第48話:最期の12時間
――カン、カン、カン、カンッ!
第七居住区のすべてのガレージから、狂ったような金属音が響き渡っていた。
上層世界から突きつけられた「12時間後の完全焼却」。絶望して座り込む時間は一瞬もなかった。街のジャンク屋、整備士、そしてただの住人たちまでが、手に持てるすべての工具を握り締め、外壁の補強へと走る。
「カイル、そこは二重装甲にしなきゃダメ! 上層のレーザーは熱線だから、間に廃油を挟んだクズ鉄板じゃないと一瞬で溶かされるよ!」
JUSCOの鋭い指示がガレージに飛ぶ。
彼女の顔は煤とオイルで限界まで汚れていたが、その瞳はかつてないほど鋭く、的確に街の防衛ラインを再構築していた。
『マスター、冷却ラインの結合率が88%まで回復。だが、左腕の駆動モーターはジャンクの代替品だ。最大出力をかければ、3分と持たずにギアが砕ける』
作業台の上で、ゼロが蒼いモニターを明滅させながら現状を報告する。
「大丈夫。3分あれば、あんたなら敵の戦列をこじ開けられる。それに、砕けたら私がその場で何度でも叩いて直す!」
JUSCOは迷わずスパナを振り下ろし、ゼロの新設された左腕のボルトを限界まで締め上げた。その不屈の背中を見て、絶望に震えていたシンも、ルカも、静かに闘志の火を灯していく。
「……ルカ。これ、使って」
JUSCOがルカに差し出したのは、父ダスティの古い工具箱の奥に眠っていた、未知の青い結晶体――高純度エーテル・コンデンサだった。
「それをあんたのレール・ライフルの加速器に直結させて。一発しか撃てないけど、上層のMSの光子防壁を、外側から『強制飽和』させられるはず」
「……最高のプレゼントだ。確実に、敵の喉元に叩き込む」
ルカは静かに結晶を受け取り、長銃のバレルへと組み込み始めた。
その頃、上層世界『カイゼル・シェル』の出撃ドックでは十数機もの純白のMSが、冷徹なシステムライトに照らされ、その鋭利な兵装を鈍く光らせて並んでいた。その先頭にFELIXの乗る最新鋭機があった。
コックピットの中で、FELIXは迫る作戦時刻のログを見つめていた。
(なぜだ。生体モニターの数値が安定しない……)
彼の脳内に埋め込まれたナノマシンは、常に「冷徹・最適」な感情を維持するはずだった。だが、あの地下の少女の、スパナを握り締めた激しい瞳が、どうしてもシステムから消去できない。
『フェリックス准将、間もなく降下シーケンスに移行します』
通信回線から、エレノアの凍りつくような声が流れる。
『今回は徹底的な「大掃除」です。バグの保持者を含め、奈落のすべてを分子レベルで消去しなさい。例外は認められません』
「……了解。システム(ゼニス)の命令に従う」
FELIXは胸の疼きを強引にシャットダウンし、操縦レバーを握り直した。
――チク、タク。
無情にも、世界の境界線を示すタイマーが【残り60秒】を告げる。
奈落の底で、歪なスパナを構えるJUSCOと、再び立ち上がった蒼鉛の巨体。
天上から、世界のすべてを焼き尽くすために舞い降りる純白の輝きは刻々と近づいていく。




