ズ、ズガァァァンッ!!!

『プロトタイプ・ZERO』の背中から噴出した蒼きエーテルの翼が、暴風となって地底空間を吹き荒れた。18メートルの巨体は重力を無視して加速し、大破した『白亜の粛清艦』へと向かって一瞬で間合いを詰める。

『全艦、最大出力で迎撃! 距離を保ちなさいッ!!』

エレノアの悲鳴が通信回線に響く。だが、ゼロの圧倒的な推力を前には、上層世界の軍隊もただの標的(ターゲット)に過ぎなかった。

「ゼロ、あの大きい船の砲座を潰すよ!」

JUSCOが全天周モニターのコンソールを叩く。その瞬間、彼女の網膜にマスター・コードの全域演算が走り、粛清艦の全エネルギー経路が青い線となって透けて見えた。触れてもいない機械の構造が、手に取るように分かる。

『了解した、マスター。――破砕駆動(クラッシュ・ドライブ)

ゼロが右拳を突き出す。等身大の時とは比べものにならない巨大な鉄拳が、粛清艦の装甲板を紙切れのように引き裂き、内部の主砲制御システムを正確に粉砕した。

爆炎をあげて傾く巨艦。上層の絶対的な武力だったはずの艦隊が、今や赤子の手をひねるように解体されていく。

「な、なんて力だ……」

地底の瓦礫の陰で意識を取り戻したシンが、天を仰いで呆然と呟いた。

「あれが……本当に、俺たちのガレージにいたゼロなのか……?」

ルカもまた、大破した自警団の車両に寄りかかりながら、蒼く輝く巨神を見上げていた。その長銃を握る手が、微かに震える。地下世界のすべてを合わせたよりも強大な存在が、今、自分たちの味方として戦っている。

だが、勝利への咆哮をあげるゼロのコクピットの中で、JUSCOは奇妙な「異変」に襲われていた。

「あれ……? 痛くない……?」

JUSCOは自分の左手を見た。落下時に鋭い鉄屑で深く切ったはずの手のひら。そこからは血が流れているのに、なぜか温かさも、ジンジンとした痛みも全く感じない。それどころか、頭の芯が妙に冷え切り、視界に映るすべての景色がデジタルな「数字の羅列」に書き換わっていくような感覚がしていた。

『マスター、コードの侵食が始まっている。脳内のデータ流量を抑えてくれ』

ゼロの電子音声に、かすかな焦燥が混じる。

「平気、だよ……! まだ、お兄ちゃんが……!」

JUSCOは感覚の消えかけた手で強引にレバーを握り直した。

前方の金属床を深く穿ち(うがち)、FELIXの純白のMSが再び立ち上がろうとしていた。大破し、オイルと火花を吹き上げながらも、脳内ナノマシンに操られたその機体は、死神のような足取りでゼロへと迫る。

『……排除……世界ノ……調和ヲ……』

ボロボロの仮面の奥で、実の兄の瞳が赤く不気味に明滅していた。

「お兄ちゃん、目を覚まして! 私だよ、JUSCOだよ!!」

JUSCOの必死の叫びは、冷徹なシステムに塞がれたFELIXの耳には届かない。

救うべき肉親であり、街を滅ぼそうとした最大の敵。

JUSCOは痛みの消えた胸を締め付けられながら、18メートルの巨神の腕を、兄の乗るコクピットへと伸ばした――。

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