第50話:始まりのゼロ
―ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
第七居住区の地盤が真っ二つに割れ、数千、数万トンのクズ鉄と廃土が、底なしの暗黒へと崩落していく。
上層の『白亜の粛清艦』も、FELIXの純白のMSも、そしてJUSCOたちを乗せた装甲車も、すべてがその巨大な重力の渦へと巻き込まれ、真っ逆さまに墜ちていった。
誰も見たことのない、奈落のさらに底。
そこは、大崩壊前の旧文明が遺した最終防衛システム――『神聖ゼニス・コア』の最深部だった。青白い結晶体が不気味に明滅する広大な空間に、墜落した両軍の鉄屑が激しく火花を散らす。
「う、あ……みんな……!」
大破した装甲車のハッチを押し開け、JUSCOが這い出した。
周囲を見渡せば、チェイシーの重機も動かず、ルカやシンも意識を失って倒れている。そして彼女の目の前には、落下時の衝撃で全身の装甲が粉々に砕け、ブレインAIの光が消えかけているゼロの姿があった。
『マ……スター……。すま、ない……。我がフレームでは、もう……君を……』
「嫌、嫌だよゼロ!! 目を開けて!!」
JUSCOはボロボロになったスパナを握り締め、ゼロの剥き出しになったコアへとしがみついた。
――その時、暗闇を切り裂いて、あの純白のMSが立ち上がった。
片腕を失い、頭部装甲が吹き飛んだ凄惨な姿。しかし、コックピットの中のFELIXは、脳内ナノマシンの限界出力を受けて、完全に正気を失った「殺人マシーン」と化していた。
『バグ……排除……。システムノ……命令……ッ!!』
折れかけた光子のブレードが、容赦なくJUSCOとゼロの頭上へと振り下ろされる。
「――お兄ちゃん、やめてッ!!!」
絶望の淵で、JUSCOの口から無意識に叫びが迸った。それは、失われた血の記憶が、魂の底から引きずり出した言葉だった。
ピキィィィィィンッ!!!
その瞬間、JUSCOの胸の奥に眠っていた、父ダスティの究極の遺産――『マスター・コード』が完全に覚醒した。
彼女の身体から、眩いばかりの蒼いエーテル光波が爆発的に放射される。その絶対防護障壁は、FELIXの光子ブレードを完全に消滅させ、ドック全体のシステムを強制書き換えしていく。
『――マスター・コード、適合者(JUSCO)の生体ログを完全承認。リミッター、全面解除』
地底の底から、旧文明の重厚なシステム音声が響き渡る。
次の瞬間、ゼロの残骸が猛烈な勢いで周囲のクズ鉄、上層のナノマシン、そしてゼニス・コアのエネルギーを強制吸収し始めた。
ガガガガガガガガバキィィィン!!!
それは、等身大のロボットの修復などではなかった。
周囲の鉄屑を肉骨とし、青い光を血管として、それは見る間に巨大な「巨神の骨格」へと再構成されていく。
装甲が爆発的に膨れ上がり、天を突くような四肢が形成される。全長、18メートル。大崩壊前に外宇宙の脅威を打ち砕くために作られた、究極のカウンター兵器――『プロトタイプ・ZERO』の本来の姿が、今、100年の眠りから目覚めたのだ。
その巨体の胸部装甲が滑らかに開き、眩い光の繭――コックピットが、JUSCOの身体を優しく迎え入れるように包み込んだ。
JUSCOが初めてシートに深く腰掛け、コンソールに両手を触れた瞬間、ゼロの全システムが完全に同期した。
『――お待たせ、JUSCO。これより、我らの反撃を開始する』
モニターに映し出されるのは、18メートルの視点から見下ろす、かつてあれほど巨大に見えた上層世界の軍勢。
蒼き巨神のコックピットの中で、JUSCOは涙を拭い、前をしっかりと見据えた。
「行こう、ゼロ。……私たちの、本当の戦いへ!」
ドォォォォォンッ!!!
巨神の背中から放たれた蒼き光の翼が、地底の闇を完全に、眩しく消し去っていった――。
これで第三章は完結となります。




